58話「創作にありがちな不完全設定が補正されている謎」
ホワイデー王国が用意してくれた大きな船が悠々と大海原を進んでいる。
「明日には着きそうね。オロナーン大陸」
船に揺られて青い地平線を眺めるナッセとヤマミ。
思わぬ異世界転移で、見ず知らずの世界を冒険するだなんて思わなかった。しかもナッセとリョーコの合作による異世界。
「そもそも、さっきまでいたラブチョコレ大陸もオロナーン大陸もオレの漫画には存在しねぇからな。未知の領域だぞ」
「リョーコが設定集で書いてたわよね……?」
「オレの作った世界にリョーコの世界が混ざってるんだとしたら、世界地図どうなってんだろ?」
「それは気になるわね」
例のガトリング女子高生とナセロンと出会ったのがガロンナーゼ大陸。ナセロンの家族がいたバスターモンド王国のあるジャーパ列島。世界大会が開かれたのがアロンガ魔法都市のあるオリパンス大陸。
ナッセが描いた漫画では、この二つの大陸を中心に列島や諸島、群島などで構成されている。
そこにリョーコの世界設定が加わった形だ。
「リョーコは? 船酔い??」
「……具合が悪いって言ってたわ。でも」
とある一室。丸い窓には大海原が覗ける。
リョーコは両ほっぺに手を当てて「どうしようどうしようどうしようどうしよう」と焦りまくっているぞ。
冷や汗ダラダラで落ち着かない。
「ナッセとヤマミにはああ言ったけど、本当はイケメンキャラのステータス欄に出身地の地名とか書いてるだけで、具体的な世界とかはろくに書いてないのー」
そう、彼女にとってオロナーン大陸へ行くまでで小説はエタっている。それ以降はなーんも考えていない。
「設定集だけなのに、なんで大陸が具現化してんのよー!!」
ベッドの上でゴロゴロ悶える。
「はー……。そもそもあたし飽きっぽいから、序盤で放置してる作品多いし……。こんな事、ナッセとヤマミに言えないよおぉ~~~~」
もし正直に言えば呆れられるに決まってる。それか笑われる。
するとガチャリとドアが開けられて真顔のナッセとヤマミが入ってきて、リョーコはビクッと飛び上がる。
「隠してても仕方ねぇぞ。巻き込まれたんだし、どうやって元の世界へ帰るか方法見つけないとな」
「ええ。エタ作品が多いのは気にしないでおくわ」
「え? え?? えええ~??? 聞いてた!?」
「聞くもなにも……」
なんとベッド下からヤマミの黒い小人がニュッと出てきた。
リョーコは目を丸くし、これまで赤裸々に聞かれた事に絶句……。
「ヤマミぃ~~!!! プライバシー侵害よおおおおお~~!!!!」
既に泣きそうだ。
「地名だけで細かい設定ねーんだろ? オロナーン大陸とかエーテリン王国とか……」
「むう……。そうなんだよね……」
これは第三のイケメンであるショタエルフキャラの説明に必要な地名。
「こうして自然に船で行き交いしてるから、地名だけの大陸も国も具現化されていそうね」
「ああ。オリンパス大陸はともかく、アロンガ魔法都市自体オレは考えてねーしな」
「なんかの力で補正されてるって事ー??」
「かもね……」
とりあえず合作ではあるが、今はリョーコの作った世界の領域。
リョーコはオロナーン大陸へ向かう以降のストーリーは考えていない。後はキャラの設定だけが充実しているだけだ。
「リョーコ。第三のイケメンってどんなヤツだ?」
「エーテリン王国の第四王子でありショタエルフのアルベルト」
「王子様、ね……」
「なによぅ!! 悪いかー!!!」
目を細めるヤマミにリョーコはプンスコー。
イケメンの王子様っていえば女性としては憧れの存在だ。イケメンに囲まれてちやほやされるのも理想の展開だろう。
リョーコも例にもれない。
「バグってハリボテの大陸が出てきたりしてな……」
「ゲームみたいに?」
ポリゴンで作りかけのようなのが出てくる事を想像してしまった。
青空一面に地面や木のパーツとかが散らばっていて、キャラが一体もいない不気味な所。踏み外すと永遠に下へ落ち続けるとかバグ有りそうな……。
「やめてよ。怖くなってくるじゃないー」
頭を抱えて青ざめるリョーコ。
そんな変な想像とは裏腹に、翌日で普通に大陸が広がっていて港町へたどり着いたのは言うまでもない。
一方で、妖魔界にある大きな屋敷。破損したような感じだが、そういうデザインだ。
四魔貴族と妖魔神ズクケィールードンが住まうところである。
もっともその四魔貴族の一人であるアウトナーとショウヨウ卿との戦いで、更に破損が進んでいるが……。
「逃げ帰った魔貴族どもは調理して戴きました。苦悩や絶望を抱えた魔貴族は格別に美味でした」
浮いている大きな三日月の弓の上でズクケィールードンが冷酷な事を告げていた。
せっかく自ら聖女バリアーを解いてあげたのに、三人に四魔貴族まで撃退されて何もできないという歴史的大敗を喫したので処分したという事だ。
尖った柱の上でズクケィールードンは「フフフ……」と冷笑する。
暗雲がたちこめる床で、デブとノッポ二人組の魔貴族が跪きながらビビっていた。
「それはそうと、男爵魔貴族キンオーク、ディスア。もういい下がっていい。ゆっくり休んでおきなさい」
「は、ははぁ────っ!!!!」
深く頭を下げるフードをかぶって全身を隠す魔貴族の二人組。
大屋敷を出た後、二人は尖った岩山の集群を駆け抜けて、切り立った丘にある小さな屋敷へ帰っていった。
小さな屋敷といっても、三階建てで四件の住宅を合わせたくらい大きい。
「フー、緊張するわ」
「全くだ」
フードを脱ぎ去る。
丸メガネをかけたデブ魔貴族キンオークと、ブサメンで出っ歯が目立つノッポ魔貴族ディスアだ。
「つーかさ、バレンティア大臣もリアバクシ公爵ももう協力してくれなくなったしな」
「あームカちゅくわ。ボクちんもうアテねーぞ」
これもリョーコが考えた噛ませ犬的な小物キャラだ。なんか悪巧みして主人公に嫌がらせのようなものをしては返り討ちに遭うといった感じのな。
「あのショウヨウ卿も、物質界に夢中で聖女にぞっこんだとさ」
「あいつイケメンでムカツクでちゅ~!!」
「それより多くの魔貴族が処分されたし、四魔貴族も倒されたし、俺たちが階級アップするかもだぜ」
「そんな話来なかったでちゅ~」
「うう……。まぁ、俺ら小物だぜ。しょうがねぇよ。身分相応に諦めるしかないよな……」
もはや妖魔神にも見向きされないと、二人はしょぼんと俯いた。
しばし赤い満月が窺える漆黒の空を眺めていたズクケィールードンは薄ら笑みを浮かべていく。
もう四魔貴族も倒されて、有力な魔貴族がいないというのに取り乱す様子はない。
「元々、妖魔界は永遠ともいえる悠久の時で無意味になるまでに腐りきってしまった……。優秀な魔貴族も見限って出て行ってしまい、他の愚劣な魔貴族と四魔貴族はぬるま湯の生活に溺れて虚無な世界となりました。しかし今回は久々に楽しめましたよ……」
興奮するかと思えるほど濃縮された一瞬が恋しくてたまらない。
長く長く薄く生きるよりは、心が生き生きと滾る。
妖魔界の今後や、残っている魔貴族など、妖魔神にとってはどうでもよかった。ただ!
「我が宿敵の皇帝ライティアス!!! 嗚呼、久しぶりに雌雄を決したくなってきた……!!!」
狂喜に顔が歪んでいった……。




