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2話「主人公ナセロンの厨二病的設定!!?」

 ─彼は後に“天地無双”の聖騎士(パラディン)ナセロンと謳われる事になる……!

 ─その時までの話を、お主らとともに聞く事になる。

 ─刮目せよ! 彼の生き様を!


 ナッセは顔面真っ青で頭を抱えながらへたりこんでいく。

 ヤマミは相変わらず冷静。なんたって既に彼氏の黒歴史漫画を読破してて、全てを知ってるからだ。



 シーンが切り替わって、岩山が突き出ている荒野。

 そこで明るい少年がいた。


「はれー! 夢に出てきた女神さんキレイだったなー!」


 彼はナレーションで紹介されたナセロンである。

 茶色のマフラーっぽいのを巻き、薄い橙の衣服。小さいツノが一対と生えた金髪でツーウェイの前髪に逆立った後ろ髪。

 どう見ても楽したいビジュアルだ。


「へぇ、ナセロンね……」

「あ、あはは……。そうだね。見た事もない異世界の人間だぁ……」


 上擦っているナッセ。ひきつった笑顔だ。

 しらばっくれているが、ヤマミは問いただそうともしない。なぜなら知ってるから。


「はれ?? おまえたち誰?」


 なんとナセロンが振り向いてきて、首を傾げてきた。


「私はヤマミよ。そしてこちらがナッセ」

「はれっ!? ボクの名前に似てる!?」

「そうね」


 普通にコンタクトしてるヤマミに、ナッセは「もういい……。やめてくれぞ……」と震えながら手をかざしている。

 ナッセとしては自分の黒歴史をほじくり回されている気分である。最悪だ。


「とにかく一緒に行きましょう」

「それより、この異世界を抜け出さないと……!」


 フニャフニャになっているナッセは一刻も早く脱出したい気分だ。


「はれ? ナッセ兄さんは気分悪いの?」

「そのようね。では近くの町へ行きましょうか」

「うんっ」


 フニャフニャ状態のナッセの手首を引っ張ってヤマミは、ナセロンと一緒に荒野を歩いて行った。


「ナッセ兄さん、ヤマミ姉さん。ボクには夢があるんだ」

「なに?」

「実は師匠から旅立てって言われて、これから広い世界を歩いて回るんだ。そして誰も敵わないほど“天地無双”の聖騎士(パラディン)になりたいんだ!」

「いい夢ね」

「ありがとー! まだまだ騎士(ナイト)だけどね」


 ニッコリするヤマミに、ナセロンは無邪気な笑顔で応える。


「……ヤマミよ、なんで普通に会話できるん?」

「せっかく異世界転移してきたんだし、未知の世界にいる人間とコンタクトとれるって経験はなかなかないからね」

「そ……それはそうだが……」


 なんかヤマミノリノリに見えなくないか?


「どうやって脱出できるかも皆目付かないしね。ここは一応ついていくしかないでしょ」

「うう……、それしかないんか……」


 観念するしかないとナッセはトホホと項垂れる。


「いっくぞ~~!!」ワーイ!


 無邪気にはしゃぐナセロンに、ナッセは「ぐああ……」と悶えた。

 当時描いてた漫画の主人公は、某漫画の主人公の影響で性格が明るい少年って設定になっているからだ。

 自分とは似ても似つかない。

 なんで、この主人公にしちゃったんだろうと気が滅入る。


「この異世界の人間はツノがあるのが男性で、耳が尖っているのが女性って設定ね」

「え? 読んだ……?」

「読んでない」


 ポーカーフェイスでヤマミは首を振る。


「この設定はオレしか知らないはず……?」

「だってナセロンにツノが生えていて、前のシーンに出ていた二人の女性はエルフのように耳が尖っていたから、大体察してるわ」


 そうか頭がいいんだよな、と少し安心するナッセ。

 もしヤマミが読破してたと知れば、間違いなく顔から火が出るだろう。

 素知らぬ顔のヤマミは最後まで隠し通す事にした。




 のどかな町。ファンタジーあるあるな家並びで、多くの冒険者や町人が行き交う。

 ナッセは自分で描いた漫画だから、この先の展開は知っている。ヤマミは当然知らないはず。

 ……この先の展開を見せたくないなと、唸る。う~ん。


「きゃあああ!!! な、なんなのよっ……!!」


 叫ばれた方向を見ると、女魔道士が三人の盗賊に絡まれているようだ。

 ナッセは知っている。

 女魔道士は暫定ヒロインである。


「この天才美女魔道士ニーナにナンパだなんてっ!」


 黒いマントに赤い衣服。茶髪ショートヘアでクセっ毛の少女。

 少年のナセロンよりも更に小さい。


「よくもアジトを荒らしてくれたな!!」

「勘弁ならねぇぞ!!」

「このアマ!! とっちめてやる!」


 どうやらニーナとかいう女魔道士がやらかしたトラブルのようだ。

 そんな中でナセロンが「やめようよ」と割って入ってきた。


「かわいそうだし許してやってよ」

「うるせぇぞ!! ガキはすっこんでろ!!」

「そんな事言わず……」

「じゃあ死ねよ!!!」


 苛立った盗賊の一人が剣を振るってくる。

 武器もなにも持っていない少年に、容赦なくふり下ろそうとしているのをニーナは呆れる。

 なぜ武器も持たずに絡んでくるのか理解に苦しむ。


「不遜なる神を断罪すべき、軌跡を描いて切り裂け!!! 神殺しの光輝よーッ!!!!」


 口上が叫ばれた後、なんとギィンと剣の切っ先がクルクルと宙を舞った。


「「「なっ!!?」」」


 盗賊のみならず町人、そしてニーナ驚く。

 武器がないはずの少年の右手から光の剣が生まれていた。いつの間にか握っている鍔と柄だけだが、刀身は金属ではなく噴き上がっている光だ。

 噴き上がっている光は刀身を象っている。それが盗賊の剣を折ったのだ。


「あれは……伝説の魔剣『ゴッドスレイヤーソード』!!!?」


 ニーナが驚きながら光の剣の名称を叫ぶ。

 ナッセは「うわあああああ!!! そんな中二病的口上と武器やめろおお!!」と頭を抱えて絶叫。


「あれは!? 神を斬り殺せると言われている霊的武器ね!!」

「ヤマミ……?? な、なぜ知って……?」


 ついヤマミが口走ってしまい、ナッセはアワワ口で震える。


「……とニーナが説明してくれたわ」

「「「えっ!!?」」」


 ヤマミがニーナを指差して弁解してきて、盗賊まで一緒に驚き竦む。

 ニーナはジト目で後頭部をかく。


「何も言っていないけど、概ねその通りね」

「なーにが霊的武器ゴッドスレイヤーだぁ!? ふざけやがってよぉ!!!」


 もう一人の盗賊が剣を振ってくるが、ナセロンは鋭い目つきで光の剣を横薙ぎする。

 盗賊三人もろとも切り裂いてしまう。血飛沫が舞い、盗賊たちは吐血しながら横たわっていった。


「この光の剣を出すと、この通り……オレは人が変わる!!」ギン!


 なんとナセロンは殺意孕む険しい顔を見せていた。

 どうやら普段は無邪気な少年だけど、魔剣を出すと冷徹な性格に変わるようだ。


「二重人格設定やめろおおおおおおお!!!!」


 そんな厨二病的な設定にナッセは頭を抱えて絶叫した。

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