56話 「妖魔大軍勢の歴史的大敗!!!!」
四魔貴族が全滅したからなのか、妖魔大軍勢は勢いを失ってナッセたちの獅子奮迅になすすべがなかった。
明らかに敗戦濃厚だと、ズクケィールードンは悟った。
「これは予想外だったよ……。まさかあの三人が強いだなんて思いもしませんでしたね……。中でもあの二体は底知れない力を持っている。残念ながら敗戦、完敗だろうねぇ」
「どうしますか? まだ相手したいのでしたら付き合ってあげますよ?」
「フッ! その誘いは光栄ですね」
聖女ピーチラワーが杖で構えたまま臨戦態勢で問うと、ズクケィールードンは丁重に頷く。
すると遥か上空に時空間の輪が広がって宇宙の風景が覗いてくる。
妖魔神ズクケィールードンは急上昇していって、聖女ピーチラワーも浮いて追いかける。
「聖女さま、この妖魔神めをご指名してくれて感謝致します。ではご招待しましょう。……深淵殿造」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……!!!
重々しい威圧が席巻し、広がってくる宇宙をバックに妖魔神は冷徹に笑みながら、緩やかに両腕を広げて見せる。
ナッセもヤマミもリョーコも吹き荒れてくる圧倒的な威圧に振り向く。
まさかの大ボスキャラに驚くしかない。
「リョーコ、あんなのが登場してくるの!?」
「全然展開が違うよー!! この時点では出てこない!! こいつラスボスの予定だからー!!!」
「そのラスボスが急に現れたって事かぞ……!?」
そして同時に悟った。コイツが現れてたせいで聖女バリアーが張れなくなったのだと。
「大侵攻など、私にとっては前座ですよ」
「あんたッ!!!」
「多少、地図を書き換える事になりますがご容赦を……」
上空の『深淵殿造』は確かに星々煌く宇宙ではあるが、赤紫に輝くもので普通とは全く違う。
三日月の巨大な弓の上で妖魔神は上げていた手を振り下ろした。
「ミーティアル・デストラクション・アビス!!!! 怨ッ!!!」
赤紫の星々が流れ星となって一斉に急降下を始めた。
大気を震わせて巨大化していく流星が、魔貴族を巻き込んで貫通して次々と粉砕。味方を味方とも思わぬ妖魔神の冷酷さにナッセたちは「あいつ……!!!」と怒りを滲ませた。
「攻撃無──」
「ナッセ待ちなさい!! ここは私が引き受けます!!」
ナッセが掌をかざすと、聖女ピーチラワーが呼び止めてきたぞ。
代わりにと聖女は神々しい杖を振りかざして、光り輝く台風が吹き荒れて赤紫の流星群をことごとく弾いていく。
光属性を練り込ませた風魔法だぞ。
「聖技・八風神雲旋!!!!」
広大な王国を丸々包むほどの聖なる台風が螺旋を渦巻いて、流星群をも跳ね除けている。
弾かれた流星群はあちこちで岩盤を深く抉るほどの大爆発を起こしていく。
その一つ一つが山をまるごと吹き飛ばせるほどの破壊力だ。
ドガン、ドガン、ドガガン、ドガン、ドガァン、ドガガ、ドガガン、ドガンッ!!!!
なおも激しい地響きと衝撃波が荒れ狂い、巻き上げられる岩盤と木々。
「さすがは聖女さま。大したものですね……」
「その程度、なんでもありません!!!」
「それでは、次はどうでしょうか? 貴方さまも間違いなく満足していただけるでしょう」
ナッセたちは絶句してしまう。
なんと、今度は赤紫の巨大な木星が震撼を呼びながら、迫って来るではないか。
ズズズズズズズズズズズズズズズズ……!!!!
「デスマッシーアハ・ゼウス・アビス!!!! 怨ッ!!!」
圧倒的巨大な木星が丸々落ちてくる絶望的状況。
ナッセとヤマミは慌てて手を繋いで『連動』したが、それでも聖女ピーチラワーは「ダメです!!」と拒否。
「聖奥技・九極神雲嵐ッ!!!! 望ッ!!!」
大規模の聖なる台風が一気に獰猛な嵐となって木星へ吹き荒れていく。
荒々しく破壊的な烈風が唸りを上げて木星をも押し上げようとする。それは天災ですら遠く及ばぬ風速だ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!
地響きが絶えず、周囲からは捲れた岩盤の破片が舞い上がっていく。
「ど、どっちも四首領クラスじゃないかぞッ!?」
「ええ!! 戦闘力にすれば確実に一〇〇万オーバー!!!」
「そ、そんな設定してないからー!!!」
まさかのハイレベルな戦闘にナッセもヤマミも驚愕するしかない。
妖魔神と聖女を設定したリョーコも、そこまで考えていなかったようで涙目で慌ててる様子だ。
なおも耐えず震撼が続き、轟音が鳴り響いている。
「怨ッ!!!」
「望ッ!!!」
未だ妖魔神と聖女が必死に競り合っている。
赤紫の木星と聖なる烈風が一進一退と押し返ししていて、その余波が周囲に震撼と衝撃波が荒れ狂っていた。
すると二つの力場が螺旋を描きながら急収縮してフッと消えた。
更に巻き戻されるように荒れた地がシュババッと元通りになっていく。
「え……? 一体なにが……!?」
今までが嘘のように静まり返っているぞ。
ナッセとヤマミとリョーコはキョロキョロ見渡して、とある人影が見えた。
「こんな夜更けにケンカはダメだよー」
なんと夜空で黒いシルエットの支配神ルーグが浮いてて「めっ」としてきたぞ。
あの世界大会を開催していたオチャメな性格の魔王っぽいやつだ。
聖女はポカンとしている。
「ク……!! きさまは……!!! 世界三柱神の支配神ルーグ……!!!?」
「久しぶりよのー。ズク君」
妖魔神はルーグを睨むが、当の本人はにこやかしている。
とはいえ分が悪い。
この騒ぎを聞きつけて支配神ルーグがやってくるのは薄々分かっていたが、来るのが早すぎた。
「もうお開きにしてくれるかな? ちょい騒ぎ過ぎて近所迷惑だよー」
「そうさせてもらいますか。では、ごきげんよう」
不機嫌そうにズクケィールードンは裂いた空間の中へ入り込み、ジュワジュワ亀裂を閉じていった。
圧倒的威圧で席巻してたのが静まって、聖女は「ふう」と安堵する。
「せめて妖魔神まで倒せれば良かったのですが」
「そんな物騒なこと言わんといてー」
首を振ってルーグが困り顔を見せてくる。
「世界三柱神の中でも最強格の支配神ルーグ……。まさかこの場を収めに来るなんて……」
「ともかく、もう終わりね」
「もー、めちゃくちゃだよー!!!」
リョーコは頭を抱えて誤算だったと嘆く。
もはや数少ない妖魔大軍勢は撤退を余儀なくされた。歴史的大敗である。
それを見届けてホワイデー兵士たちは歓喜に打ち震えていく。
「「「「終わったあああああああああああッ!!!!!!」」」」
王宮の屋上へ降り立つナッセとヤマミ。妖精王を解除してヒトに戻る。
「はー、終わったぞ」
「ええ」
「もう疲れたー!」
帰ってきた三人に呆然とするイケメン騎士。
後からやってきたホワイデー国王と王太子ソロアが感嘆を漏らしてきた。
「今回の魔貴族による大侵攻には驚いたが、それを撃退するとは王太子ナッセ殿、さすがだな」
「ええ。もしあなた方がいなければ、国の存亡にかかわる惨劇になっていたでしょう」
するとリョーコが王太子ソロアに「ねぇねぇ見てたでしょー!!」と得意げに胸を張る。
「私はやはり、バレンティア王太子と友好を深めたいです。是非」
キラキラと敬意の眼差しを向けてナッセと握手していて、リョーコには全く見向きもしない。
「なんでなのよぉ~!! なんであたしを無視するわけぇ~~!?」
「残念だったわね」
うるうるとギャグ泣き顔をするリョーコの肩に、ヤマミがポンと手を置いた。
結局、仲間に加わるであろうイケメン二人目もフラグが立たなかったぞ。
朝日が昇る頃、ホワイデー王国は戦勝で賑わったのだった。




