43話「謀略する大臣と公爵からの恐るべき刺客!!!」
暗雲から稲光が迸り、その下で怪しげな屋敷が鎮座している。
「あのキングキュドラ倒されただとッ!!? うぬぬ……!!」
恨みがましく言い捨てる白髪のイケオジ大臣。
「まぁまぁ、バレンティア大臣様」
「リアバクシ・ユウカ公爵ッ!!! 王太子どもがバケモノだなんて話が違うわ!! こんなの暗殺できんのかッ!!?」
「薄々は察しておりましたが……」
明かりも付けず、薄暗い部屋で時々の稲光で照らされる。
バレンティア大臣。王太子ナッセを快く思わぬ者……。
リアバクシ公爵。こいつもイケオジ。ヤマミ悪役令嬢の父という設定。
彼らは共謀していたのだった。
「それにヤマミ令嬢は王太子に心酔してしまってるではないか!!!!」
「そうなんですよね。せめて芝居であったらとは思いますがねぇ……」
リアバクシ公爵は溜め息をついて横目になる。
……実は帰ってくるなり「私はナッセと一緒に行く」と言い出してきたのだ。
慌てて「待ちなさい!! 馬鹿な王太子ナッセさえ落とせば用済みでしょう」と引き止めたら、すごい殺気で「馬鹿って言った? もっぺん言ってみて?」って睨んできて腰を抜かした。
これ以上ナッセを侮辱したら怖いので「ゴメンなさーい」と爆速土下座した。
あれは芝居とかそんなんじゃない……。
「そもそも賢君の資質がある王太子ナッセをリョーコ令嬢の婚約破棄で国外追放した後、我らが国家権力を握るのが目的だったはずだッ!!!」
「そのはずだったんですが、いつの間にか我が娘が逆に篭絡されてました」
「くそ、騙しやすいガルシアンに王位を継がせれば傀儡にできたものを……!!」
「言いくるめたのはいいけど結局失敗しましたね」
ガルシアンがナッセを敵視していたのは、大臣がそそのかしていたからだ。
「うるさい!! というか、王太子ナッセ、ヤマミ令嬢、リョーコ令嬢、急に人が変わったように見えるぞ!?」
「それは私も同感ですね」
彼らはこの異世界の住民。
転移以前の原住民ナッセたちを知っている事になっている為、人が変わったかのように見えているのだ。
実際は存在してなかったけど、後から記憶含め正史として組み込まれたのだ。
「今の王太子ナッセも確かに勇者スキルを問題なく発動できてたぞ。これでは政略的にニセモノとしてこき下ろせなくなった……」
「弱りましたねぇ。諦めましょうよ」
「ふざけるな!! ここで諦めたら私はイケオジなのに生涯独身のままだーッ!!!」
「やっぱりやるんですか……?」
「あ!?」
気落ちするリアバクシ公爵を、ジロリと睨むバレンティア大臣。
「王太子ナッセさえ謀殺できれば、まだモテるチャンスがあるだろうがーッ!!!」
「できるんですかねぇ?」
「当たり前だ。ヤツなら強さと関係ないからな。王太子を強力な呪いで蝕むのだ……!」
ザッザッザッと暗闇から歩んでくる吸血鬼のような褐色イケメンが姿を現してきたぞ。
「妖魔界の魔貴族ヤッバイナス見参……。お呼びのようで?」
「ナッセ、ヤマミ、リョーコともども呪い殺せ!!」
「それはおたやすい御用で……」
不敵に笑んだヤッバイナスは丁重にお辞儀するとフッと掻き消えた。
バレンティア大臣はニヤリと笑むが、リアバクシ公爵は浮かない顔をしている。
「妖魔界の魔貴族……。敵に回せばこの上になく恐ろしいですが…………」
「うむ。聖女さえ解けぬ病魔の呪いならば、いかに勇者の血筋を引くナッセも抗えまい。フフフ……」
バレンティア王国も見えなくなって、森林が見え始めた平原。
そして夜になってしまい野宿をせざるを得なくなった。
「ナセロンと合流したいところだがなぁ」
「そうね……」
焚き火を焚いているリョーコに、ナッセとヤマミはジト目をよこす。
「悪かったってばー!! まさか合作だなんて思わないでしょーが!!」
するとバサバサとコウモリの大群が空を覆っていく。
殺意が走ってきてナッセたちは立ち上がった。
気づけば気配もなく現れたイケメン魔族が視界に入ったぞ。
「なにやつッ!!?」
「ああーッ!!! アイツ、妖魔界の魔貴族ヤッバイナスよー!!!」
「ほほう……。こんな下等な物質界にも我が名が知れ渡っているとは光栄です」
吸血鬼っぽい褐色イケメンはニヤリと白いトゲトゲの歯を見せた。
「気をつけてッ!!! 病魔の魔貴族として恐れられているのよー!!! 赤紫の霧が立ち込めるので、吸ってしまったが最期!!! 体をジワジワ貪り尽くして穴という穴から出血が絶えず流れ出して苦しみながら死に絶える呪いよッ!!!」
「エボラ出血熱を参考にしたわね」
「呪いっぽいから容赦なく設定したんだけど、マジでヤバいからーッ!!!」
「さすがに呪殺奥義『血出流死』まで知られているとは驚きですが……、もう終わりでしょう。フハハハ……」
なんと赤紫の霧がモワモワ立ち込めていた。
飛び交うコウモリが撒き散らしているので、もはや魔貴族の手中に落ちたも同然だった。
「あんたとテンショウで何とかする展開だっけ?」
「うん。同じ妖魔界の魔貴族テンショーが協力してたからこそ、呪いも解除できてたの!!! 今はテンショーいないしヤバーい!!!」
本来なら、主人公リョーコ令嬢を呪殺すべき送り出される刺客。
しかしテンショーがそれを打ち破ってリョーコと絆を深めるきっかけになる。そういうイベントなのだ。
「テンショウ?? ほう、かのショウヨウ卿と知り合いだったんですか? 道理で私の正体を知ってたわけですが……。もはやこれまで、バイバイですね」
「そうでもないと思うぞ」
「なに!?」
赤紫の霧に追い詰められているはずなのに、ナッセが不敵な笑みを見せているのだ。
「さすがに妖精王を知らなかったみてぇだな!! おめぇの負けだ……!! おおおッ!!!!」
気合いを入れるとナッセは白銀がロングに伸びてブワッと舞う。
足元からポコポコと沸騰するように淡く灯る花畑が広がっていく。背中から四枚の羽が浮かんでくる。
ボウッと高次元オーラを噴き上げて、周囲に煙幕が吹き荒れる。
「なっ!!?」
「これが妖精王ナッセだ!! そしてデコレーションフィールド!!! 攻撃無効化!!!」
ナッセが手を翳すと暖かい光が広がって、赤紫の霧が純白に変えられて粉雪のように溶け消えていった。
凄まじくも美しい浄化系スキルにヤッバイナスは「あ……ああッ……!!!」と恐怖に震えていく。
相手が天敵と知ったが最後。
「く、くそ……!!! ここは……!! 霧逃益ッ!!!」
ヤッバイナス自身は霧に身を変えて、モワワワと逃亡を目論む。
しかしヤマミは「逃さないから」と放った黒い稲妻が、霧も含めて満遍なく迸ったぞ。
「やばがああああああああッ!!!!」
しかも闇属性の雷魔法なので、息絶えるまでバリバリ感電し続けた。
苦しみもがいた後、横わたってパラパラと塵に流れていった。これまで呪殺し続けてきた末路だろうか。
「大した事なかったぞ」
「そうね」
ドヤ顔するナッセとヤマミに、リョーコは肩を落とす。
「身も蓋もないわね……」
あの病魔の魔貴族がアッサリやられた事を知って、バレンティア大臣は愕然とした。
リアバクシ公爵は項垂れて「やっぱりそうなりましたねぇ……」と諦めた。




