28話「ニーナの地雷を踏み抜くナッセ!!! ヤバない!!?」
ヤマミとニーナが大魔法合戦を繰り広げて、世界をも揺るがすかと思うほどの激戦になっていた。
数分かけて爆風が晴れていくと、闘技場は床と障壁を除いて丸々消し飛んでいた。
支配神ルーグが張ったとされる障壁がなければ、真下のアロンガ魔法都市もろもろ消し飛んでいただろう。
《な、な、なんとぉ────!!!? ヤマミ選手もニーナ選手も消し飛んでしまいました!!? 一応カウントダウン開始です!!!》
ルールとしては選手が忽然と消えている場合、一〇までカウントダウンが取られる。
一〇まで数え終わる前に姿を見せなければ負けとなるのだ。しかし今回は二人とも消えているので、どちらか一人が姿を現せば勝敗がつく。しかしどっちも現れないと……?
《……八、九、一〇!!! ゲームセット!!! 両者敗退です!!》
観客は「えぇ……!!?」と、まさかの引き分けで二人とも脱落という結果に戸惑った。
とはいえ、クラスチェンジしての最強魔法は想像を絶する破壊力になる。普通に両者が消し飛んで逝ってもおかしくない。
ナッセはトイレが行きたくなったかのように観戦席を離れて、内部構造の人気のない通路で足を止める。
すると眼前に黒い花吹雪が渦を巻いて広がり、中からヤマミが降り立った。
「いいのか?」
「ニーナもそうなんでしょう? 最初っからブラッドとナセロンをぶつける為にね」
「漫画じゃブラッドと対戦前にニーナが棄権してたがな」
「今回は私のベールを剥がすためだったけど、ついでで一緒に消えて引き分け敗退って都合よくトーナメントを離脱したわけね」
すると真っ暗の影からニーナが歩いてくる。カツカツ……。
「ホント食えないわね」
「お互いさまでしょう」
暗闇から薄ら笑みを見せたニーナとヤマミは見据え合う。
そしてナッセとヤマミでニーナと向き合う。
「ヤマミの方も七つの魔王以上……。あんたら二人は同格と見たわ。そしてまだ切り札をいくつか持ってる。どう?」
「どうかしらね」
「それにしても、思ったより勘がいいな」
ナッセの言葉にニーナは鼻で笑う。
「あの戦闘狂ビクターと、どういう試合になるか楽しみだけどね」
「ずっと前にナセロンに目星をつけたおまえを阻むためにビクターが挑んだ。世界の誰も知らないが、頂上決戦級の死闘の末に痛み分けで終わって、ビクターは後遺症を負った。そんなんやっても仕方ねぇだろ」
「どこで知ったか教えてくれない?」
「言うと思う?」
眉を跳ねたニーナの問いに、目を細めたヤマミが代わりに問いで返す。
「私はねヤマミに聞いていないの。ナッセに聞いているのよ」
「じゃあさ、その黄金の宝石……『ラクリマ』を全部割って正体現したら、力ずくで聞けるかもな……」
「へぇ?」
殺意を孕むニーナは目を細める。
挑発したが、絶対に乗ってこない事はナッセも分かっていた。
「金色の破壊神の一部を封印していたラクリマを壊してスペリオルを解放したところ見てないのに、知ってるんだ?」
「あれ? 自白した?」
「白々しいわね。知ってるくせに」
ここで問いただそうとしても、延々と繰り返す腹の探り合いでは埒があかない。
ニーナは狡猾で用意周到だ。短絡的に本性を現す真似はしない。ましてや支配神ルーグがいるこの場は分が悪い。
こちらの秘密をどこまで知っているのか分からない正体不明の二人組の強さもまだベールを脱いでいない。
「まぁ、邪魔する気はねぇんだけどな。金色の破壊神の最終目的」
「じゃあ、私と組まない?」
大胆不敵にもニーナは提案する。
「……オレたちと組む?」
「なぜ?」
「最終目的を知ってなお、止めないという事は賛成していると見てもいいかしら?」
金色の破壊神、その名の通り最終目的は……。
「七つの魔王の一角である混沌王アリエルと組んでるのに、浮気していいのかぞ?」
「どうせ本命のナセロンにけしかけるんでしょう?」
「どこまで知ってるか知らないけど、あんまり調子に乗らないでもらえるかしら?」
ピリッと空気が張り詰めていく。
「利用されるのはごめん被るわ」
「同じくな」
「あんたらの目的は一体何? 世界の終末以外にあるって言うの?」
ニーナにしてみれば、二人の意図が全く掴めない。
終末を止めたいなら支配神ルーグを巻き込んで、この場で総攻撃をすればいいはず。
多大な犠牲は出るが確実に倒せるだろう。
「……それとも、その先の『結末』を予想……、もしくは知っているから?」
しかしナッセもヤマミも沈黙するのみ。
無言の肯定か、ニーナは薄ら察して踵を返す。これ以上の話は無駄。
「幾千年……幾千年……闘争は絶えず悲劇は繰り返される。これまでも、そしてこれからも……。だから、私はそれを止める!! 無に帰す事でね!!!」
「全世界を敵に回してまで終末を叶えたって、娘は喜ばねぇだろ……」
「いちいち地雷を踏み抜かないと気が済まないわけ……!!?」
足を止め、憎悪の形相で振り向く。
しばし睨んだ後に静かに歩き去っていった……。
「ナッセ! やりすぎ!」
「すまん」
ため息をつくヤマミ。
「この大会の後でナセロンとニーナは別れちまうからな……。実質的に敵対関係になる」
「そうね」
「ところで読んだ?」
「いいえ。読んでいないわ」
「かな~? ホントかな~~??」
ジト目のナッセにじりじり寄られて、ヤマミは「うふふ」と微笑む。
その頃、歓声が轟く最中でビクターが闘技台に突っ立っていた。
《えっと……。妖精王ナッセ選手は来ないみたいなので、不戦敗となります》




