59話「永遠の楽園へ行ける!? 噂飛び交う港町!!」
オロナーン大陸。
リョーコがイケメンキャラの説明に入れただけの地名。しかし、何らかの補正が働いたか、台形のような大陸として存在していた。
元の世界で言えばオーストラリアみたいなもんだ。
しかし面積は約二四〇万平方キロメートルと、結構小さい。
参考に言うとオーストラリア大陸は約七六九万。日本は約三八万。
「キャベツー港街。これも考えた?」
「港町なんて考えてないし、つーか関係しているキャラいないからー!」
賑やかな港街。ナッセの問いにリョーコは困惑気味だ。
「ナッセのアロンガ魔法都市と同じく、都合が良いように現れた国ね」
ヤマミは髪をかきあげながらゆっくり見渡す。
大海に面している、そこそこ大きな港町。魚臭いのも含め、潮の香りがする。
大小の船が帆を広げて寄港しているぞ。
……やけに人が多い気もする。
「あっちに大きな灯台があるぞ」
「へぇー。風情があるわね」
「……一体誰が具現化してるのかしら?」
怪訝なリョーコはブツクサ呟く。
「というか、アロンガ魔法都市も当たり前のようにあったし、まさか……」
「ええ。例の『“結果”が先に生まれて、後から“過程”が組み込まれる』状態ね」
「やはり量子力学か……!?」
二人の会話にリョーコはブルッと久しぶりに怖気が走った。
「普通は……“過程”を経て“結果”が生まれるのが当たり前だけど……。その逆が起きてるのよね……」
考えてみれば一致する。
ナッセもヤマミもリョーコの自作漫画の設定通りにされてる。
本物の勇者の血筋として組み込まれたナッセ。公爵貴族として組み込まれたヤマミ。
そして取り巻く家族も当たり前のように、前々から関わっていたみたいな記憶を持っていた。
「世界地図……探してみるわ」
「ああ。その方がいい。多分オレとリョーコの考えた地形が合体してると思う。まだ追加されないとも限らんし……」
賑わう人々が行き交う公路を散策し、めぼしい店を探す。
露店も並んでてアクセサリーやら武具やら並べているのもある。
地図が置かれているのが目に入る。
「あ、あったぞ」
「この地図くれる?」
「へぇ? 二五〇〇キンですぜ」
古びたような茶色の紙。それを手に取ると確かに大陸が四つあった。
東側にナセロンと初めて会ったガロンナーゼ大陸。その南にナセロンの故郷であるシャーバ列島。大海を挟んで中央に世界大会が開かれたオリンパス大陸。
そして西側の北側で王族貴族に組み込まれて故郷にされたラブチョコレ大陸。南に現在地であるオロナーン大陸。
「えー!? もっともらしく組み込まれてるー!?」
「これまで気にせず旅してたけど、オレたちがまだイレギュラー的存在だった時はきっと西側は存在してなかったかもな」
ヤマミは目を細めながら地図を丸めて収納本へ入れた。
なぜなら北極南極に位置する寒冷地帯が見当たらなかったからだ。単に誰も行けないし、住めないから記されてないだけかもしれない。
「観光できるもんがあるのか? やけに人多くないかぞ?」
「じゃあ食堂へ行ってみましょう」
「あー、賛成賛成! 腹が減ってたんだよねー!」
呑気なリョーコを、ジト目で見やるナッセとヤマミ。
……というのも、ここまで騒がしいと人々の会話が聞き取りにくいからだ。
シーフードが美味しいと言われる食堂で、ナッセたちは丸テーブルに着いた。
「……ようやく『永遠の楽園』まであと少しだ」
気になる会話が聞こえてきて、ピクッと反応してナッセとヤマミは耳を凝らす。
そうと知らないリョーコは「どんな料理にしようかなー」とメニューを開いてルンルンしているぞ。
「このオロナーン大陸中心部に新しくできた国があるだろ?」
「ああ。毎年毎年『永遠の楽園』へ目指して集まっていくな」
「その名も『ドラグストアル王国』……」
右側の冒険者三人組が話している。
今度は左側の少し遠い席で気になる会話が聞こえる。
「あ~も~!! ここから遠いのが嫌なんだよな~!!!」
「仕方ないだろ。だが、もうこんな悩みなんて永遠になくなるだろうぜ」
「ああ。俺はもう人生に疲れたよ……」
「うん。散々だったよ~」
「フッ! 確かにな……、あのドラグストアル王国で満月が来るのは一週間後。それに間に合えばいい。間に合いさえすれば、全ての苦痛や悩みが存在しない『永遠の楽園』へ導かれる……」
傍目で見やれば、痩せこけているような観光客で俯き疲れている顔が窺える。
ここに来るまで苦労したのが分かる。
「だが! きな臭いな!!」
「ああ……」
今度は正面向こうの騎士らしきイケメンが三人。
これもリョーコが作ったキャラか知らんけど、ただならぬ気配が醸し出されていて相当な強さだと察する。
「ガロンナーゼ大陸のギルガイス帝国より遥々ここまで来れた。一週間後に精鋭の騎士団を率いてドラグストアル王国へ突入する」
「聖騎士アーサー隊長……」
赤髪を逆立てたイケメン隊長がアーサーのようだぞ。しかも聖騎士?
「聖騎士グランハルト隊長も聖騎兵アレフ隊長も、こうして俺と一緒に来たのは他でもない」
立て続けに聖騎士って言い出してナッセは見開く。
まさかナセロンのようにクラスチェンジできるのか、それとも肩書きだけか……?
「ああ」
「うむ……」
茶髪を逆立てて額周りの翼を模した輪っかの聖騎士がグランハルト。
赤毛たてがみの傷だらけの馬に乗った身軽な白銀鎧の聖騎士がアレフ。なんで食堂で馬に乗ったまま二人の聖騎士と何気なく会話しているのか知らんけどさ……、誰か突っ込んでくれ。
特に気にしてないのかアーサーはキリッとした顔で話を続ける。
「ギルガイス帝国の威信にかけて、我ら最強の聖騎士が『永遠の楽園』の影に潜む七つの魔王の正体を暴き、これを討伐してやるのだ!!」
ナッセとヤマミは「!!!?」と見開く。
まさか、ここで七つの魔王を聞くとは思いもよらなかった。あの煉獄竜王フレアネスドと同等の魔王がこの大陸にもいるらしい。
やはり裏で暗躍しているのか……?
「ねー決めたー? あたしエビチャウダーにする」
そうと知らない呑気なリョーコは満面の笑顔だった。あのさぁ……。




