38話「リョーコ令嬢、改めて婚約破棄だぞッ!!!」
ナッセの痛い自作漫画の世界へ転移したと思ったら、大会優勝後にリョーコの自作小説が唐突に合作してきたぞ。
その影響でナッセはバレンティア王国の王太子、ヤマミは公爵の悪役令嬢という位置づけにはめられてしまった。
これもリョーコが自作小説に実名でキャラを設定したせいである。
「大丈夫でございますかッ!!? リョーコ令嬢ッ!!!!」
黒髪二分けの長身イケメンが、三人の会談へ割って入ってきたぞ。
するとナッセを見るなりギロリと敵意むき出しの視線をよこしてきた。
リョーコはひきつる。
「誰だぞ??」
「ああ。王太子様、急な訪問の無礼をお許し下さい。そして改めて紹介します。私はホワイデー王国の公爵貴族の家督テンショウ・ヘヴィンです」
丁重にお辞儀して名乗ってきたぞ。
「あなたのキャラ? それとも実在の?」
「え、あ、ううん!! あたしが考えたオリジナルのイケメンキャラ。最初っから私を慕っている他国のイケメン貴族で、婚約破棄された以降を世話してくれるヒロイン的存在よ」
「リョーコ令嬢……?? 何を言って……??」
テンショウは怪訝な顔をする。
彼にしてみれば、勝手気ままにする王太子と悪評が多い悪役令嬢と一緒にリョーコ令嬢が親しげに密会しているようなものだ。
「王太子様……! 何を企んでおいでではないのですが、ヤマミ令嬢と一緒にリョーコ令嬢を陥れようと画策しているのではないでしょうか?」
「リョーコおおお!!! そういう設定かよッ!?」
「ごめんごめん!!! こうなるとは思ってなくてー!!」
怒りを向けるナッセにリョーコは合唱して頭を下げ続ける。
「貴様ッ!!! 王太子としてリョーコ令嬢をイジめるとは感心できぬぞ!!!」
「こいつ、めんどくせぇ!!!」
「王族としてあるまじき愚劣な罵倒!! やはりバレンティア王国を治める後継者としては相応しくない!!」
「テンショー!! 待って待って!!! 落ち着いて落ち着いて!! 彼は敵じゃないからー!!」
テンショウが敵意むき出しで食ってかかるのを、リョーコが慌てて制止してくる。
「なぜ止める!? 王太子様とヤマミ令嬢は貴殿を陥れようとしているのだぞ!!」
「いいからケンカしないでよー!!」
もはや泣きたいリョーコだ。
さすがのテンショウも戸惑う。さっきまで麗しい令嬢だったのに、急に子どもっぽくなってきたのだ。
そして敵視しているはずの王太子と悪役令嬢の味方をしている。
不可解ではあるが、一旦落ち着こうと思った。ふー……。
「……話を聞こう。一体何がどうなっているのだ?」
「つまり婚約破棄した後にテンショウがリョーコを連れて、一緒に冒険者となってバレンティア王国を出て冒険していく存在。だから必然的に王太子とヤマミ令嬢とは敵対関係ってわけね」
ヤマミは呆れた顔で腕を組む。
リョーコの側で狂犬のように睨んでくるテンショウが席についている。
「ふん。そもそもバレンティア王国とホワイデー王国は仲が悪い。いかにバレンティア国王陛下が勇者ガルドの子孫とはいえ、現在の後継者たる王太子様は勝手気ままに振舞う目に余る存在だ」
「オレ勇者の子孫に位置づけされてたぞ……」
「私も公爵令嬢にされてるからね」
「そして悪名高きユウカ公爵貴族。良からぬ噂が絶えない。裏では魔族と繋がっているとか……」
ヤマミにジト目を向けられてリョーコは「ごめんごめん」と合掌するしかない。
「テンショウってどんなキャラなんだぞ? 設定白状せーい!!」
「ムッ!? リョーコ令嬢に口汚い命令をッ!!! やはり……」
「テンショーは黙っててっ!! 話進まないからっ!!」
逆に怒鳴られてテンショウは不機嫌そうに押し黙る。
「テンショーは実は妖魔界の魔貴族ショウヨウ卿。この人間界に貴族として侵入している高位魔族。この黒髪イケメンは実は死神みたいな黒いローブを着た銀髪ロングのイケメン魔族なの」
「なッ!!!? なぜそれをッ!!!?」
驚いたテンショウは立ち上がって冷や汗をかいて、ワナワナ震えていく。
「本当は主人公に惚れてて、魔族としての宿命に葛藤しながらも冒険の度に考えを変えていって自らの正体を知られるのが怖くなってくるの。でも主人公は「大丈夫だよ」と魔族としてのテンショウを受け入れて真の意味で恋愛できるって筋書きなんだけどね……」
てへぺろでリョーコは洗いざらい白状してしまった。
「全部言っちゃったぞ……」
「本人の前で完全にネタバレしちゃったわね」
「あ……ああっ……!!!」
仰け反って震えるテンショウ。
既に恋慕相手に正体がバレているようなもんで、今まで人間の貴族に扮してたのが茶番同然になったからである。
「もういい。わ、私は帰らせていただきます」
「そんなー!!! 待って待ってー!!!」
いろいろ暴露されてしまったテンショウは丁重にお辞儀して踵を返していくのを、リョーコは慌てて引き止めようとする。それでも振り切ったテンショウはこの屋敷を出て行ってしまった。
しばしナッセとヤマミは汗を垂らして、成り行きを見守る。
「で、これからどうすんの?」
「あんたとの婚約を破棄すれば、いいんだよな……?」
「えうう~、もぉ好きにしてぇ~!!」
ヤマミとナッセにジト目で呆れられて、リョーコは涙目だ。
イケメンに逃げられた上に、このままだと普通に結婚してしまう。そうなったら貴族王族の生活に縛られて身動きできなくなるだろう。金色の破壊神による世界の崩壊も止められない。
だから自由になる為には、小説通りに動くしかない。
「リョーコ、パーティー会場へ戻るぞ。貴族たちの前でオレが無責任に婚約破棄って言って破綻させよう」
そうすればリョーコは勘当されて平民同然になり、ナッセとヤマミも身勝手な事をやらかした始末で貴族王族から追放処分を受けれる。
パーティー中で、貴族たちはザワザワする。
階段の上でナッセとヤマミが一緒になってリョーコと向き合っている。
「リョーコ令嬢!!! お前とは婚約破棄だぞっ!!!!」
「うふふ」
毅然と宣言するナッセに抱きつくヤマミ悪徳令嬢。
「ソ、ソンナー!!! 婚約破棄サレター!! カナシーヨー!! オヨヨー!!」
リョーコはあからさまな動揺リアクションをする。
貴族たちも芝居と分かってて汗を垂らす。バレバレやん。




