39話「没落令嬢リョーコ、唐突にチートスキルを得る!!」
自作小説にナッセをバレンティア王国の王太子として、ヤマミを悪役令嬢として設定した為に、リョーコが異世界転移した際にキャスティングされてしまったぞ。
こんなめんどくせぇ事になったのはリョーコのせい。そんな当人は!?
「リョーコ!! バレンティア王太子から婚約破棄されたそうだな!? これでは面目丸潰れだ!! これより身分剥奪するッ!!! 貴様はもはや家族ではないッ!!!!」
「貴方は我が家の恥さらし……、どこへなりとも行きなさいな!」
公爵家だけあって立派な屋敷。
その玄関手前でリョーコを前に、見ず知らずの両親が追放宣言したのだ。
しかも父親はイケメンおじさんだ。イケオジ。
「今まで世話をしてくださってありがとうございます。そしてスミマセンでしたー」
ペコペコと頭を下げて、踵をクルリと返して公爵家の領地を後にした。
身分剥奪&追放をあっさり受け入れた長女に、訝しげと見送る両親だったが少なからず葛藤を抱えていた。
「リョーコ…………」
「お姉さま……、いえ。もう他人でしたね。じゃあ私が長女なのですわ。きひひ」
次女である嫌味そうなメスガキが笑みを浮かべてリョーコをあざ笑う。
「さぁ!! これでナッセ王太子は私のもの!! 婚約させてくださいな!!」
「ヤマミ令嬢に誘惑されたとか聞いておるが……?」
「だったらさー、ヤマミ令嬢を追い出せばいいじゃんー!」
「そんな簡単じゃないわ」
「え~!!!」
ギャアギャア諍うが、後にナッセの状況を聞いて仰天したそうな。
「はぁ、テンショーが迎えてくれるって展開だったけど、どうしよ……」
屋敷を出て行って、う~んと困りながら王国へ向かう。
肝心のテンショウはリョーコにネタバレされて、どっかへ帰ってしまったのである。しかも戻ってくる様子もない。
「とりあえずストーリー通りにギルドで冒険者登録すっかー」
えいえいおー、とリョーコは拳を突き上げる。
バレンティア王国の冒険者ギルドでリョーコは無事に登録を済ませて一からのスタートに立った。
もう貴族でもなんでもなく、これから成り上がる最強の冒険者って筋書き……のはずだが小説と違うのはヒロイン的存在テンショウがいない事であった。
「へっへっへ。貴族さんかい?」
「令嬢だったんだろ? いいことしようぜー」
「手とり足とり、な」
「ヒャハハハハ」
最初から貴族だったので身なりが整っているリョーコに、下卑た冒険者が群がってきた。
三〇代五〇代のむさ苦しいオッサンズだ。
「うわー! かませキャラ出たー!!」
これもリョーコ自身が書いた展開だ。
そうと知らないオッサンズは「俺らがかませだとおおお!?」と激昂していく。
「うっさいなー!! こちとらオッサンになんか興味ないから!!」
「なんだとッ!! てめぇッ!!!」
「俺ら熟練の冒険者に向かって、生意気な!!」
「登録したばかりの初心者風情がいい度胸だなァ!!!」
「表出ましょ」
毅然としたリョーコにそう言われ、カッカしたオッサンズは「後悔させてやる!!」と唸る。
ギルド手前の広い道路でリョーコとオッサンズが対峙していて、間を煙幕が通り抜ける。
周りの人々がザワザワする。
「純粋に目を輝かせて!!」
「穢れなき心を持って!!」
「最強のSランクパーティーに成り上がろうと雄大な夢を抱く少年ズ!!!」
「それこそが我らが『チェリーボーイズ』パーティーよ!!!」
なぜか戦隊モノのように各ポーズを決めていくオッサンズ。
「キモ……」
「「「「なんだとおおおおッ!!!?」」」」
我ながら吹き出してしまうくらいチュートリアル的なかませパーティーである。
いきり立ったオッサンズは剣を、槍を、斧を、大剣をとそれぞれ手に持って大人気なく飛びかかった。
リョーコは唇を舐める。ペロッ!
「小説通りか分かんないけど、チートをスキル試してみるかー。太陽が如し魂を具象化せよ!! 天照大神斧!!!」
リョーコが翳した手から眩い光があふれて、神々しい日章の紋様が走った大きな戦斧が具現化された。
ノートに設定集として描いてた通りのデザインの戦斧にリョーコは喜びに満ちた。
「「「なんだそれはッ!!!?」」」
「いっせーのォ……!!」
後方に戦斧を構え、オーラを凝縮させて大地を震わせていく。ゴゴゴゴ……!!
おののくオッサンズだが「え、ええい!!! ママよー!!!」と再び飛びかかる。
「クラッシュ!!! バスターッ!!!!」
ド ゴ ォ!!!!!
渾身のオーラを込めた振り下ろしの一撃が国を横断するほどの亀裂を走らせて、飛沫と破片が一直線と噴き上げられた。
震え上がる大地に人々は恐れおののき、逃げ惑う。
余波を受けて、近くの住宅が震えてベキベキ嫌な音を立てる。
「ごめ、やりすぎちゃった……」
リョーコはてへぺろ。
オッサンズは尻餅をついて失禁しながら口から泡を吹いていた。
ハズしたとはいえ、こんなん見せられて失神せざるを得ない。
「転移前と変わらない強さの上に、具現化の武器まで叶えられてるとはさっすが異世界ね」
肩に載せた無骨で大きな天照大神斧にリョーコはにっこり上機嫌だ。
「一度はこういう事やってみたかったのよねー」
チートと銘打ってるものの、リョーコ自身が強すぎるだけであって、これ自体はただの具現化スキルだぞ。
設定集の通り、神々が創りし最強の武器として授けられた設定。理由すっとばして唐突に身についているのは素人にありがちな設定付けの甘さ。
そこまでチートの定義を深く考えていない彼女であった。
それでもこの異世界では実現できているのだから驚くべき事だ。
なお、この騒動で死傷者はなぜかゼロだったという。




