41話「ナッセとガルシアンの王子兄弟対決!!!」
リョーコのせいで王族にされたナッセと諍いが起きてしまい、設定上父である国王陛下によってガルシアンと試合する事になったのだ。
これは公にしない非公式の試合。
無人の小さなコロシアムの闘技台でナッセとガルシアンが対峙している。
「これより、お互い真剣での試合を始める!!!」
国王陛下が手を振り下ろす。
同じく立ち会う王妃と多くの王子と姫が固唾を呑む。ヤマミも別の席に離れて成り行きを見守る。
「覚悟しろ!! ナッセェ!!!!」
ガルシアンは反射光を煌めかす剣を振るって、襲いかかる。
勇者の子孫だけあって才覚を存分に発揮しているダッシュだ。そして振り下ろされる鋭い剣筋。
「すまん」
ナッセは突っ立ったまま片手で剣をかざして平然と受け止めた。
足元に砂塵が舞う。
「ぐ……!!!」
「悪いけどさ、この程度じゃオレに勝てねぇぞ?」
「思い上がるなーッ!!!」
ガルシアンは続けて隙間のないような剣戟を繰り出すが、ナッセはことごとく捌いていく。
そんな余裕を持ったナッセに国王は訝しげになっていく。
「あなた……」
「彼らが幼い頃より見続けてきたが、ナッセの剣技はガルシアンより少し上ぐらいだった。そのはずが、ここまで力の差が開いていたとは……!?」
「まるで別人のようですわ」
「ううむ。確かに……」
息を切らし始めるガルシアンは一旦飛び退いて、構え直す。
ナッセを睨むが、向こうは憎たらしいぐらい平然と余裕ぶっている。
「くっ……! これまで力を隠していたのか……?」
「急に王族になってんだからしょうがねぇだろ。大体ニセモノの王子様みてぇなもんだ」
「ニセモノ……、そうかニセモノか!! 本物は一体どこに……?」
「こっちが聞きてぇよ。本物の王子様どこにいるか知ってたら教えてくれよ」
「だが、これは都合がいい。本物の兄様がいないならば、ニセモノの貴様を処刑して、王位継承権を得てやろうッ!!!」
士気を高めるガルシアン。
「ってかさ、試合は王位継承権をどっちにするかじゃなくて、オレが勝てば無条件で冒険者に、お前が勝てば処刑できるというもんだろ?」
「そうだ!!! 貴様は私の剣で首を落とすのだッ!!!」
「できればなー」
突っ立っているナッセに、ガルシアンは全身からオーラを噴き上げて睨む。
「ふのおおおおおおッ!!!!」
大地を爆発させて凄まじい速度で剣を斜め下へ斬り下ろす。
「バレンティア・スラッシュウウウウッ!!!!」
全身全霊込められてオーラが包むガルシアンの一太刀に、ナッセは技を出すまでもないと見切りをつけて切り払った。
バッキィィィンと響いた後、剣の切っ先が宙をクルクル舞って地に突き刺さる。
通り過ぎたガルシアンは青ざめて震える。切っ先のない折れた剣に愕然……。
「大体、実力は分かった。ガルシアンの戦闘力は約三〇〇〇。今の技で四五〇〇。これじゃ一〇万のオレに勝てねぇ……。勝負はここまでに」
「う、うるさいうるさいうるさああああいッ!!!!」
未だ激昂するガルシアンは右手を伸ばす。
王様は慌てて「勇者の聖剣!? よさんかッ!!!」と叫ぶ。
「古の勇者の血が叫ぶ!! 魔を滅ぼせし雄大な魂を具象化せし聖剣となれ!!! ブレイバーセイントソードォォォッ!!!!」
ガルシアンが口上を叫ぶと、右手に虹色輝く長剣がシャキーンと具現化された。
勇者の家系でのみ可能なユニークスキルとも言えるか。
リョーコが設定したらしいのだが、ナッセは知る由しない。
「これで勇者の正当な血筋として貴様を処刑できる!!」
「えっと……オレも王族なら同じ事できんのかな……?」
「なら、やってみろッ!!! 勇者の血を引いてなければできるものかッ!!」
「んー……。確か、古の勇者の血が叫ぶ。魔を滅ぼせし雄大な魂を具象化せし聖剣となれ。ブレイバーセイントソードだっけか……?」
右手をそっと横に向けて、ガルシアンを真似て口上を述べる。
出ないだろうと思ってたのに、キラリーンと満を持して虹色に煌く天使の羽を備えた片刃剣が具現化された。
形状は違うものの、本物の勇者として正当な聖剣そのものだ。
「「「「ウッソだろおおおおおおおおおお!!!!!」」」」
ナッセ自身もガルシアンも王様も目を丸くして驚きまくる。
ヤマミも汗を垂らして見開く。
つまり、ナッセはニセモノではなく正当な勇者の子孫という事に……。
「えー、なんでニセモンのオレにもできんだよ……?」
「貴様あああああ!!!! 一体どんな方法で奪ったあああッ!!!?」
「それはオレも聞きてぇっ!!!!」
憤慨したガルシアンが聖剣を思いっきり振り下ろすが、ナッセは引き気味ながら慌てて切り払う。
ガルシアンの聖剣もスッパリ二つに切断され、地面に突き刺さる切っ先が二本になった。
またしても折られたガルシアンが愕然として膝から崩れ落ちた。
「お、おい!! 落ち着けよ……! こんなシーン別作品でもあった気が……」メタァ!
「ううう……」
ガルシアンは泣き崩れて戦意喪失している模様。気の毒に思う。
そんな二人の息子に、王様は苦慮する。
これまでの変な態度とガルシアンの言葉で、ナッセがニセモノだと思いかけた。が、こうして正当な血筋として証明されてしまった。
それに加えて世界大会優勝者でもある。
このまま王族から追放するのは罰当たりなのでは、と思い直していく。
「な……なぁ、父上……だっけか。これでオレは王族追放されて自由になるんだったよな? 勝ったし」
「待て待て待て待てッ!! それでいいのかッ!?」
王様が必死に引き止める。
「そういう試合だったんだろ……?」
「おまえまで正当な勇者スキルを持っているのなら、なんで王族を放棄したいのだ!?」
「わりい、今大変な状況になってんだ。かくかくじかしか」
凶悪な魔道士ニーナが実は金色の破壊神で世界を破壊すると宣戦布告してきたなど、これまでの経緯を王様含めて全員に説明しておいた。
「ううむ……。このような事になっていたのか…………」
「兄様、この世界の危機を前々から感じ取って国を出ていたという事か。そうと知らず私は生意気な口を……。くっ!」
「いや、その……なんていうか……」
「弟として出過ぎた無礼の数々をお許し下さい」
さっきまで敵視していたはずのガルシアンまで納得して謝罪してきたぞ。
「よかろう!! 第一王子ナッセよ、今後の冒険を許そう!!!」
「ええっ!? ま、待ってくれ!! オレを追放してくれる話だっただろっ!!?」
「分かります事よ!! 私はあなたの母です! 私たち王族を巻き込みたくないと思って、わざと追放されるように仕向けたのでしょう? それにヤマミ令嬢は協力者……。手を組んで敢えて婚約破棄などという茶番劇で体よく泥をかぶっていくつもりだったのでしょう」
「「「ナッセ兄様あああああ!!!!」」」
身も知らぬ幼い弟と妹に泣きつかれて、ナッセは汗タラタラで戸惑うしかないぞ。
ヤマミは「はぁ」と深い溜め息をついた。
「さぁ遠慮なく旅立て!!! かつて勇者ガルドがそうしたようにッ!!!!」
ゲンナリなナッセをよそに、王様はビシッとあさっての空へと指差して宣言した。




