42話「王国公認の勇者として堂々と出国しちゃった!!!」
バレンティア王国中は大歓声に包まれていた。
多くの兵士と騎士と将軍が行列して高貴な儀装馬車を引き連れていく行進パレードが開かれていたのだ。
その儀装馬車からナッセがにこやかに手を振っている。
「王太子ナッセさまー!!!」
「これが勇者様かー!! 凛々しい姿だー!!!」
「我が王国から勇者が出るなんてー!!!」
「勇者さま!!! 勇者さま!!! 勇者さまーッ!!!!」
「ナッセさま!!! ナッセさま!!!! ナッセさま!!!! ナッセさまああああ!!!!」
「「「「わあああああああああああああああああああーッッ!!!!!」」」」
国民は目を輝かせて歓声を上げている。
「さっすがー!! 王族の第一王子ナッセも人気者だねー!」
「……恨むぞリョーコ」
「ゴメンってば」
ジト目で見やるナッセに、リョーコは苦笑いで合掌する。同席しているヤマミも目を細めている。
ナッセを実名でバレンティア王国の王族に設定されたせいである。
しかも国中に破壊神の事情を広められて、これまでの婚約破棄劇が不問にされた。そして逆に勇者として旅立つナッセを盛大に送り出すべき、余計なパレードを行いやがったぞ。
それを遠くの城から眺める王様はキリッとしていた。
「頼むぞ……。二代目勇者ナッセよ…………!」
「勇者の血筋がそうさせたのでしょうね」
「うむ」
勝手に納得する王様と王妃。
まだ幼い弟と妹が「がんばれー」と手を振っている。
そして厳粛と跪くガルシアン。全ては兄様を慕う御心ゆえだ。
「兄様……、歯痒いですが無事を祈るのが弟君としての努め」
なんかわだかまりなくキリッとしている。
その遥か後ろで初老イケメン大臣は悔しそうに歯軋りしていた。
何時間も続くかと思われる行進も終わりを迎えていて、王国を出る際に城壁門の前でナッセとヤマミとリョーコが広い平原へ歩いていく。
その後方で民衆と従者たちが見送りにと手を振り続けていた。
「お前たちも帰った方がいいんだが……?」
ナッセたちにオールイケメンの数十名の騎士団と将軍三人が同行しているのだ。
「何をおっしゃる? 王太子ナッセさまとヤマミ令嬢とリョーコ令嬢で三人放り出すのは国の沽券に関わるゆえ……」
「この三大将軍が身を張って守るゆえ」
「うむ! 勇者とはいえ冒険者同然の汚れを身にかけていいものではない」
バレンティア三大将軍。いずれも三十代の歴戦だ。
イケメンだが鍛えられた筋骨からか体格がたくましい。
「名前もなにも知らん将軍と騎士団を巻き込みたくねぇんだが……?」
「はっはっは。そう言われては名が知れた王国三大将軍としては形無しですなぁ。いいでしょう。私は剛勇の将軍リーアジ!!」
「うむ、俺は蛮勇の将軍ルカップ!!」
「おうよ!! 猛勇の将軍ラブララよ!!! 長く世話になってもらうぜ!」
ナッセとヤマミがジト目でリョーコへ振り向く。
「ひどいネーミングね……」
リョーコはひきつる。
たぶんナッセとヤマミに対する揶揄っぽい。
「それより、こいつら連れてても足手まといにしかならないぞ」
「一応バレンティア王国の設定通りだけど、まさか同行してくるとは思わないでしょー」
リョーコの設定集では、バレンティア王国の王族と将軍など細かに設定されていた。
ほぼイケメン。
「勇者様と一緒に旅するとか夢みてぇ」
「国で防衛するより退屈しなさそうだな」
「世界を破壊する破壊神ってどんなヤツだっけな」
「前に空を恐ろしい稲光が走ったそうじゃないか? あれは身震いしたよ」
「ああ、あったな」
「それもナッセ王太子様が防いだとか言うじゃねぇか?」
イケメン騎士団で盛り上がっている様子に、ナッセは冷や汗を垂らしていく。
腕がいいのを揃えたんだろうが相手が悪い気がする。
「ジェノサイドシーンにならなきゃいいが……」
言ったそばから、急降下してきた巨大なドラゴンがドンと着地してきたぞ。
頭を三つ生やした巨大な黄金のドラゴンで、どこぞの怪獣っぽい。
「あ、あれは『キングキュドラ』よ!!! 序盤でいきなり現れて主人公とテンショーが倒しちゃうやつ!!!」
「そういう展開??」
「……それにしてもどこぞの怪獣と似ているわね」
「それは言わんといてー!!!! はっずいからー!!!」
赤面して悶えるリョーコ。そんな彼女にナッセは微笑ましくフフッと吹き出す。
「そこ笑うなー!!!」
リョーコは羞恥のあまり、ナッセの両ほっぺを引っ張る。ぐにーん!
「シャギャアアアアアアアアアッ!!!」
獰猛にキングキュドラが吠えて、こちらへ敵意を向けてくる。
三大イケメン将軍は「行くぞ!!!」とオーラを漲らせ、イケメン騎士団も士気高揚と続く。
しかし巨躯で踏み鳴らすだけで大地が震え、翼を羽ばたかせれば烈風が吹き荒れる。
「「「うわああああああああああ!!!!!」」」
まるで天災とばかりに騎士団も蜘蛛の子を散らすように吹き飛ばされていく。
三大イケメン将軍は「ぬおおおおおッ!!!!」と裂帛の気合いを吠えて、駆け抜けながら歴戦の剣を振るう。
ズババババーン!!!!!
間違いなく三大将軍の繰り出す強烈な斬撃がキングキュドラの片足に決まったぞ。
巨体を支える片足を切り裂けば、と思ったのだが傷一つもつかない。
「「「な、なんだとおおおおッッ!!!?」」」
「シャギャアア────ッ!!!!」
三つ首が一斉に黄金のブレスを吐き、爆炎が地を揺らして燃え盛った。
三大将軍も「ぎえええええええ!!!!」と尻に火がついて逃げ出すしかない。せっかく同行してくれた彼らももはや烏合の衆だった。
「なによー!! せっかくイケメンに作ったのに、だらしないわねー!!」
「これでさえ聖騎士ナセロンなら一発で倒せるんだがなぁ……」
「全く」
士気高揚で初陣を切ったはずの三大将軍及び騎士団はほうほうの体で撤退していくしかない。
さて、とナッセは呆れてた気持ちを切り替える。
ヤマミとリョーコも同様に真剣な顔を見せた。
「シャギャアアアアアアアアアアッ!!!!」
ドスドスと巨体を揺らして翼を羽ばたきながら突進してくるキングキュドラに、ナッセとヤマミとリョーコは一斉に飛び出す。
「太陽が如し魂を具象化せよ!! 天照大神斧ーッ!!!」
「古の勇者の血が叫ぶ!! 魔を滅ぼせし雄大な魂を具象化せし聖剣となれ!!! ブレイバーセイントソードッ!!!!」
「深淵に潜みし闇の我が刃よ!!! ダークネス・マギアブレイド!!!」
リョーコは日章を紋様とする巨大な戦斧を、ナッセは虹色に煌く天使の羽を備えた片刃の剣を、ヤマミは漆黒の刃を生やした杖を、それぞれ具現化してキングキュドラへ斬りかかった。
右斜め下ろし、左斜め下ろし、垂直の切り下ろし、三つの剣閃が重なって巨躯を六分割に切り散らした。ザザンッ!!!!
そんな圧巻の斬撃に騎士団は呆気に取られた。
ドガアアアアアアンッ!!!
怪獣よろしくキングキュドラは爆破四散して、それを尻目にナッセとヤマミとリョーコが降り立って決めポーズ。
レベチと三大将軍と騎士たちは観念して、国へすごすごと帰るハメになったとさ。
もうこれでジェノサイドシーンにならずに済むぞ。
「深淵に潜みし闇の我が刃よ……か、いいセンスしてるぞ」
「しかもダークネス・マギアブレイドーってか!! イカスじゃんー!」
「復唱しないでよ!! あんたらに併せたとは言え、自分でも恥ずかしいから!!」
ナッセとリョーコがニヤリとしてきて、ヤマミは恥ずかしくてカアアッと赤面したのだった。




