133話「創造主リザルトタイム!!!」
創造主ゲームはナッセが勝つ事によって終了した。
普通なら、女神マザヴァスが手を出さなければ最終回までにナッセの生死が結果となる。
しかし事を焦った女神が直々に器を作ってまで降臨してきてナッセを抹殺しようとしたのが裏目に出て、返り討ちに遭って創造主ゲームが終わってしまった。
《後にも先にも一つだけ願いを叶えてやる!!!》
不本意ながらも女神マザヴァスは鼻息を鳴らして指差してくる。
ヤマミはナッセに「あのね……」と耳打ちする。そしてナッセはニヤリといたずらっぽく笑む。
妖精王なので剣を具現化するだけではなく、あらゆるものも具現化できる。
「誓約書みてーなもん書くぞ」
なんと足元の花畑から花吹雪をかき集めて一枚の紙とペンを生成した。
そしてヤマミと一緒に相談して書き書きしていく。
女神マザヴァスは訝しげに首を傾げた。
「よし!!」
「うん。完璧ね。その願いでいいわ」
ヤマミと確認してオッケーが出ると、その紙を女神マザヴァスへ差し出す。
「女神マザヴァスさま!! この誓約書に書いてあるものを全部叶えてください!!」
《なっ!!!? ぬわにいいッ!!?》
絶句して竦み上がる女神マザヴァス。
確かに願いは一つしか叶えられないが『誓約書に書いてあるものを叶えてください』も適用できるのだ。
世界三柱神は驚きつつも「ああ、その手があったか」と納得した。
《そ、そんなのズルいぞ!!! こんなん卑怯じゃねぇかあああ!!!!》
「そんなこと言ったってさぁ……」
紙を手にマザヴァスが怒鳴り、ナッセは後頭部をかく。
「これが創造主ルールに反していたら叶えられないはずよ。でもそうならないでしょ? さっさと叶えなさい」
ヤマミが腕を組んで重圧的に言い放ち、マザヴァスは震えながら《ぐぬぅ……》と悔しがるしかない。
紙に書いてあるものは願いが複数あった。
女神はプルプル震えながら読ませられていく。
目を逸らしたくてもできない。創造主ルールにより強制的に願いを叶わせられてしまうのだ。
「しょうがねぇだろ。勝てばオレの世界を奪えるし、負けたら願いを叶えてあげないといけないルール足したんだし」
《ぐぐ……、こ、こんな事になるなんて……!》
これは女神自身の自業自得とも言える。とある利益を得やすくする為に自分でルールを決めて、その条件通りにしなければならないのが“誓約”なのだ。
《この私、女神マザヴァスが行ってきた事で破壊してきたものを復元させ、虐殺された人々を生き返らしてください……。グッ!!》
手をかざして光が灯る。
女神が降臨時に破壊し尽くしたグレチュア天地は、時が巻き戻るように元通りになっていったぞ。
しかも、これまでチート転移者を送り出して殺されたグレチュア天地の原住民は全員生き返った。
ザイルストーン王国で殺された人々も生き返ってキョトンとする。
悲しみに暮れていた関係者は感激して抱きしめていく。
《この私が……こき使ってきた、または殺してきたチート移転者は、転移する前の記憶に戻して元の世界に帰らしてください》
手をかざして光を放つ。
ペプシマンの魂ガワは分解されて、彷徨っていた魂が一斉に元の世界へ帰っていった。
卓上ミラーが手元にある寝室で、チート移転者だった人々は「ん? なんかヤバい夢を見たような??」と寝ぼけながら起きていく。
《金色の破壊神クゥナーレと娘ニーナの記憶を元に戻してください……? それはムリだ……。残念だったな》
女神マザヴァスはニヤリと笑む。
「え? できねぇんか??」
「話が違うじゃない?」
《グフフフッ……、悪いが以前の創造主ルールには適用できぬのだ……。とっくに終わったものと処理される。だが、フィーリア天地を蘇らすこと及び娘ニーナを生き返らしてくださいは叶えられるぞ……》
「じゃあそれでいい。やってくれ」
恐らく創造主ルール以前に、娘ニーナは普通に殺されているだけなので願いの適用に入る。
フィーリア天地もクゥナーレが破壊しただけなので同じく。
創造主ルールにとって、世界を自ら破壊した後で違法判定になって凍結処理された話なのだ。
「こ……これはッ!!? 一体何が……???」
荒廃していたはずのフィーリア天地が徐々に緑を取り戻していって、青く澄み渡る水が溢れて、赤く濁った空が青く澄み切っていった。
しかも動物も人々も生き返っていって、壊された都市なども元通りになっていった。
「まさか……ナッセが……!!?」
そんな様子に驚くクゥナーレの側に眠っているニーナが目を覚まし始める。
包んでいたラクリマが砕け散る。
「にっ、ニーナ……!!?」
まるで長い眠りについていたかのようにニーナはムニャムニャ目をこする。
「お父さん……? なんで泣いてんの??」
「おおお……おおっ……!!! に、ニーナぁぁぁあ!!!!」
感激して涙を流しながら愛しいニーナを抱きしめた。ギュッ!
《なになに? 今後、同様に異世界から知的生命体を転移させた事による創造主ルールに制約を追加する。それは『具現化した世界を私欲で奪ってはならない』『精一杯転移者を楽しませるようエンタメを心がける』『転移者をパワハラしたり思い通りに動かしたりしたらダメ』だと!?》
女神マザヴァスは絶句し、震える手から光が灯った。
《そんなッ!!!!》
「これなら二度とオレの時みてーにならんだろ?」
《ふ、ふざけるなあああッ!!! こ、これでは私は……私はッ、転移者どもの奴隷として働くしかないじゃないかああッ!!!》
「当たり前でしょ!! これまでやってきた仕打ちを考えたらね」
ヤマミが腕を組みながら言い放つ。
「奴隷だなんて言うなよ。転移者がワイワイ楽しめる世界を見るのも楽しいんじゃないか? せっかく漫画とかが具現化できるんだし」
《あああああぁぁぁ……!!!!》
消え入るように愕然とした声が小さくなっていく。
もはや女神マザヴァスは観念するしかない。これからずっとずーっとエンタメとして転移者を楽しませ続けるしかないのだ。
「まだ最後の願いが書いてあるぞ」
《……なに? 女神マザヴァスがこれから明るく笑顔で柔らかく接するような性格を変えてくれ? ええぇぇえええッ!!!?》
諦めていたマザヴァスは飛び上がった。
女神を抹消するとか、力を失わせて一般人にするとか、そういうのはムリでも性格改変なら適用するようだ。
ふるふる震える手が勝手に光を灯していく。いくら辞めたくても行使する願いは叶えなければならない。
涙目でマザヴァスは光に包まれていった。ぐあー!!
《って事で願いは終わりですね。ナッセさま、ヤマミさま、いろいろごめんなさい》
なんと明るい笑顔でニコニコしながらペコペコと頭を下げる。
これで優しい女神マザヴァスとして、これから人に好かれるようになっていくぞ。
「よーし!!! これで元の世界へ帰れるぞーっ!!!!」
「そうね……」
スッキリしたところでナッセは両拳を振り上げて満面の笑顔で飛び上がった。
ヤマミも和やかな笑みで安堵する。
しかし世界三柱神はニコニコ不気味に微笑んでいるぞ。ふっふっふ!
「え……? な、なんだぞ??」
《最終回まで続いているので、ちょっと続くぞよ》
《最後まで楽しむ事を心がけるがよい》
《うふふ。それだけは創造主ルール通りですからね》
創造主リザルトタイムが終わったらしく、下界へパーッと逆戻りさせられるナッセとヤマミ。
「あああああああああああああああああああッ!!!!」




