21話「弓兵キュミガソ vs 騎士ナセロン」
予選が終わり、本戦トーナメント表が翌日に出された。
観客などが見やすいように、闘技場の真上でホログラム映像のように浮かんでいる。
その対戦の組み合わせに、どよめく観客。
「えええ!?」
「マジで、こういう事あんのか!!?」
「ナセロンのやつ集中攻撃うけるじゃねーか!!」
「誰だよ!? こんな不平等なトーナメント考えたの!!!」
「責任者出てこーい!! 今からでも変更してやれよっ!!」
ザワザワ不平不満がにじみ出てきている。
支配神ルーグが傍らのアンゼルヌークを見やる。
「昨日に出してあったのと違うではないか?」
しかしアンゼルヌークは不敵に笑ったままだ。
「あのナセロンですよ。そのまま普通にやらせたらニーナの思い通りじゃないですか? せっかく中級魔族をけしかけてクラスチェンジできるのが判明したし、確実に始末してやらなきゃね」
「む……!」
そう、ナセロンへ全選手が挑むような偏ったトーナメントになっていた。
微かに一回戦は大半が対戦が組まれているが、勝ち抜いた選手がナセロンへ集中する感じだ。
「確かに漫画通りなんだけど、よりによってリフレアルトつーか七つの魔王フレアネスドとオレが戦うんかい!!! しかもその次がナセロンの兄貴ビクターだし!!!」
「おかしいわね……。もしナッセが漫画通りなら、ヨスイの代わりにルア・ルヴァ選手と対戦する事になるけど不戦勝になるはず」
「え? 読んだ??」
「いいえ」
ヤマミはポーカーフェイスでしらばっくれる。モヤッとするぞ……。
しかしヤマミとしては、ソフィーナの代わりになっているのでモブ選手の次がニーナ、更にその次がブラッドという流れになっている。
「くふっ。お手柔らかにね~」
「そっちこそ……」
皮肉るような笑みのニーナに、目を細めて応えるヤマミ。
「グワハハハーッ!!! どいつもこいつも歯応えねぇな!!! さっさと優勝しちまうかぁ!!!」
フレアネスドは大笑いして優勝を確信している。
まるっきりリフレアルトとはキャラが違う。まぁ元々はどっかのパクりキャラだしなぁ。
だが、実際強い。優勝候補と言っても過言じゃない。
戦闘力としては聖騎士ナセロンが現在九万と考えれば、ヤツは二〇万前後?
「うーん。変身どうしよっか?」
「してもいいわよ。予選を見るに容赦なく選手皆殺ししてるし、手加減してくれる相手じゃないでしょ」
「あー、そっかぁ……」
本来なら変身しなくても勝ち抜けるかなって軽い気持ちだったんだが……。
よりによって七つの魔王の一角が参加してるなんて思ってねーもん。
《それでは一回戦を始めます!! 騎士ナセロン選手と弓兵キュミガソ選手、両方とも闘技台へ!!》
ナセロンとキュミガソが広い闘技場の端の入口から歩いてきて、中心部の闘技台へ向かう。
タイルを敷き詰められた円の高台。
両者がその上へ登って、向かい合うと周囲から歓声が湧き上がる。
《では始め!!! ファイッ!!!》
するとナセロンがタイルを蹴って、ギャグっぽいカタツムリことキュミガソへ迫る。
「へへっ!! あんたを倒すには騎士で十分だよっ!! 不遜なる神を断罪すべき、軌跡を描いて切り裂け!!! 神殺しの光輝よーッ!!!」
光の剣を出すと冷徹な性格に豹変し、殺意を漲らせた。
一方でキュミガソはキョトンとしたような丸い二つの目で見据えていると口を開けて光を出す。
ドッゴーンと光線が一直線とナセロンへ迫る。
「何ッ!!?」
咄嗟にナセロンは横へかわし、通り過ぎた光線が闘技台周辺の柱を撃ち貫く。外側の方へ柱がズズンと倒れた。
「生身で食らったらただでは済まない破壊力だな。ならば接近戦に持ち込むか」
ナセロンはすかさずキュミガソへ間合いを詰める。
しかし見計らったように、キュミガソは飛び上がるなりカラに引っ込めて縦回転して飛び出す。
ガギィッ!!
光の剣に弾かれた回転カラは、自在に方向転換して再び飛びかかってくる。
伝説の魔剣にも傷つかぬ頑丈なカラを相手に、激しい接戦が繰り広げられた。
ガッ、ガガッ、ドッ、ズガッ、ガギッ、ギィン!!!
「硬いな!!!」
光の剣で何度も斬りつけているのに、キュミガソのカラは割れる様子がない。
しかも顔だけ出して「プッ!」とバカにして笑ってくる始末。
腹が立ったナセロンが回転カラを執拗に斬りつけていく。そのまま割ろうとする勢いだ。
ズガガッ、ガガガッ、ガガッ、ズガガガッ、ドガガッ!!!!
「ぐっ!!」
汗を垂らすキュミガソは間合いを離れ、ドッゴーンと光線を吐く。
「シールド!!!」
光の剣を振るって六角形の光の盾が生まれて光線を弾いた。
キュミガソはその隙に回り込んでカラでぶん殴ろうとしてくるが、ナセロンは飛び上がって逆に後ろに回り込んで顔をザンッと両断した。
「プグフッ!!!」
しかしニョキッと顔が再生される。
カタツムリなので再生力は高いようだ。しかも速い。
「無駄無駄ァ!! 例え首を何度斬られようが再生できるのだァー!! ピプププッ!!」
「なら、カラを割って中身をぶちまけてやるよっ!!!」
意地となったナセロンは光の剣でカラをガンガン殴り、少しヒビが入り吹っ飛ぶ。
「プグフーッ!!!」
タイルを滑って倒れるキュミガソ。焦ってか立ち上がってドッゴーン光線を連発する。
しかし一発ずつ撃つしかないのでナセロンはことごとく回避しまくってしまう。
「おのれー!!!」
キュミガソは破れかぶれと全力でカラによる回転アタックをナセロンに食らわそうとする。
ナセロンも待ってましたと言わんばかりに力を溜めてて、オーラが放射状に吹き荒れていく。
「うおおおおおっ!!! カミナリトッパーッ!!!!」
轟音を伴って一直線と光線のようにナセロンが突進して、キュミガソを木っ端微塵に粉砕。カラが粉々に四散した。
まるで雷が直撃したがごとく、一瞬真っ直ぐの軌跡を描いて敵を粉砕する技。
観客は「わあああああああああっ!!!」と盛り上がって歓声を上げた。
もうもうと煙幕が立ち込め、晴れると人影が出てきた。
「ああああッ!!?」
「封印の魔カラを砕きし時、我の真の力が解放される……。もはや加減が効かぬぞ」
なんと金髪イケメン長身男がキリッと現れたのだ。
「真・キュミガソ降臨!! カタツムリ神の加護を受けし騎兵よ!!」
キュミガソの背後から、どう見ても巨大なアンモナイトとしか思えないナマモノが現れたぞ。
オーラを纏っているので具現化系だ。
なんか臨場感を表すようにドドドドドドドと音がする。
「なんなの? ス○ンド……?」
「聞かないでくれ! 色々影響されてツギハギに足してるから!」
ヤマミのジト目に、ナッセは頭痛そうに額に手を当てて俯く。




