44話「まさに絶世の美女!!! 聖女ピーチラワー!!」
ホワイデー王国……。
ラブチョコレ大陸で中心となっているバレンティア王国の西側地方にある隣国。
貿易最大の港王国で、他の大陸と船の行き交いが多い。
「バレンティア王国と仲が悪い国へ行かなきゃいけない理由はそれか?」
「うん。だってここからの方が船で行けるところ多いからねー」
「そういう設定を知っている作者なら同然ね……」
バレンティア王太子だとバレないようにターバンと白いマントで隠すナッセと魔道士風に漆黒の三角帽子とローブを着たヤマミ。
リョーコもドレスから一転して身軽な軽装をしている。大きい胸だから目立つ。
誰が見ても冒険者としか見えないはずだぞ。
「誰もオレが王太子だと気づいてねーから安心したぞ」
多くの人々が行き交いしていて、バレンティア王国と遜色ない賑やかさが窺える。
それに広い海と面しているので潮の香りが心地よい。
白い宮殿のような住宅が特徴的で、観光地にしてもおかしくないぞ。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」」」
突然歓声が轟いて振り向く。
「あ!!! そういえば!!!」
向こうは高くそびえる大聖堂が見えている。
そして周囲を見渡せる高台には、一人の女性が微笑みながら手を振っているぞ。
「ホワイデー王国には絶世の美女と世界に知られる聖女がいるのよ。魔貴族テンショーが惚れて人間界に住み始めた理由にもなった……!!」
「へぇ……? で、そのテンショウがリョーコに惚れるんだっけ?」
ヤマミに目を細められる。
聖女とリョーコとでは月とスッポンのような……。
「うっさいー!! あくまであたしの物語だからね!! 理想の展開に描いてて何が悪いー!!!」
ほおを膨らまして拗ねるリョーコ。思わずナッセはクスッと笑う。
「そこ笑うなー!!!」
「痛いって」
ぐにーん、と両ほっぺを引っ張られる。
ヤマミは聖女の方を見る。流れるような水色のロングヘアー。桃色の瞳。優しそうな顔。両肩があらわになっているオフショルダーの純白衣服で、腰から垂れている前後ろの幕から綺麗な太ももが覗く。
白い樹で作られた杖の先には青い宝石がはめ込まれている。
「ホワイデー王国が誇る絶世の美女。聖女ピーチラワー……」
「どういう設定なんだぞ?? 実は性悪とか??」
「なワケないでしょー!!」
リョーコが言うに、主人公がヤキモチを焼くキャラとして設定されているらしい。
聖女を絵にしたような感じで、性悪でもなんでもなく純粋で国を守る結界を張っているという。
今のところはテンショウがウットリするところを主人公がヤキモチ焼いて、負けてたまるかという奮起の理由に設定されている。特に関わりもなく、聖女として凄まじい人気者だという描写。
「あら!! そこの旅人!!!」
聖女ピーチラワーが笑顔で、こちらに掌を差し出してきたぞ。
人々が一斉にこちらへ注視してくる。思わず誰を指しているかとキョロキョロ見渡す。
「かのバレンティア王国の勇者ナッセさま!!! この国にようこそ!!!!」
バレてた!!!
「バッ、バレンティア王国のッ!!!?」
「勇者ッ!!?」
「噂に聞いてるぞ!!!」
「確か……、バレンティア王太子ナッセさま!!?」
「なんでここにッ!!?」
周囲の人々が不穏にザワザワしてきて、緊迫感に押し潰されそうだ。
「みなのもの落ち着きなさい!!! そのものは純粋な方です!!! 敵ではありません!!!」
「「「おおおおおおおッ!!!」」」
まさに鶴の一声で人々が向けていた嫌疑は消え失せた。
それだけ聖女ピーチラワーは国民に絶大な人気を誇っているんだ。
「どうぞ、こちらへ!!」
「さ、誘われてるー?? なんでなんでー??」
「こっちがしるかぞ!!? あんたが設定したんだろ!!?」
「こんな展開なかったわよー!!!」
仕方ないのでナッセは恐る恐る高台の方へ歩むしかない。
人々が避けてくれるから、難なく高台へ上がれた。すると聖女がにっこり微笑む。
「噂に違わず強くて純粋な勇者さまですね。お会いできて光栄です」
「あ……いや……」
思わずどもる。美しくて天使のようで惚れてしまいそうだ。
ヤマミがジト目で肘鉄を喰らわしてきた。
「バレンティア王国が誇る最強の勇者ナッセさまです!!! これから金色の破壊神の恐るべき破壊を食い止めるべき旅立ちました!!! みなのもの、どうか応援を!!!!」
「そういう事か!!!」
「大会で金色の破壊神見たぞー!!! あの宣言はヤバかった!!!」
「優勝者だったよな!!?」
「ああ!! こいつもすげー強いんだぜ!!!」
「バレンティア王国にしておくにはもったいねぇ!!!」
「なんでこの国に生まれなかったんだ!!?」
「これは一大事だ!!! 勇者と聖女のコラボだー!!!」
「勇者ナッセさまー!!!」
「聖女ピーチラワーさまー!!!」
「「「「わああああああああああああああああああああッッ!!!!!」」」」
たちまち大絶賛に変わって、士気高揚と歓声で湧いた。
聖女と手を繋いでその大音響を浴びるハメになった。
「うわー……」
ヤバいプレッシャーだぞ。
これでもうオレの名は世界中に知れ渡りそう。異世界転移してきたのに……。
リョーコへジト目する。
「こ、こんなんイベントないってばああ!!!」
「ホントにそうなのかしら?」
ヤマミも疑わしく視線を向ける。
そんな折、不穏にも遠くの物陰から見ている黒い人影がいた。
フードで全身を覆っているが、太っていてメガネをかけた男と、長身でブサメン出っ歯の男だ。
「ディスア。あの厄介な二人をまとめて始末するにはいい機会かも知れないちゅー。どうせバレンティア王国もホワイデー王国も我ら魔貴族にとってはヒト牧場以外なんでもないっちゅーに」
「キンオーク。しかし、あの魔貴族ヤッバイナスがアッサリやられたと聞く。おかげで計画が大きく欠けてしまったぜ」
「あーもー! ボクちん今でも煮えくり返りそうでちゅー!!」
「落ち着け!! 相手はあの妖精王だぞ……!!?」
「ぷんぷんー」
怪しげな二人組は、ほどなくフッと掻き消えた。




