13話「褐色少女風の下級魔族の恐るべき強さ!!」
森に囲まれた木造の小さな家。
そこでは木こりの娘が天涯孤独で暮らしていた。
「依頼を受けてくれて感謝します。私はアンゼルヌークです」
年頃の黒髪姫カットの女性。服は素朴で木こりの娘って感じ。ヤマミとは全く違うタイプのビジュアルだ。
ナッセ、ヤマミ、ナセロン、ニーナはそろってテーブルについて食事している。
どれも狩猟で得た野生の肉だ。
ナセロンはガツガツ食べまくっている。
「付近の街の人々が困っているので、ここから東にある大きな屋敷の魔道士を残酷な方法で殺してくれませんか?」
「はれっ! 美味かったから標的を必ず惨たらしく殺してあげるよっ!!」
無邪気なナセロンは明るく殺しの依頼を受けてくれた。
ヤマミはジト目でナッセに向けた。
「若気の至りで物騒な事をさらっと言う主人公描いてたんだ。穴があったら入りたい……」
平気で殺す殺す言ってる登場人物が多かった漫画……。
ただバトルをしてばっかな薄っぺらなストーリーで、ダークファンタジーですらない。
間違いなく黒歴史とも言えるぞ。
森が開けた草原に屋敷が立っていて、向こうには山脈が見える。
割と作りのいい屋敷だ。
しかし扉は魔法で固められてて、単なる力では開かない。
「下位階梯黒魔法『黒壊』!!!」
リーナが詠唱を破棄した黒魔法によって黒い爆発を起こして、扉が爆ぜ飛んだ。
単なる爆発ではなく、精神世界からの衝撃波。よって物理無効の幽霊も魔族も倒せる。
精霊魔法は精霊の力を借りて物理的事象を意図的に操る。しかし黒魔法は純粋に精神世界由来の魔法なので、物理を超える力を発生させれる。
「黒魔法なら、魔法の扉も関係ないぞ……」
「これもドラゴン殺し……」
「言うな言うな!! 心が抉られるんだぞ!!!」
赤面で頭を抱えたくなるナッセにヤマミはクスッと微笑む。
読破してる時に、精霊魔法と黒魔法の説明とかも見たから知ってる。やはりドラゴン殺し魔法のラノベと変わらない事も知ってる。
「くふっ。入るよー」
屋敷に入ると広い空間が広がっていた。
まるで体育館のように突き抜けの二階建て。一階と二階で並んでいる扉が一望できる。
「まるでバトルさせるために描いたような空間ね……」
「うう……、いずれも格闘ゲームがあったらと考え出した背景だぞ。序盤のミッチー戦は町中。ごろつきと魔王ゴーレム戦は断崖絶壁と森。ソフィーナ戦はジャングル。ブラッド戦は砂漠の遺跡。そして今回のリフレアルト戦は屋敷の中……」
「へぇ」
ナッセにとっては恥ずかしい裏話をヤマミに打ち明けている感じだ。
しかし読破してたヤマミは幻滅も軽蔑もせず、ナッセの秘密を独占してるようで満足げだ。
「そのリフレアルトはもう殺したんじゃないの?」
「はれっ!? 確実に真っ二つにしたよー! 生き返るすべはない」
やはり誰も出てこないので、結局先へ進む事にした。
奥行の真ん中の部屋から地下へ続く階段があって、そのルートを通って行くと頑丈な扉がある。
ニーナが黒魔法で砕くと、古びた遺跡の中のような部屋で、床には魔法陣が灯っている。
「なにやつ!?」
漆黒のローブとマントの老魔道士。白髪フサァでヒゲを伸ばしている。
「町の人々が迷惑してるんで残酷に殺してねって頼まれたのよ」
「ふん! 小娘とガキか! まぁいい、ワシは魔王さまを崇める召喚士クーダスじゃ……!」
「それはいいから死んでよ!!」
「生意気なガキめ!! いいだろう!! 我は命ずる!! 深淵の闇を滞らせる狭間の世界より、千の悪魔を蹂躙せし魔の使者を遣わせ!!! 我と汝に仇をなす下劣な者を抹消するために!!!」
リフレアルトを倒した場合は、部下にならんかと誘ってくるはずだった。
しかし、それがないので老魔道士は突然召喚の詠唱を始め、床の魔法陣が輝き出して黒い渦を生み出す。
「ワシは下級ながら本物の魔族を召喚できるのじゃ!! 贄になるが良い!!!」
黒い渦から人影が抜け出てきた。
すると褐色の無邪気そうな黒髪ショートの少女が飛び出してきた。
「はーい!! 私ルナリアでーす!!」
ヤマミはジト目で「そのビジュアル、竜殺し魔法のラノベの正義をこじらせた第二ヒロインと似てるわね」と呟く。
そう、当時は色々影響を受けて混ぜまくってたから似たキャラ出してても不思議じゃない。これも黒歴史あるある。
とある第二ヒロインの衣服と似てて、特徴的なショートヘアも近い。胸もでかい。褐色と性格以外はそっくりだろう。
「気にしてるから、黒歴史抉らないでええええええ!!!!」
ナッセは頭を抱えて「うあああああ!!!」と床を転げ回る。
クーダスは汗を垂らして「呪いでもかけられているのか?」と呆れる。
「女とはいえ、下級魔族……!! 容赦はしない!! 天地無双を目指す為に!! 不遜なる神を断罪すべき、軌跡を描いて切り裂け!!! 神殺しの光輝よーッ!!!!」
光の剣を具現化し、豹変したナセロン。
それに対して老魔道士は「ヤツを殺せ」と命令し、ルナリアは「はーい」と駆け出してくる。
飛び上がるなり軽やかに回し蹴りを放ってきて、ナセロンは光の剣で受け止めた。しかし重くて壁まで勢いよく吹っ飛ばされた。
「ぐっ……!! うああ……!!」
ナセロンはよろめきながらも立ち上がる。
光の剣で防いだのに、ルナリアの足は斬れておらず逆に凄いパワーで吹っ飛ばすほどだ。
追撃とルナリアが飛び上がって両足が踊るように連続キックをナセロンに浴びせた。
そんな強烈な連打にナセロンは「ゴフッ!!」と吐血して屈み込む。
「ぶ……ブラッド並みの威力だ……」
「フン! 傭兵として剣闘士リフレアルトを雇えず困っていたが、やはり魔族だけで十分じゃな」
下級魔族ルナリア。見た目こそヒトだが、実態は擬態しているだけだ。
れきっとした精神生命体なので、中身は通常の生物のような内臓や骨格が存在しない。
ルナリアがイメージしたのを具現化している感じか。
「なら!! カミナリトッパー!!!」
ナセロンはオーラを溜めての突きの突進を放つ。それは光線のように超高速でルナリアへ迫る。
しかし余裕で飛び上がってかわされてしまう。
ナッセはプルプル震えている。
「ああ……ルミナス系へ改名させたのに、ダサいのに戻ってる……」
「もうこちらとは決別してるから、じゃない?」
「ぐぬぬ……、なんてこったー!!」
もはやナセロンはナッセを兄さんとも思わず、そればかりか改名を蹴って自分流に戻している。
なんか親に逆らう子どものようでショックは結構デカい。
「えーいっ!!!」
無邪気なルナリアが連続キックを浴びせて、ナセロンはサンドバッグされまくっている。
倒れないように左右交互、そして下からもケリの連続で巧みに踊らせている。
下級とはいえ、これが本物の魔族だと言わんばかりの展開だ。
「ごはあああッ!!!」
ナセロンはなすすべもなく吐血。死にそう。




