29話「ナッセ、今度はナセロンの兄貴と戦う!!!?」
不戦敗になったと思ったナッセはヤマミと一緒に観戦席へ悠々と戻った。
しかし闘技台でビクターが腕を組んで待っているのが気になった。
「おい!!! ナッセ!!! そこでなにノンキに座ってやがる!!? さっさと来やがれ!!」
なんとこっちを見て、ビクターが怒鳴ってきた。
「え? もう時間切れになってんじゃ??」
《二回戦で妖精王ナッセ選手と戦闘狂ビクター選手の試合です。今回は特別にビクター選手が遅刻を許してくれたようで、待ってくれています。闘技台へ》
「遅刻してすまねぇ。だがルールに則って特例は作りたくねぇから棄権する」
「うっせー!!! こちとらナッセと試合したくてたまんねぇんだよ!! 不戦敗で逃がすかってんだー!!!」
《……だそうです》
「えぇ……」
周囲の観客の目が痛いので、渋々闘技台へ向かう事にした。
ビクターが腕を組んで待っている。
「体は……もう」
「気づいていたのか!? だが、そんな事を気遣うんじゃねー!! オレは同じ勝ちでも不戦勝なんか嬉しくねーよ!!!」
闘争心の塊のような男。
元はパクったキャラなんだが、まさか嫌でも戦いたいと言い出すとは思わなかった。
「本気で戦うと体が持たねぇ。だから最期にナセロンと戦った方がいいと思ったぞ」
「おまえだから戦いたいんだよ!! クラスチェンジ!!!」
腹の底から闘志を叫び、そして最後の一言で闘技場を揺るがし嵐が吹き荒れる。
ビクターの威圧が膨れ上がってビリビリ空気が震え上がって、観客は驚きおののく。
「闘魂王ビクター!!!!」
足元から闘技台を割ってしまうほど衝撃波が溢れ、V型の鎧を着込んでバージョンアップされたビクターが姿を現す。
しかし口元から血が垂れる。
「へへ……!! これで五分の寿命になっちまったな!!」
「どうしてそこまで!?」
ナッセはボウッと銀髪ロングに伸びて舞い上がって、背中から四枚の羽根を浮かし、足元からポコポコと花畑が沸騰のように咲き乱れ続ける。
それでもビクターは爆速で襲いかかってきて、拳を振るう。
「如何なる強敵も、悪敵も、仇敵も、我が鍛え上げし心技体で打ち破れ!!! 勝利光輝剣ッ!!!!」
なんとビクターの両腕にV型の刃を備えた手甲がシャキーンと具現化された。
ナッセは太陽の剣を生成し、それを受け止めた。ズン、と震撼が広がって嵐のような衝撃波が溢れ出して周囲の障壁にまで広がった。
今度はナッセとビクターが激しいラッシュを繰り広げていく。
「カツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカァーツ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
その激しい激戦で、観客の歓声が沸いた。
ビクターの目にも留まらぬラッシュを、ナッセは太陽の剣の剣戟で対抗する。
それだけで足元は凄まじい衝撃波で爆ぜ続け、地盤が捲れ上がっていく。
「この一撃で勝ァーつッ!!!」
V型の刃が肥大化し、ビクターの輝く拳が唸る。
ゾッと戦慄を感じたナッセは、咄嗟に前転宙返りしながら剣を振り下ろす。
「完全勝利一撃──ッ!!!!」
「サンライト・ローリングフォール!!!」
その二つの必殺技が激突し、衝撃波が大規模に爆ぜてゴゴゴゴと震撼が起こる。
それは真下の魔法都市はおろか、遠くの周辺の町や村にも及ぶほどだ。
「やっぱ見込んだ通りだぜ!!」
「ぐッ!!」
今度は空中であちこちで激突の連鎖を繰り返して、嵐のように二人は戦い合う。
そんな最中でビクターがひどく落ち着いた口調で語りかけてきた。
「こんなにもテメェは頂点に迫るほどの力を持っている。それにも関わらず驕らず、普通の人のように振舞う。だからこそ伝えたい事がある」
「ナセロンの事か……!?」
「勘がいいな。そうだ。ナセロンは金色の破壊神の半身だ。今は眠っている」
だからこそニーナはナセロンに絡んでいる。
強敵をぶつけて成長させているのも、リフレアルトのように封印を解いて半身を目覚めさせる為だ。
ただ、リフレアルトとは違い死んだら封印は解けず、次に生まれ変わってしまう。
「ニーナは……、金色の破壊神は、覚醒したナセロンを吸収して完全体になるつもりだ」
そこはナッセが描いた漫画の設定通り。
だからこそ兄貴であるビクターは幼いナセロンに接触しようとしていたニーナと戦ったのだ。
しかし痛み分けで終わってしまう。
その間にナセロンは師匠から戦い方を教わって自分の意思を持って戦うようになった。
そのせいで洗脳して覚醒させる手は潰れてしまう。結局ニーナは強敵をぶつけて覚醒させる作戦にシフトせざるを得なかった。
「テメェが何者かは知らないが、ニーナの手下とも味方とも思えねぇ。だからこそ伝えたかったんだ」
「オレが何とかしてくれると思って!?」
「ああ。癪だが、オレにはもう命が残ってねぇ。ナセロンを任すとか無責任な事は言わん! だがニーナをなんとかしてくれ!!」
ナッセが流星進撃を繰り出し、ビクターは勝利への執念のままにガムシャラな拳の連打による勝利猛烈嵐を繰り出す。
数多に及ぶ一撃一撃が相殺し合って、激突の度に衝撃波が爆ぜる。
刹那の一瞬の間に数百発も重なり、蓄積した衝撃波が一気に噴き上がって遥か上空にまで昇っていって、轟音とともに解放された。
「分かってるよ! ニーナはまだ自分の娘の事を引きずってんだ!! なんとかしてぇ!!」
「なら、任せたぜ!!!!」
事情を知る相手だからか、ビクターは安心したように叫んだ。
もう寿命残りわずか数秒と悟ったビクターは、更に命を燃やして凄まじいオーラを噴き上げて全てを震撼させていく。
かつて金色の破壊神と痛み分けになるほどの威圧が感じられる。
「全ての命を賭けて勝ぁ────つ!!!」
ビクターは音速を遥かに凌駕する超高速突進により、激しく凄まじいオーラの尾を引く。
両腕のV型の大刃が並んで突き出されているので、W型に輝きを放っている。
それこそが命を賭けている一撃だとひしひし感じる。
ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
「こっちも負けられねぇッ!!!」
ナッセも全身全霊で迎え撃たんと、周囲から無数の光子を太陽の剣に収束させていって銀河の剣へと変貌させていく。
螺旋状の装飾を備え、一本だけまっすぐ長く伸びる一〇メートル強の刀身。まさに銀河を模している超巨大な剣だ。
それを居合抜きのように構え、最強最速の横薙ぎ一閃を放つ。
「三大奥義が一つ『賢者の秘法』!!! ギャラクシィ・シャインスパァ──クッ!!!!!」
「だがオレが絶対に勝ァ──つ!!! 絶対勝利双撃!!!!」
ガッッ!!!!!
超強力な一撃同士で衝突し、爆ぜた閃光で全てを眩く覆った。




