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14話「主人公負けるなああ!!! 展開が違うぞ!!」

 魔王を崇拝する老魔道士が召喚した下級魔族ルナリア。

 見た目こそ褐色の黒髪ショートの小娘だが、れきっとした精神生命体(アストラル)。その実力は騎士(ナイト)ナセロンをすら翻弄させるほどだ。

 ナッセとヤマミはリーナと一緒に見守っているが……。


 ルナリアの連続キックを前に、防戦に追いやられていたナセロンは反撃をしようと必死に技を撃つ。


「カミナリツッキーッ!!!」


 ジャンプとともに光の剣で突き上げるが、ルナリアは上半身を後方に逸らして回避。


「こっのー!! なら、カミナリザックー!!!」


 滞空していたナセロンは、オーラを纏って落雷が如しの急降下斬りを放って床を穿つ。それは一直線の亀裂を入れるほどの凄まじい威力だ。

 しかしルナリアはバックステップでかわしていた。


「見えてるよーだ!!」

「くっ!!」


 いくら技を撃とうとも全然当たらなくて、焦りを滲ませるナセロン。

 ルナリアは素早く駆け出し、反対側に回り込んで翻弄してからの後ろ回し蹴り。

 ナセロンの横顔に炸裂して壁へ激突。


「グハアッ!!」


 壁にめりこんだナセロンの腹を、ルナリアが追撃のドロップキックで穿つ。部屋が震えるほど衝撃が広がった。


「ギハアッ!!!」


 もろにみぞおちに喰らってナセロンは盛大に吐血。

 ルナリアは更に連続キックでドドドドドドッと浴びせて、壁にめり込んでいるナセロンを血塗れにしていく。

 更に削岩するみたいに、壁がへこんでいって破片と土砂が飛び散っている。


「本来なら、ナセロンはドロップキックを敢えて喰らって耐えた後にカウンターのゼロ距離カミナリトッパーで倒すはずなんだが……」


 ルナリアは前転宙返りでかかと落としでナセロンの頭上を打って、床に沈めた。

 重々しい一撃で地響きとともにクレーターに穿つほどだ。


「ゴブバッ!!!」


 ナセロンは抉れた床に顔を埋めたまま吐血し、動かなくなる。


「さて……次はそちらの番かな。やれ!!」

「はーい!」

「ちくしょおおおお!!! 主人公が負けてどうすんだよおおおお!!!!」


 ナッセは太陽の剣(サンライトセイバー)を生成して、飛び込んでくるルナリアの前蹴りを受け止めた。

 先程の男と違って押し込めない事にルナリアは怪訝な顔を見せた。

 踊るように回転しながらの連続キックを、ナッセは太陽の剣(サンライトセイバー)で捌いていく。目にも留まらぬケリの連続こそが下級魔族ルナリアの恐ろしさ。


「やっ!! とおっ!! ええーい!!!!」


 柔軟で鋭く舞ってくるケリの連打を、ナッセは難なく捌いていく。

 ニーナは鋭い目つきで観察する。

 ナセロンと変わらない剣士に見えるが、似て非なるもの。似たような光の剣を振るうものの、しっかりとした剣術で戦っている。

 ブラッドが再戦したいのも頷ける。


「サンライト・ライズ────ッ!!!」


 ナッセは床から真上へとすくい上げるような軌跡を描いて、ルナリアのアゴを太陽の剣(サンライトセイバー)で打った。

 そのまま天井へドガンッと頭を埋めてぶら下げた。ブラ~ン。

 動かないところを見ると、この一撃で意識を失ったようだ。


「あ……ああッ……!!! あの魔族をいとも容易く!!? 悪い夢でも見ているのか!!?」

「終わりよ」


 ニーナは容赦なく『黒壊(デスム)』を放って、老魔道士を「ギエパッ!」と爆散させた。


「あちゃあ……」

「どのみち殺されるけど、展開は違うわね」


 ヤマミの言う通り、本来ならナセロンがルナリアを辛うじて勝ったあと干し肉で手懐けてしまう。

 その後、必死に老魔道士が命令するがルナリアに無視されたので抹消しようとするが返り討ちに遭って死ぬ結果になる。

 だが、今回はニーナが黒魔法で跡形もなく消した。

 すると天井からぶら下がっているルナリアは黒渦に包まれて消えていった。


「ナセロンに懐いて契約者を移していないから、召喚主(サモナー)の死で契約が切れて精神世界へ還っていったわね……」

「ヤマミ」

「なに?」

「オレの漫画見た……?」

「いいえ」


 ヤマミはすまし顔で首を振ってしらばっくれる。


「どのみち殺されるけど違う展開、ってたような……?」

「殺しの依頼受けているから、ナセロンが勝っても見逃す甘さは見せないでしょ?」

「ま、まぁそうだけど……」


 まさかオレの漫画見てるんじゃ、とドギマギするが聞くのが怖いので踏み込めなかった。

 もし読破していれば軽蔑されるのは分かっている。

 だって恥ずかしい黒歴史満載だぞ。パクリばっかでチグハグで、バトル展開ばっかりの薄っぺらい漫画だ。クソつまんねぇ漫画を読んで軽蔑されない方がおかしい。

 しかしヤマミは全く何も気にしていないから、たぶん読んだ事がないのだろう。


「次は故郷へ行く展開でしょ?」

「あ、ああ……」


 これはオレが言ったから知ってて当然だ。



 木こりの女から依頼の報酬をもらった後、大きな港街へ目指す。

 ニーナはナセロンを魔法で浮かしながら獣道を歩いていた。ナッセとヤマミがそれに続く。


「予知能力かしらないけど、外れているみたいね」

「そんなもんだ」

「これからどうなるか聞いていい?」


 どことなく不穏に睨み据えてくるニーナ。まるで尋問ではないか。

 するとヤマミがナッセを手で制する。


「どうせ予知とは全く違う流れになってるから、もう未来は誰も分からないもの」

「ふぅん?」


 疑り深い笑みを見せている。

 ニーナがああいう設定なので仕方の無いところだが、今ここで刺激はしたくない。

 もし正体を現したら物語が滅茶苦茶になってしまう。


「できれば私の邪魔はして欲しくないわね」

「もちろん、する気はないわ」


 ヤマミは目を細める。

 しばし不穏な空気でニーナとヤマミは睨み合っている。

 この先の未来を知っているかも知れないナッセとヤマミを警戒するのは仕方がない。

 ヤマミが「もう未来は分からない」と言っているが、ニーナはきっと信じていないだろう。


「そう願いたいところね」


 そっぽを向くようにニーナは踵を返して歩み始めた。

 ナッセは息を呑む。


 ……故郷へナセロンは家族に会いにいく。

 その後でナセロンを強くする為にニーナが恐ろしい事をするのだ。その展開をナッセとヤマミは知っている。

 邪魔する気はないが、連敗しているナセロンでは心許ない。


「大丈夫なんかな……?」

「なんとかなるんじゃない?」

「ところでオレの漫画……、実は読んだ?」

「読んでないわ」


 ワケありな笑みを浮かべながら、ヤマミは首を振ってしらばっくれる。

 なんかもどかしいぞ……。

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