36話「相反する天地無双!! ナセロンとニーナの決別!!!」
「ナセロン!!!」
歓声が轟く表彰式、二位の授賞を行っていたナセロンは振り返った。
殺意を漲らせた鋭い目つきのニーナが歩んできていた。ゾクッと背筋が凍る。
「私と一緒に、世界を破壊し尽くすと誓え!!」
殺意を漲らせた表情で手を伸ばす。
「に、ニーナ……??」
「こいつらと馴れ合うな！ 貴様は私とともに歩むべきなのだ!! 破壊の道を!!!」
溢れ出てくる尋常じゃない威圧で、地鳴りが徐々に大きくなっていく。
あれだけ湧いていた歓声が静まっていく。
「ナセロンッ!! ヤツは──……」
叫ぶナッセ。支配神ルーグは目を細めて様子を見守っている。
ナッセのそばへヤマミが瞬間移動のようにフッと降り立つ。
「ごめん！」
ナセロンは俯きながら言う。ニーナは信じがたい言葉に耳を疑って見開いていく。
緊迫する一触即発の最中でナセロンは観戦席にいる母と妹を見やり、今度はブラッド、そしてナッセとヤマミに視線を次々移す。
意を決して首を振る。
「ボクはこの世界を破壊したくないよ」
「天地無双の夢とは、破壊の先にあると知ってもか!?」
「以前はそう思っていた……。けれど、ナッセとヤマミをウザったく思いながらも関わる内に荒んだ心を埋めてくれる大切なものができた。お母さんティラミス……そして兄さん…………」
ニーナを突き刺すように見据えるナセロン。しかも手を伸ばしてきた。
「みんなと一緒にいる方が絶対楽しいから!! 一緒に……!!」
もはや澄んだ目をしているナセロンに、ニーナは愕然とした気持ちに胸中を支配された。
これほど隔てられるとは思いもしなかった。
見るのも憚るほどに悍ましい全世界を破壊し尽くすべき、我が欠片を次々と開封して取り込み、最後に半身であるナセロンと意気投合して究極の存在へと昇華すべきと決めていた。
ニーナは憎悪に満ちた顔で歯軋り。ギリ……!!!
「ふ……ざけるなあぁあああッ!!!!!!」
暗雲渦巻く天空より黄金の落雷がニーナへ直撃。
周囲へビリビリと威圧が響き、余波が旋風となって荒れ狂う。
激怒で満ちたニーナに変化が訪れた。邪神スペリオルのように胸元と額にモミジのような黄金に輝く紋章が浮かび、黄金の両翼が背中から伸びていく。
そして天空へフワッと浮いていくニーナ。
「あ、あれはッ……!? 金色の破壊神ッ!!!!」
「ニーナの姿を取っていた超高位天使!!! そして最強の破壊神ね!!!!」
戦慄を帯びたナッセとヤマミはボッと妖精王に変身する。
ナッセは白い妖精王、ヤマミは黒い妖精王、と対照的な変身をしてきて周囲の人々を驚かす。
支配神ルーグは黒いシルエットのまま汗をかいて「マジですかい？」とおののいている。
「幾多の悲劇を連ねて血みどろに染まりし世界を破壊し、罪に汚れし愚者どもを駆逐せし、あらゆる次元を切り裂け!!! 世界を滅ぼせし神滅の威光よ!!!! 神々の没落ッ!!!!!」
ニーナがかざした手に、神々しい黄金の剣が稲光を伴って具現化された。
世界ごと震え上がる程に凄まじく、圧倒的すぎる破壊神のドス黒い威圧が席巻────。
誰もが愕然とするほどの絶望的な力の差を突きつけてくる。
「この破壊神たる力を思い知れッ!!!!!」
激昂したニーナがラグナロクを振るうと、膨大な黄金の雷が爆ぜて、四方八方へと放射された。
ズガカアアアアア────────ンッッ!!!!
それは巨大な稲妻として世界中の空を駆け巡るほどで、大気が、大地が、海が激震する。
直撃しないように放たれているとはいえ、大半の人々が失神するほどだ。
世界を破壊するという彼女の言葉は伊達ではない。
圧倒的かつ絶対的な破壊が浮遊コロシアムを呑み込まんとする時、ナッセは切羽詰った。
「ナッセェ!!!!」
「おおッ!! デコレーションフィールド!! 攻撃無効化ッ!!!!」
ヤマミと手を繋いで連動する事で倍増し、ナッセは手をかざした。
絶望を呼び込む破壊の光が、希望を呼び込む暖かな光に変えられて、白鳥の群れとなって四方八方に飛び去っていく。
それでも押し潰さんとする圧倒的質と量にもナッセはヤマミと手を握り合って耐え続ける。
「ぐ……!!! お、オレはヤマミと一緒に異世界へワクワクするような冒険するんだああああーッ!!!!」
「うん!!! だから私たちは、ここで死ぬわけにはいかないーッ!!!!」
全てを断絶する破壊を切り開くかのようにオレたちは叫んだ。
無事相殺しきって、天空が青空にパアッと広がって人々に笑みと安堵をもたらした。
しかし、金色の破壊神ニーナはフッと不敵に笑む。
「ほんの挨拶がわりとはいえ、大したものね……」
「くッ!!」
「──だが、いずれ私こそが“天地無双”となり世界を滅ぼす!!! もはや馴れ合いはこれまで!!!」
ニーナがナセロンと同じ“天地無双”を目指すと誓うが、ナセロンにとっては真逆のものと悟り悲しげな顔を見せる。
「ニーナッ!!!?」
「ナセロン!! もはや貴様の意思は要らぬ!!! その半身たる力のみを奪い返すまで!!!」
ナセロンが手を伸ばすが、天空で浮いているニーナは稲光を発して姿を消す。
もはや決別されたのだとナセロンは愕然していく。
支配神ルーグは誰もいなくなった青空を見上げたまま、物事に耽る。
「る、ルーグ様……！」
「案ずるなアンゼルヌーク。遅かれ早かれヤツとは決戦する事は分かりきっていた。世界が消えるか否かの瀬戸際のな……」
「なぜ、今戦わなかったのですっ!?」
「どうせさっきのように逃げられる。それにヤツは挨拶がわりに留めただけだ。そうでなければ世界中が甚大な被害を被っていた。いくつかの国が消し飛ぶ」
「だ……だから……敢えて逃して……？」
「うむ」
アンゼルヌークは戦々恐々と息を飲む。
彼女は魔族ながらも、自分の行おうとしたワガママが矮小に見えてきて、早々心を入れ替えた事を安堵した。
「ヤマミ……」
「ええ。ここからが正念場よ。七つの魔王と総力戦……。そして……」
「ああ!! 世界の崩壊が始まる……!!」
「その時は今のよりもっと強い金色の破壊神と──!!」
オレたちは不完全ながらも金色の破壊神の猛威を恐ろしく思い知った。
そう、こちらの世界で最強の戦闘力一〇〇万オーバーの四首領クラスだと悟ったからだ……。
例え妖精王のオレたちが束になってかかっても勝てる相手じゃない。
「あんななのに、もし究極完全体になっちまったら……!!?」
恐怖で体が震えそうになる。
ふとヤマミへ振り向いて、じーっと見つめる。ヤマミは素っ頓狂な顔で「なに？」と首を傾げてくる。
「ヤマミ……、絶対読んでるだろ!!」
「えへ。ようやくバレちゃった」
ヤマミの屈託のないてへぺろで緊張がほぐれた。
次から新章が始まります！ お楽しみに！
