51話「四魔貴族戦!!! おまえとは相性最悪だぞ!!!!」
ナッセとヤマミはそれぞれ、キュウジンサーとビュオネスの亜空間へ招待されたぞ。
それは『深淵殿造』。四魔貴族が自身で作り出した都合の良い空間であり、万能と無敵を誇ると言われている。
これに招待されて、帰って来れたやつはいないらしい。
ナッセは気持ち悪いドロドロした空間で、キュウジンサーと対峙している。
「大した者ですね……。ここにいるだけで下等生物なら数秒で生気を吸われてしまうというのにねぇ……」
「確かになんか吸われてる感覚はあるなぞ」
「そこそこ耐性があるようだが、ジワジワ吸われているんですよねぇ……。ククッ!!」
「長くは持たないって事か……!?」
「そおだよぉー!!!」
キュウジンサーが蠢く生きた大剣を振りかぶって飛んでくる。
ナッセも太陽の剣でガギィンと交差させて受け止めた。瞬間、周囲に凄まじい衝撃波が広がって亜空間が震える。
「ヒエッヒエッヒエッ……、じわじわ地獄を味わいたまぇ……」
巨体のキュウジンサーは卑しい笑みを浮かべて、変幻自在の剣戟を放つ。太刀筋がグネグネ不規則に走ってくる。
ナッセも気張って太陽の剣で捌いていく。
ギィン、ギンギン、ガギィン、ギギン、ギィィン、ギンッ!!!!
嵐のような剣戟が幾重に繰り出され、周囲に震撼を何度ももたらしている。
その時、切っ先が曲がってナッセのほおを掠って血を噴かせた。
「フッ!!!」
「む……?」
なんとほおについた掠り傷から血がどんどん流れ出していくではないか。
咄嗟に手で塞いでも流れ出す流血は止まらない。
この時、キュウジンサーはズキズキと鈍い痛みが全身を走り始めたが、気のせいと思って大笑いする。
「ヒャハハハハハ!!!!! 一滴残らず絞り尽くしてやるぜぇー!!!!」
「ああ、そういう事なら……」
手で塞いだまま回復魔法の光を灯らす。パアッ!
「無駄だ無駄無駄無駄だぇー!!!! ここでは回復魔法なぞ効果を発揮できないのだよぉーッ!!!」
シュウウ……、なんとナッセの傷が癒えてしまう。
それに目を丸くするキュウジンサー。有り得ない現象だと絶句するしかない。
これまで傷を治せず、焦りながら苦しみながらジワジワ死んでいくしかない下等生物を見てきた。切羽詰って命乞いしながら地獄を味わう馬鹿な獲物も見てきた。
多種多様の阿鼻叫喚を見てきたキュウジンサーにとっては有り得ない事だった。
「ば……馬鹿な……!!? い、今まで……そんなこと一度もッ……!?」
「んー」
澄まし顔のナッセは後頭部をかく。
「言ってなかったっけ? オレが光の妖精王だって……」
浄化系に秀でた光の妖精王には、邪念こもる呪いや病魔などを受け付けない。
だからこれまで生気があまり吸われず、容易く傷が癒えたのだ。
これほど腹立たしいものがあるか、とキュウジンサーはビキッとキレて歯軋りしていく。
「ふざけるなああああああああッ!!!!!」
怒り狂ったキュウジンサーは変幻自在の激しい剣戟を繰り出す。数千数万と襲い来る太刀筋をナッセはことごとく捌ききっていく。
「何が光の妖精王だぁ!!? ああ?? そのふざけた存在なんなんだよぉ!!!? 死ねッ死ねッ死ねッ死ね死ね死ね死ね死ね死いいいいいいねえええええッッ!!!!」
それでも執拗に切り刻むように苛烈な剣戟を繰り出す。
キュウジンサーの持つ生きた魔剣ソウルイーターソードは、刀身が自由に曲がったりできる為、読めない太刀筋で敵を追い詰めてきたのだ。
だが、中々切り崩せぬ事に少しずつ脅威を覚えていく。
「な……なにッ!? 貴様……未来でも見えているのかッ!!?」
「おまえさ、自分より強い奴と戦った事ねぇだろ?」
「なッッ!!?」
「弱い者イジメしかできない剣技なんて、相手にならないぞッ!!!」
バキィンッ!!!!
ナッセは渾身で振るって魔剣を砕き、キュウジンサーをも「グアッ」と吹っ飛ばす。
咄嗟に空中で体勢を整えて、ナッセをキッと睨むが、いない。気づけば上から迫ってきていた。
ゾクッと怖気が走ってキュウジンサーは見開く。
「フォールッ!!!!」
キュウジンサーの頭上を打ち、そのまま急降下してドロドロの床へ叩きつけた。
しかしズズズズ……と床へ吸い込まれていった。
今度はあちこちから複数のキュウジンサーが出てきたぞ。
「ヒャハハハ!!! ばぁーかめぇ!!! この空間は私自身でもあるのですよぉー!!!!」
「この空間自体が本体って事は……、もう…………」
するとキュウジンサー自身の空間に異変が起きていた。ウゴゴゴ……!!!
「く……!!! だが、な、なんだ!? 全身に痛みが……?」
まるで猛毒に侵されるかのように、ジワジワ体内に苦痛が広がっていくのを感じる。
全員のキュウジンサーは揃って胸を押さえて「あぐぐ……ぐぅ……!!」と苦悶に苛まされていく。
「な……何をした……!!?」
「何って? お前自身がやってんだろ??」
「ぬ……??」
「この空間で常に流血や生気を吸い込まんとしてるって説明してただろ? オレに耐性があるから、そっちの進行が遅くなってるだけで……」
「ハッ!!?」
キュウジンサーは気づいた。光の妖精王の生気や血にも浄化作用がある。
そんなもんを吸い寄せてたら満遍なく体内に取り込まれて、逆に傷ついてしまう。
邪悪な魔貴族であるキュウジンサーにとっては猛毒だからだ。
「最初っから詰んでいたぞ。おまえ」
「なッ……、ぐぐぅッ…………!! く……苦しいぃぃッ!!!」
「今まで同じように苦しませて殺してきたんだろ? 因果応報ってやつだぞ」
「うっ……うるさああいッ!!!」
なんとナッセは周囲から光の雫を収束させている。太陽の剣は徐々に肥大化して、銀河を模した超巨大な大剣へと変貌を遂げていく。
凄まじく圧倒的な光の威圧に、キュウジンサーはビリビリと気圧されていく。
「これが、おまえに虐殺された人たちの恨みだと思え!!!」
ナッセは銀河の剣を大きく後ろへ振りかぶって、カッと鋭い眼光を走らせた。
複数のキュウジンサーは怒り任せと一斉に飛びかかる。
「こ、このメシマズ野郎があああああッ!!!! 怨ッ!!!」
「三大奥義が一つ『賢者の秘法』!!! ギャラクシィ・シャインスパーク!!!!!」
全てを薙ぎ払うような最強最速の超巨大な剣閃がキュウジンサーの亜空間ごと切り裂いた。
そして複数のキュウジンサーをまとめて薙ぎ払う。
その中の一体のガワがペリペリ剥がれていって、中から本体のイケメン魔貴族があらわになり苦痛の形相に歪んで血を吐いていく。
「ギ……ガハッ!!!!」
「空の彼方までぶっ飛べ──────ッ!!!!!」
ナッセはフルスイングと振り切って、四方八方に稲光を散らすほどの凄まじい衝撃波でキュウジンサー本体を吹っ飛ばす。
深淵殿造が豪快に破裂して、衝撃音を響かせながらキュウジンサーは遥か上空へとぶっ飛んで「グハアアアッ」と叫びながら爆散した。
空が一瞬明るくなり、遅れて衝撃波が周囲に響き渡っていった。ズズン!
「「「「!!!!!?」」」」
他の魔貴族やズクケィールードンはもちろん、聖女も王族も誰もが口を開けて驚く。
まさかの四魔貴族がやっつけられたのだ。
リョーコも呆然とした。
「えー、マジでやっつけちゃったぁー!?」
完全に気配が消失して、キュウジンサーが滅んだ事を察してしまう。




