54話「四魔貴族戦!!! 災厄の皇爵アウトナーの招待!!」
まさか今夜だけで四魔貴族が三体も倒されたのだ。
唯一残ったリーダー格の災厄の皇爵アウトナーは後しざりする。
「な……なんて事だ…………!!! この数万年、決して序列が変わらなかった我らが四魔貴族がッ……!!!」
悪夢でも見ているのか、とワナワナ戦慄に震える。
これまでも、そしてこれからも永遠に等しく妖魔界のトップとして、妖魔神ズクケィールードンさまの幹部として君臨し続けるだろうと思ってきた。
吸魂の皇爵キュウジンサー、悪食の皇爵フォーエル、妖龍の皇爵ビュオネス。
腐れ縁として繋がっていた三体が一瞬にして存在を消した。
「……我も出陣するべきか? いや……!」
唇を震わせながら青ざめている。
ナッセとヤマミとリョーコは別に苦戦して満身創痍というわけでもない。四魔貴族をも圧倒するほどの戦闘力で撃破してきたのだ。
四魔貴族として切り札である『深淵殿造』まで展開したのに歯が立たなかった。
それを自分一人で覆せるのか? 否、不可能だ……。
「妖魔神ズクケィールードンさまはカッカしているに違いない……。どう言い訳すれば……」
ガタガタ震えてて、動揺を胸中に満たしている。
そんな折、誰かが踏み込んできた。ザッ!
「もうオシマイのようだな……?」
「はっ!!? き、貴様……ヒト!!? いや、まさかテンショウッ!!?」
うろたえているアウトナーは振り向き、一瞬ヒトかと見間違った。
黒髪二分けの長身イケメン。
そう、リョーコにネタバレされて出て行ったテンショウなのだ。澄まし顔でアウトナーを見下ろす。
「クク……!!! ショウヨウ卿……!!! ちょうどいいところに来てくれた!!」
天の助けと思ったアウトナーは立ち上がり、テンショウへと手を差し出す。
「お前も我らが四魔貴族として入るのだ!! 貴殿も高位魔族。かなりの実力を備えている事を我らも評価しておったぞ」
笑みをこぼすアウトナーに、テンショウは相変わらず澄まし顔で黙っているまま。
それでも今の状況で仲間に引き入れるべきと歩み寄るアウトナー。
「断る!!!」
「は……!!?」
きっぱり断られて、笑顔のまま強張るアウトナー。
「聞き間違いか……!? なんて言った!!?」
「もはや腐れ切った妖魔界に未練などないんだ……。物質界で輝く聖女さまや麗しいリョーコを眺めている方が心を満たせる。生に活き活きしてる世界の方が尊いからな」
「きさま…………!!!」
アウトナーは怒りを剥き出しに歯軋りする。
ボサボサの赤髪ロングが炎のように揺らめき、六つの魔眼がギギギギと見開く。
「招待してやるッ!!! 我が『深淵殿造』になッ!!!! 怨ッ!!!!!」
アウトナーの周囲から空間が歪んでいって、テンショウもろとも亜空間へ呑まれた。
あちこち魔眼がギョロギョロしている赤い雲が漂う闇の世界。
凄まじい圧が押し寄せるが、テンショウは涼しい顔をしたままだ。
「裏切り者は楽に死なせはせんッ!!! 死ぬ方が遥かに良かったと思うくらい地獄を味えッ!!!」
アウトナーが六つの魔眼を凝らし、赤い光線を放つ。
それはテンショウの左手を照らす。すると赤が染み込んでいって激痛が走る。なんと手が赤くなっているではないか。
ブルブル震えて動かない。感覚もしない。
「なに……!?」
「ただの汚染じゃないぞ!! 貴様を全て真紅に染めた後、我が領域で永遠の奴隷になるのだッ!!!」
「クッ!!! 命を刈り、魂を貪れ!!! 我が深淵たる象徴となりし闇の武具!!! 冥獄王の黒鎌!!!!」
真紅に染まって動かぬ左手を、漆黒の鎌を具現化して断ち切る。そしてニョキッと再生。
「要するに光線を浴びなければいいだろう」
「そうだろうよ!!! 誰だってそうするだろうよ!!! だがなぁ!!!」
なんと周囲の魔眼から、血液のような液体が漏れて人型を取っていく。
見慣れたような容姿に象っていくのを見て、テンショウは見開いた。
「二三〇〇年前の勇者ジョダン!!? そちらは四〇〇〇年前の魔貴族である魔光帝ジャネ!!? しかも一万二〇〇〇年で最強と言われた帝王エゾー!!! 二万年前の五大英雄最強のフッザケ!!! 五万五〇〇〇年前に息絶えたという旧四魔貴族最強のルナア!!? まさか……ッ!!?」
「よく知っているな!! まるで偉人博士だ!! そう、これまで取り込んできた強者を我が『深淵殿造』に永住させたのよ!!! 貴様も直にそうなるがなッ!!」
ぞろぞろと強者が大勢で押し寄せてくる。
勇者ジョダンが銀輪剣を具現化して斬りかかる。幾重も剣戟を繰り出してきて、テンショウは冥獄王の黒鎌でガキンキンッと捌いていく。
後ろから魔光帝ジャネが両肩のドクロから赤い光線を放って大爆発させる。
ドゴゴォォ……ッ!!!!
広がっていく爆風から、テンショウが飛び出す。
「取り込んだ我が英霊奴隷は生前の強さと能力をそのまま再現しているのだ!!! 怨ッ!!!!」
帝王エゾが杖をかざして幾重の魔法陣を並べて一斉射撃を繰り出す。あちこちで爆発の連鎖が広がっていく。
ドッドドドドッドドドッドッドッドドドッドッドドドドドンッ!!!!
今度は英雄フッザケが六つの腕を具現化して六本の槍を縦横無尽に振るう。
テンショウは冥獄王の黒鎌一本でズガガガガッと渡り合う。旧四魔貴族ルナアは笑みながら手をかざすと重力の柱がズンとテンショウを地面に叩きつけた。
「ぐぐっ……!!!」
「動けまい!!! それでは取り込むとするかっ!!」
六つの魔眼で焦点を合わせた光線が再び放たれた。
「ククッ!!! しょうがねぇよな……!!!」
ヴンッと斜めにノイズの膜が流れ、テンショウは死神みたいに破けた黒いマントをはおう銀髪ロングのイケメンの姿へと変貌した。
黒鎌を横薙ぎに振るって光線を散らす。
「この本来の姿でなら重力の影響は受けない」
「ま、まさかッ!? 魔貴族ショウヨウ卿ッ!!? なんて威圧だ!!?」
アウトナーはさっきまでと違う圧倒的な威圧に戸惑う。
ショウヨウ卿は銀髪のイケメンで残忍な笑みを浮かべて「フフフ」と漏れる。
冥獄王の黒鎌をクルンと踊らせて反射光を煌めかす。
「我が冥獄王の黒鎌……、仇なす全てを摘み取れ!!! 怨ッ!!!!」
冥獄王の黒鎌で横薙ぎ一閃、全てを赤く染めながら周囲の強者の首が飛ぶ。
まるで各々、的確に首を刈り取ったかのようだ。
「ばか……な…………!!?」
もちろんアウトナーの生首も弧を描いて飛び、地面へバウンドした後に転がっていく。
それをショウヨウ卿は足蹴して止める。
「我が繰り出す一閃、いかなる者も避けられんよ」




