33話「獄炎魔王ルシアが大会で研究成果をプレゼン!?」
ライバル同士であったナセロンとブラッドの白熱した激戦も決着した。
観客の興奮も冷めやらぬようで歓声が湧き上がっていた。
《では次の準決勝戦を始めます!! 妖精王ナッセ選手と神聖拳匿名希望者選手、闘技場へ!!》
銀髪のチビとしか思えないナッセだが、七つの魔王フレアネスドを撃沈させた事もあって期待感は高い。
そしてこれから現れる三メートル強の大男も威圧を漲らせてズンと大きな足を踏み鳴らす。
フハァ~と笑みを見せてくる。
「お前は獄炎の……?」
「フフッ、気づいていたか! さすがよな」
全身を隠すような黒いフードを脱ぎ去った。観客もどよめく。
筋肉隆々の半裸の男。鬼のような強面。ボサボサの長い黒髪ロング。額からは三角錐に尖ったツノが反射光で煌く。
「そう!! 我こそが獄炎魔王ルシアよッ!!!」
「人間の身ながら、人類最強と恐れられるほどに鍛え抜いた男。当時は無類の力を誇っていたが、一二〇年前に勇者ガルドによって討伐された。しかし実は生きながらえていて、更なる強さを求めていた時に七つの魔王の存在を知って挑んだが敵わず、己の限界を知り悔み、人類が魔族を超えうる研究に着手した。ずっと身を潜めていたお前がここに来たという事は……」
「フハハハハハ~~!! よくぞそこまで知り得たか!! 人外よ!!!」
誰も知らないはずの自分を知るナッセに歓喜し、地面を揺るがすほどの威圧が増した。
「その通りだ! 貴様は魔族か知らぬが、人智を遥かに超えた人外! よく我の素性を見抜いた!!」
「……好きで人外になったわけじゃねぇけどな」
ナッセはジト目でゲンナリする。
そもそも獄炎魔王ルシアを自分で描いてたんだし、設定を知っていて当然だろう。
本来なら、聖騎士ナセロンと戦うはずだった。
しかし、今はイレギュラーとして作者自身が獄炎魔王と対戦するハメになった。
「今こそ、人類が魔族を超えると証明すべき、我が人生を懸けた研究の成果を公表する!! 見るがいいッ!!!」
「できればオレの前で痛い設定を公表して欲しくないぞ……」
「恐れおののくには早すぎるだろう!!? 遠慮なく見よ!!!」
「え──……」
ルシアが力むと、メシメシと皮膚から鎧のようなのが隆起していく。
肩当てのように両肩から隆起し、バンと左右に伸びる。全身の筋肉が鎧に置き換えられるように甲殻へ変質。
左右のこめかみから二本のツノが伸びていく。
脱皮を済ませたかのように、ゴツイ体格に膨らみ甲殻が徐々に赤黒く染まっていった。
「獄炎魔王改め、超魔獣王ルシア見参ッ!!!!!」ドオオオッ!!!
火炎のようなオーラを噴き上げて威風堂々と吠えるルシアに対し、ナッセは赤面してプルプル羞恥に震えていた。
実は好きだった少年漫画の合成魔獣設定をパクったキャラなのだ。
モンスターの秀でた特徴を掛け合わせて合成されたという設定で、傷ついても高速回復ができ、超強力な闘気を捻り出し、神が創り出した最強の騎士と互角以上に強くなるっていうやつ。
「止めてくれ!! そいつはオレに効く! 止めてくれ!!」
「……おちょくってるか知らんが、止める理由にはならんな。いいから妖精王になれ。試させてもらうぞ」
なんかイラっとしてる様子だが、まぁ作者を相手してるとは思わんよな。
「しょうがねぇな……。本当はナセロンと戦って、次世代への希望を抱きながら死ぬ予定だったのに」
「次世代へ……?」
「気にすんな。こっちの話だ。それよりユウリュウはいないのかぞ?」
「ユウリュウ……? 知らん!! 誰だそいつは!?」
「そうか……いないのか…………」
事情を知らぬルシアは怪訝な顔をしてくる。
ナッセは思い返す。本当はクラスチェンジした聖騎士ナセロンに負けた際に安堵の顔をしながら逝く予定だったんだよな。
「我の代わりに高次元の壁を壊してくれるのだな。……そして確信できた。今世代が受け継ぎ、その強さを進化させて、また次世代に受け継がれていき……更に…………!!!」
って感じで悟ってナセロンに託すみたいな締めになる。
そして今度は、その養子であるユウリュウが復讐しに来てビクターに倒されて仲間になってくれる展開になる。だが、今回はそれらがなくなっちまった……。
「おおおおッ!!!」
ナッセが裂帛の気合で吠えると、足元からポコポコと沸騰するように淡く灯る花畑が広がっていく。
銀髪がロングになって舞う。背中に咲いた花から四つの花弁が離れて、拡大化して翼のように浮く。
瞳の虹彩に星マークが浮かび上がる。
そして地を揺るがすほどの凄まじいフォースが天を衝いて噴き上げていく。
「これが妖精王だ!!!」
「おおっ……!!! まさしく人外ッ!!! 我が超えるべき高次元の壁ッ!!!!」
「来い!! ルシア!!!」
「フハハハ~ッ!!! 相手にとって不足はなしッ!!」
超魔獣王として凄まじい圧迫感と共にナッセへ迫る。その大きな拳が全てを吹き飛ばさんと唸る。
激突の際に後方へ衝撃波が走り、砂煙と破片が流されていく。
「なっ!!?」
仁王立ちしているナッセの胸元で、ルシアの大きな拳が止まっていた。
いくら人間やめて強くなっても七つの魔王には一歩及ばない設定。その七つの魔王を圧倒したナッセに通じないのはムリもない。
そもそも聖騎士ナセロンが苦戦する程度に設定しているんだからさ……。
「気が進まねぇけど、こっから行くぞ」
「ぬうッ!!?」
星光の剣を振るって超魔獣王の脇腹に食い込み、ルシアは見開いて「がほっ!!」と吐血。
更に目にも留まらぬほどの剣戟を繰り出して、大柄な体さえ左右に揺らしていく。
最後に斬り上げて、大柄なルシアを宙に浮かし仰向けでズダァンと落下。
「う……ぐッ……!!? こッ……こんな……ッ!!?」
「独り善がりで魔獣になるこたぁねぇだろ。弟子を持って鍛え上げて次世代に受け継がせて強くしていく方がいいんじゃねぇのか?」
「ふ、ふざけるなああッ!!!」
ルシアは腕をブルブル震わせて無数に残像を増やして、まるで千手観音のように円陣を組んでいく。
それは嵐のような拳の弾幕となって迫り来る。
「喰らうがいいッ!!! 拳王秘奥義!!! 千手観音乱舞ッ!!!!」
「流星進撃!!! 二〇連星────ッ!!!!!」
しかしナッセの繰り出す必殺の一瞬連撃が、ルシアの多重拳を破り本体まで滅多打ちしていく。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!
「ぬああああああああああああああああッッ!!!!!」
はるか向こうの障壁へ吹っ飛んだルシアは大の字で張り付き、その際に周囲へ衝撃波が爆ぜた。ルシアは白目でガハッと吐血。人生を懸けた研究の成果も虚しく地面へ倒れこむ。
ドサ……と伏して微動だにしない。
《な、な、なんとォ────!!!! 妖精王ナッセ、またしても魔王に圧勝ォォォ────ッ!!!!! 余裕で決勝進出ですッ!!!!》
大歓声が音響する最中で、ナッセは切なそうに「研究ぶち壊して悪い」と呟いた。




