40話「ナッセ王子様は追放されたいようだ!?」
バレンティア王国はラブチョコレ大陸最大の国。
勇者ガルドの子孫である王族が代々治めてきて、今日まで繁栄を遂げた有数大国。多くの貴族を連ねて栄えている都市。
隣国はホワイデー王国で、二番目に大きな王国だ。なんか仲が悪いらしい。
ナッセは第一王子としてバレンティア王族に据えられていた。
これもリョーコの自作小説のせい。
厳つい顔をしているものの中年イケメン王様だ。訝しげに眉を跳ね上げる。
「ほう……。で、婚約者であるリョーコ令嬢と婚約破棄したと……?」
純白で広い大広間。左右の壁は大窓となっていて都市が一望できる。
シンプルに純白の床に赤い絨毯が敷かれている。そして二つの王座に王様と王妃がいる。
「はい……」
ナッセは緊張しながらもヤマミと一緒に目の前の王様と対峙していた。
「ヤマミ令嬢に篭絡されるとは……!! 第一王子としての自覚が足りぬぞ!!」
「そもそもオレは王族じゃねーし、つーかもともと恋人関係だったのに、リョーコのせいでややこしい設定にするから……」
「ホントにね」
厳かに王様が叱責するのにもはばからず、ナッセとヤマミは呆れている。
「何をワケ分かんない事を言っておるのだ!!? 弁解はあるのだろうなッ??」
「リョーコ令嬢と結婚したら、後継者としてこれからこの国を治めていくんだっけか?」
「ナッセ!! その平民同然の口調で話すんじゃありませんわよ! どうしたのです? もう礼儀作法もろもろ忘れたのですか?」
今度は王妃が厳しく咎めてくる。
そもそも学んですらいなく、唐突に王族にされたのだ。
「勝手に無断で大会へ参加したに飽き足らず、婚約破棄までされては、もはや擁護できんぞ……」
「優勝したと聞いた時は耳を疑いましたけど、今回の勝手な振る舞いはもはや優勝の誉れだけでは許せられません事よ」
「そりゃそうだろう。オレはもともと別世界の人間だぞ。ここの王族じゃねぇ。何をしようが勝手だろ」
「「なッッ!!!!?」」
王様も王妃も立ち上がって顔を赤くしていく。
あくまで第一王子が身勝手な態度で突っぱねているようなもんで、激昂せずにいられない。
「うぬぅ……!!! そこまで落ちぶれたかッ!!!! この馬鹿息子があッ!!!」
怒りを抑えられぬ王様は凄い形相で震えている。
「父上、落ち着きなさってください」
「む……」
「誰だぞ?」
イケメンの王子様風といった感じで、冷淡な顔をしている。
銀髪ロン毛で優雅な態度で歩んでくる。
「誰だぞ、だなんて酷いじゃありませんか? 兄様……」
「にいさ……」
今度は知らん弟の初登場か。
リョーコのヤツ、どこまで設定してんだぞ? イケメン無駄に多い。
「では望み通り兄様を見ず知らずの愚か者として扱う無礼をいたしましょう。私は第二王子ガルシアン・ジョージ・バレンティアです」
丁重にお辞儀して自己紹介してくれた。
なんだかいけ好かないスカしたキャラだ。しかし今は都合がいいキャラだ。
「第二王子ガルシアンさまか~。まぁいい。後継者として、この国を代わりに治めてくれねぇかな?」
「む……」
ぶてぶてしくも馴れ馴れしい態度で頼んでくるナッセに、ガルシアンは憤った。
「言われなくともそうしますよ。もはや兄様など存在せぬ。不遜に勝手気ままにしてきた報いを受けて平民同然に成り下がるがいい!!」
「ガルシアンッ!!」
「いいぞ。これでおめぇらとは無関係になったなぞ」
「ナッセも!!!」
こき下ろすべき罵倒してきた弟にも、ウンウン同意して頷くナッセ。そんな異様な様子に王様は困惑するばかりだ。
ガルシアンは兄様のぶてぶてしさにガマンならぬと激昂していく。
「……父上ッ!! こやつを処刑する権利をッ!!」
葛藤する国王陛下。曲がりなりにも第一王子として育ててきたこれまでを切り捨てるなど中々できない。
勝手気ままに振舞われてさえ、我が子はかわいいものだ。
今回は厳しく叱責して猛省を促して、自分は苦慮しながら今後の対処を模索しようとしていた。
なのに、ナッセは逆に身分剥奪されて国を追い出されても構わぬつもりだと言う。
「待て待て!! ナッセもガルシアンも落ち着かんかいッ!!」
「これが落ち着かずにいられますか!? こやつは自ら王位継承権の放棄を望んでおるのですぞ!!」
「そうだそうだー」
「……ナッセ、少しは反論しなさいな」
苦悩する王様。王妃も頭痛そうにナッセに反論を促す。
ガルシアンは兄様を睨んで「突き落としてやる!!」と言わんばかりに敵意を漲らせている。
「ガルシアンで国王になったらいいんじゃねーか? オレも自由になるしウィンウィンだぞ?」
「いつもいつも目線の上から指図しやがって……!!」
「ナッセ、おまえはもっと王太子としての立場を自覚して欲しい……」
王様は深い溜息をする。
ナッセも「う~ん」と首を傾げる。こっちは唐突に王族にされた上で、婚約破棄を宣言した悪者にされている。
それでも国王陛下は父親として子どもに愛情を注いで育ててきた。
さすがに「はいナッセは国外追放で、ガルシアンが後継者ね」って割り切れるものではないのだ。
「父上!! もはやナッセの振る舞いは看破できるものではございませんッ!! 処刑をッ!!!」
「処刑はともかく、オレはこれから金色の破壊神止めなきゃいけねーからな……。一国の王様として後を継いでいるヒマねーんだし」
頭が痛いと頭を抱える国王はゆっくりと顔を上げてくる。未だ苦悩している顔だ。
「よかろう……。それほどまでに言うなら致し方がない……」
パッと喜びに満ちるナッセとガルシアン。
目を細めて見守るヤマミ。
「ナッセ、ガルシアン、双方で試合せよ!! もちろん真剣でな!」
「「え!?」」
思わず目を丸くするナッセとガルシアン。ほおを一筋の汗が伝う。
やっぱりね、とヤマミはため息をついた。




