37話「え? リョーコの自作小説と合作ぅ~!?」
ナッセとヤマミが自作漫画へ転移する昨夜────。
学院の同級生である金髪おかっぱの女性、小野寺リョーコ。
自宅のふとん上に仰向けでBL漫画を読んでいた。
タンクトップとパンツだけでだらしない。
「はー。夏休み、こんなんでいいのかなー」
なんか虚しくなってBL漫画を放り出して横になる。
しばらくしても寝れないので、気を紛らわす為にパソコンデスクに腰掛けてノートパソコンを開いた。
数十分ネットサーフィンを堪能しアレも済ますと、前に登録した小説サイトが気になってブクマからログインした。
そこで一年前に書いてた小説が出てきた。学院に入学したての頃だろう。
「うっわ……。エタったやつぅ……」
小説サイトで適当に書いてた小説。難しい漢字はなく、サクサクと読みやすい文だ。
当時の事を思い出してて恥ずかしくなって、そそくさとウィンドウのタブを閉じた。
そもそもリョーコとしては、根気よく小説を書き続ける事ができないのでエタった作品が多いのだ。さっき見た小説もその内の一つでしかない。
バツの悪い顔で首を傾げて、しばししてからため息。はぁ……。
「寝よ」
消灯して、ふとんに飛び込んだ。
アレした後なので寝付きやすくなっていたぞ。
リョーコがぐっすりと夢の世界へ旅立とうとする瞬間、枕元に置いてあった卓上ミラーから光が溢れ出した。カッ!
気づけばリョーコは可憐な貴族のドレスを着ていて、賑わうパーティー集会にいた。
「え……??」
リョーコは青ざめた。
キョロキョロ見渡せば貴族がいっぱいいるではないか。このシーンに見覚えがある。
「まさか……異世界転移?? 転生っ??」
一体どうやって? なにかした?? 何が起こった??
頭が真っ白になる。
まさか、自分が自作小説の主人公として実在化されてるなんて信じられない。
アニメや漫画ならいざ知らず、小説の世界に入るなんて夢にも思わなかったのだ。
「一体どういう事だぞ……?」
ドスが利いた声に恐る恐る振り向くと、階段の上で王太子と悪役令嬢が見下ろしてきていた。
周囲の貴族はザワザワ恐れおののいていく。
「バレンティア王太子ナッセ・ジョージ・バレンティア様!!!!」
「……と公爵令嬢ヤマミ・ユウカ様!!!」
「なぜここにッ!!?」
周囲が自己紹介とばかりに呼んできたので、リョーコはトギマギとして目が泳ぐ。
悪役令嬢のヤマミが呆れたように息をつく。
ナッセも冷めた目で見下ろしている。
「これからオレが「婚約破棄だ!!」と突きつけて始まるストーリーなんだろうけどさ……」
「どういう事か説明してもらえるかしら?」
「え? ええーっ!!? まっ、まさかっ、本人っ!?」
リョーコは竦んで震え上がった。
ナッセとヤマミが激怒しているのは火を見るより明らかすぎる。
「大会で優勝した後、急にこの国へ連れ戻されたぞ」
「私も公爵令嬢という設定で一緒に引っ張られて、このバレンティア王国へ押し込まれたわ」
「顔も知らん父上という国王にこっ酷く叱られて、ここのパーティーに出席しろと言われて、婚約者であるリョーコ令嬢と顔を合わしたんだが……」
「こっちも見覚えのない家族に迎えられて、大会参加について叱責を受けた後に王太子様と合流してパーティーに出席したのだけれど?」
「ごめん!!! ごめーん!!! まさか、こんな事になるなんて思わずー!!!」
戸惑いか不審かザワザワする周囲の貴族にもはばからず、リョーコは合掌して何度も頭を下げていた。
とあるベランダを備えた広い部屋で、ナッセとヤマミとリョーコ三人がテーブル越しに顔を合わしていた。
「つまり、オレの自作漫画とあんたの自作小説が合作したって事かぞ?」
「そうみたい。なんでこうなったか分からないけど」
「いい迷惑だわ……」
整理するとこう。
リョーコの自作小説はナッセを実名で王太子キャラにして、ヤマミも実名で悪役令嬢キャラにして、主人公にリョーコ自身を据えて書かれている。
「あんたが異世界転移した時、オレたちは実名キャラとして登場する形で巻き込まれたのか……!?」
「ナッセの自作漫画は実名でキャラ出していないから、私たちはイレギュラーとして登場した形になったわけね」
「それがどうして、合作になんのよー!!?」
リョーコは泣きそうな顔でテーブルに額を打ち付け、続いてバンバンと拳で叩く。
そもそも小説サイトで掲載してた上に、エタ作品なのに。
「それはいいとして、ストーリーはどんな風になってるの?」
「オレも聞きたいぞ……」
「え!? そ、それはちょっと……!!?」
驚くように顔を上げてアワアワし始めるリョーコ。
「言いなさい!!!」
頭に怒りマークをつけたヤマミはテーブルに掌でバンと叩く。リョーコはビクッと竦む。
口がアワワしながらも赤裸々に語り始めた。
──健気な貴族令嬢であるリョーコは、バレンティア王太子であるナッセと婚約していた。
しかしそれを快く思わない悪役令嬢ヤマミはナッセを篭絡して、リョーコとの婚約を破棄させようと策略する。
で、さっきのパーティーでナッセが「リョーコとは婚約破棄だ!!」と宣言してしまう。
リョーコは勘当される事で身分を剥奪されて平民同然となった後に王国を追放され、そこから最強の冒険者へ成り上がる。
しかも不遇の斧使いとしてスタートするが、無双展開してイケメンが次々と集まってくる話。その名も!
『婚約破棄から始まる没落令嬢が、斧使い冒険者となって最強へ成り上がる ~私だけのイケメンハーレム~』
「なろう系かぞ……?」
「そんなもの書いてたのね……」
「だから言ったじゃんー!!! こんな恥ずかしいの、あたしでも分かってるからー!!」
ジト目のヤマミに、リョーコは赤面で火を噴きそうにギャアギャア慌てていた。
ナッセもほくそ笑んで「同じ穴の狢って事かぞ……」と呟いた。
「で、王国を追放された後はどうなっていくの?」
「あたしと第一イケメンは冒険者として旅立って、次々と襲いかかる刺客をやっつけていく。そんで隣国で泊まると魔貴族大侵攻が起きる。それを無双して解決した後にオロナーン大陸へ向かう」
リョーコは口を窄めて目を逸らし、話が途絶える。
「「……その次は!!?」」
「終わり終わり。最初はノリノリで書いてたけど、そこで飽きてエタったの……」
「いやいやいや!!! そこでエタるなよ!!!」
実はアクセス数一日平均三〇〇前後だったんだけど、他人の作品がもっと数千数万と多いので萎えてしまった。その上で次々と書籍化する人もいてやんなっちゃう。
……そんな理由だからだとは言えない。
リョーコは目を逸らした。
「あ、目逸らしたわね……」
「う! で、でもでも設定だけはちゃんと考えてるんだよー? パソコンのメモ帳にずらりと」
「どれくらい設定を充実してるか知らないけど」
「王国や仲間や敵の色んなイケメンや、武器とか。もちろんイラスト付きでねー」
「イケメン書きたすぎる!!」
「欲望に忠実ね……」
「えへ」
つまりリョーコの自作小説は序盤と設定だけ充実したエタ作品だったのだぞ。
なのに異世界転移とか謎すぎィ!!!!
すると不意にバタンと扉が開かれた。
「大丈夫でございますかッ!!? リョーコ令嬢ッ!!!!」
黒髪二分けの長身イケメン貴族が踏み込んできたぞ。




