35話「まさかの覚醒!!? 金色ナセロン!!?」
ナセロンがリクエストしてきたので、ナッセは圧倒的な妖精王に変身したぞ。
その七つの魔王さえ上回る巨大な威圧感に引きずり込まれるかのように、ナセロンは呑まれようとしていた。ズズ……!!
「ナセロン!!!」
「ハッ!!」
ナッセが叫び、突発的に正気へ戻った。
「い、行くぞッ!!!」
ナセロンは意を決して、駆け出す。
ナッセの周囲だけが気圧が高いかのように押し退けられそうだが、それでも気張って剣を振るう。
ザヴッ!!!
ナッセは斜め上へと斬り上げている。
なんとゴッドスレイヤーの光の刀身が裂かれる。ちぎれた切っ先が虚空へ消えていく。
ナセロンは着地し、あっさり欠けた光の剣に呆然しそうになる。
「う……うおおおッ!!!」
汗を垂らしながらも、ナセロンは気合いを入れて元通りの刀身に伸ばした。
「くっ……!!!」
「こちらから攻めるぞ」
ナッセが瞬間移動かと思うほど間合いを詰めてきて、ナセロンは萎縮する。
振り下ろされてくる太陽の剣は大きなギロチンかと思うほど怖気が走った。
歯を食いしばって光の剣をかざして受け止める。
ギギィンッッ!!!!
ギリギリと鍔迫り合いするが、押されていて光の刀身に徐々に食い込んでいく。
しかしナセロンは苦悶に目を細めて察した。
今度は手加減しているんだ。本気なら剣ごと真っ二つにできただろう。不甲斐ない。
「うおおおおおおおおッ!!!!」
ナセロンは必死に後ろへ飛び退いた。通り過ぎた太陽の剣が地面へ食い込み一直線に亀裂が走った。
ゴゴゴッと飛沫を吹き上げて岩盤が捲れているのを目の辺りにし、手加減でも相当な威力と畏怖しそうだ。
それでも勝つつもりでナセロンはキッと気を引き締め、全身からオーラを噴き上げていく。
「うおおおおおッ!!! ルミナストッパ──ッ!!!!」
一直線と飛沫を上げながら、オーラの尾を引いてナセロンは剣の突きを繰り出す。
ものすごい超高速なのにナセロンにとってはスローに見えていく。
次第にナッセが居合抜きの構えを取って、力を太陽の剣に込めているのが見える。
死の直前からか、更にスローになっていく。
「サアアアアンンンンンラアアアアアイイイイイトオオオオ・スゥゥゥパアアアァァァクゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
超スローの世界なのに驚くほど速く迫り来る一閃が、死を連想してしまう。
恐らくルミナストッパーは破られて、逆に胴体に食らって致命傷を受ける。
ナッセとしてはギリギリ殺さないように加減するのだが、ナセロンにとっては生死関わる状況に感じていた。余裕はない。
死死死死死死死死死死…………!!!!
「うおああああああああああ────ッ!!!!!」
迫り来る死への抗いで、ナセロンは死に物狂いと昂ぶった。
すると額の星マークが徐々に邪神スペリオルの額紋章と同じ形へ拡大変化していく。胸にも紋章が現れ、両肩にも小さな羽が伸びる。それに伴って金色のオーラに切り替わって更に勢いを増す。
ズゴオオオ────ッ!!!!!
岩盤を捲れ上げるほど倍増したナセロンの鋭い突きに、ナッセは思わず見開く。
ニーナは「まさか!!!」と観戦席から立ち上がって驚く。
一時的にだが、金色の破壊神としての半身たる力が覚醒したようだ。
ナッセ!!! あんたを超えてやる────ッ!!!!
そんなナセロンの弾ける気持ちをナッセは察した。
二人の技が強烈激突し、噴火のように大規模に岩盤が砕け、大量の土砂を噴き上げた。
ズゴガアアアアアアアンッ!!!!
その後、上空で妖精王ナッセと金色ナセロンが激しい剣戟を繰り返して、あちこち激突して周囲に激震を呼んだ。
互い真剣な眼差しで激しく斬り合っていく。
「ボクはまだ負けないぞおおおお────ッ!!!!」
「ナセロン!! 受けて立つぞッ!!!」
ガガッガガガッガッガッガッガガガッガッガッガッガガガガガガッガガガッ!!!!
あちこちで凄まじい激突の連鎖が瞬間数百も繰り返され、激震とともに観客が興奮して歓声が湧いた。
ブラッドもヤマミもルーグもアンゼルヌークも驚いたまま、成り行きを見守る。
まさか妖精王ナッセと互角に打ち合えるなどと驚愕でしかない。
「これはいい……!!! やはりナセロンは覚醒しつつある!! 我が破壊神たる力が!!!」
ニーナは歓喜で震える。
想像以上に覚醒までのスピードが速い。しかし笑みが収まる。
懸念している事はナセロンの心情の変化。殺し上等の殺伐した精神が騎士道精神みたいなのに切り替わっている事だ。
今のナセロンは理性を保ってる気がする。本来ならありえない。
「徐々に疲労で弱ってる。そろそろ限界だから寝かすぞ」
「うッ!!!」
受け流してから、ナッセは太陽の剣を振り下ろしてナセロンの頭を打つ。
ゴッ!!!!
そのまま落下激突して爆撃のように土砂を噴き上げた。煙幕が晴れてクレーターでナセロンが大の字で気絶していた。
微かに震えて「うぅ……」と呻いている。
ナッセは一息を付いて、ゆっくり着地した。
《なんとォ────!!!! ナセロンがパワーアップして意外にも善戦したが惜敗!!! やはり優勝したのは妖精王ナッセだあ────ッ!!!!》
「「「どわああああああああああああああああああああああッッ!!!!」」」
決勝戦らしい盛り上がりで、観客の歓声が大音響していく。
ナセロンの母も感動してか「強くなったね……」と笑顔で涙ぐみながら、妹を抱き寄せる。
大歓声の祝福を受けながら、ナッセはナセロンを見下ろしていた。
「早々に出てきたか! 金色の光輪騎士ナセロン……!」
原作では、大会後で強敵に出会う度に理性なく戦っては気絶する展開だった。
これを繰り返すたびに寿命が縮むのだが、実際は体が作り替えられている。
七つの魔王最強アリエルの挑発で完全覚醒した時に、ようやく理性を取り戻すのだが……。
「さすがだぞ、早くも自分でコントロールできてるように見えたしな」
ナッセは安堵して、太陽の剣を肩に乗せて笑む。
今のナセロンは原作以上に希望が持てるぞ。良かった良かった。
その後、大喝采が送られる表彰式でナッセは大会主催者であるルーグから優勝カップを受け取った。
「優勝おめでとう。いやはや強いねー、君。そしてもう一つ……」
ルーグは金メダルをナッセの首にかけた。
世界大会を連覇していたニーナが「金メダルの授与なんて初めてね」と怪訝そうにしてた。
「今回は七つの魔王を倒したし、その健闘を称えて金メダルを送るよーん」
「あ、ああ……。ありがとう」
「ここだけの話、金メダルは装着したままマフラーの下に隠しておいてね。きっと役に立つよー」
ルーグがボソボソ耳打ちしてきた。
「ああ……、分かったぞ」
負けたナセロンは残念そうだったが、どこかスッキリした顔を見せていた。
そして殊勝に拍手する。
「悔しいけど、今回はボクの負けだよ。でも今度は勝つ!」
逆に観戦席に佇むニーナは不機嫌に顔を歪ませていく……。
「あくまで光の方を目指すわけね……。こんな歪な世界で無意味に…………」




