15話「ナセロン、母さんに抱擁されて心溶ける」
港町から船で島国へたどり着いた。
ナセロンの家族はそこのバスターモンド王国付近らしい。
本来ならチェルとソフィーナとルナリアも加わって賑やかになるのだが、今回は展開が違うしナッセとヤマミが同行している。
「コラ!!! ナセロン!!! 今日こそ、思い知らせてやるわよ!!! ガトトーッ!!!」
なぜか追っかけてきたらしいガトリング女子高生ミッチーが盗賊団を率いて、絡んできやがった。
「ボクだって貴様を粉微塵に殺してやろうと思っていたトコだよ!!」
「血みどろに歴史を構築せし罪深き生命に、我は断罪すべき審判を下す!! 世界を統べる魔の絶対王が絶えず殺意を吠え、精神と心を延々と瓦解させて貪る戦慄の闇!! 永遠に破壊をもたらし続け、偉大な滅びで世界を満たせ!!!!」
なんと問答無用でニーナが刹那の詠唱を終え、凄まじい赤い奔流が収束されていく。
大地と大気が震え、ミッチー盗賊団も震え上がっていく。
「最上階梯黒魔法『最終崩壊』!!!」
ズドオォ────────────ンッッ!!!!
巨大な爆発球が膨れ上がって、ミッチー盗賊団は跡形もなく消し飛ばされてしまった。
向こうの山をも削るほど超絶な破壊が撒き散らされた。
ヤマミはジト目でチラッと……。
「よく力を入れてるわね。魔法の詠唱……」
「ぐわあああああああ!!!! オレを殺してくれぇ!!! どこぞの死神漫画の詠唱に憧れて盛り込んだ魔法の詠唱ォォォ!!!!」
ナッセは極限な羞恥で転げ回っている。
なんかヤマミは満足げにドヤ顔。もちろんバカにしているのではなく、ナッセの秘密を独占したという満足感である。
何日か歩いていると、山脈で囲んでいて生い茂る森林地帯でポツンとある王国が見えてきた。
その王国は城下町で、そばで城が丘の上で建っている。
「うっわぁ~!!! ほのぼのしてる~!!」
こうしてみればナセロンは無邪気な少年なんだよな。
「私は用事があるから、ナッセとヤマミと一緒に王国へ行っておいで」
「はれ? 用事??」
「うん。調べたいものがあってね……。というわけで頼んだわよナッセとヤマミ」
王国手前になると、急にニーナが離脱する。
ナッセとヤマミは理由を知ってるけど、知らぬフリして「分かった」と頼みを引き受けた。
「はれ……。行っちゃったかー……」
ニーナが姿を消してからしばしして、こちらへ鋭い視線を見せる。
「ウザイの来て欲しくないんだけどなー。今ここで殺すか?」
「できるものならな」
嫌われているのは知ってるが、ナッセは不敵に笑む。
眉をはねて不機嫌な顔をするナセロン。しばし黙る。本当に敵わない事を知っている。
「いつか殺してやるぞ!! ナッセェ!」
「オウ! いつでもいいぜ! ナセロン!」
喧嘩腰で売り言葉に買い言葉。仲は険悪である。
この後、何事もなかったかのように入国して、平穏な城下町を散策した。
「あーら可愛いボーヤね」
「はれっ!」
エルフみたいな耳が横長な金髪ロングのお姉さんと、似たような幼いロリと出くわした。
ナッセとヤマミは知っている。
この親子こそがナセロンの家族なのだ。母と妹。
「オラーッ!! てめぇ久しぶりだなーッ!!!」
なんと煙を立てて近づいてくる勝気な男。
なんと金髪を逆立てていて、黒い眉毛がV字になっている青年だ。
「はれ?? 誰なの……?」
「オラーッ!! オレは問答無双ビクターだーッ!!! よーく覚えとけーッ!!!」
「……不幸な少年が幸運ヒーローに変身する漫画に出てきた無敗の……」
「言うな言うな!!! これでも絶賛後悔しまくりなんだぞ!!!」
赤面して頭を抱える。
「オレはてめぇの兄貴だ。そして母と妹だ」
ビクターが兄で、出会った親子が母と妹と紹介された。
ナセロンは驚く。
「師匠に育てられて知らなかったや……」
「母さんが泣く泣く預けたらしいな。だが、こうして再会できたようだぜ」
「ナセロン……!! 本当に……帰ってきてくれたのね……!!」
感涙した母がナセロンを優しく抱擁した。
「ナセロン……! 今までさぞかし辛かったでしょうね……!」
優しい温もりに、初めてナセロンは感動で心で満ちて涙が流れる。
これまで天涯孤独の身で血にまみれた冒険を繰り返してきて、それが当たり前だと思っていた。
しかし初めて味わう優しさにナセロンの凍った心が次第に溶けていった。
二人はしばし抱き合った……。
「これで父だけが心残りだな……」
ビクターがボソリと呟いているのを聞き逃さなかった。
実はナセロンの父がいるらしい。ナッセとヤマミは知っているが口に出さない。
一緒に家族で食堂へいって、贅沢な料理を食べていった。
ナッセとヤマミも友達だからと誘われて、同行していったが……。
「聞いたか? あの凶悪な魔道士ニーナがうろついているって」
「最強の賞金首らしいぜ。しかし誰も捕まえた事ないんだろ?」
「一〇〇億キンらしいぜ!!」
ナセロンも聞き耳を立てている。
「まさか!? この辺に封印された破壊神の祠を目指して!?」
「なんだそれは?」
「まさか知らないのか? 数千年前だか大昔で世界滅亡を左右する破壊神を分割して、一つ一つを封印して言ったって話。その一つがこの近くの祠にあるんだよ!」
「それが金色の破壊神の伝説!!!」
食堂で噂話で情報が流れる展開はあるある。
「お母さん!! お兄さん!! 妹さん!!! 急用ができたよ!」
「むぅ~! 妹さんじゃないもん!! ティラミスって言うんだよ~!! ぷんぷん」
「ごめん。ティラミスちゃん」
ヤマミが「その頃でもロリ……」とジト目。
「か、関係ないからな!! 妹の設定!!!」
「今更ロリコンだって知っても、別に軽蔑もなにもしないからね。呆れてるだけで」
「うう……めっちゃ恥ずかしいぞ……」
ナッセは赤面して湯気を立てている。
今までバレていないつもりだったのに、既に性癖を知られているなんて信じられない。
穴があったら入りたい、が何度目になるのか……。
「ボクは行ってくるよッ!!」
そう言うと、ナセロンは単身飛び出していった。
素早い動きで森林の中を突き抜けていくと、開けた平原に出た。すると妙な男が立っていた。
「ほう!! まさか……? だが、いい機会だ! ここで滅ぼしてやろう!!」
どう見ても霊界探偵漫画に出てくる魔界三強の盲目魔族のアイツそっくりさんである。
色使いこそ肌が緑で髪も深い緑だが、無数のツノと髪型と瞑っている盲目キャラは間違いなくまんまである。
「挑まれるならボクだって容赦しないぞ!!」




