123話「出陣前だ!!! バレンティア軍の士気高揚!!!」
城の広場で多くの兵士たちが整列していた。
ベランダのようなところからナッセが前に出る。ザッ!!
「バレンティア王太子ナッセ。これよりオレの正体を現す」
ナッセはボウッと高次元オーラを噴き上げて、足元から花畑がポコポコと広がり、背中からは四枚の羽根が浮く。
銀髪がロングに伸びてブワッと舞い上がる。
周囲に威圧が席巻し、周りの王様と王妃のみならずガルシアン王子とマーレ姫と弟と妹は息を飲んだ。
兵士たちもどよどよしていく。
「これが妖精王だぞ。バケモノみてーな姿で申し訳ないが、今は緊急で……」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」
なんと大歓声で兵士たちは盛り上がってきたようだ。
「王太子さまは天使だったのかー!?」
「すげぇ!!! 勇者の血を引いている妖精王だってさー!!!」
「七つの魔王を倒したって話、ガチだぜこりゃ!!」
「これなら負けねぇ!! どんなヤツが相手だって負けねぇッ!!!」
「こんな凄い王太子さまがいずれ王になると思うと、こりゃ将来は明るいな!!」
むしろ大好評でナッセすら「えー……」とドン引きする。
ヤマミが「言ったでしょ」とナッセの肩にポンと手を置いてきた。
「なんつーか、ルシアみてーなバケモノだって恐れられて……女神との戦いの後でこの国を去れる雰囲気を出したかったんだが!?」
「アンタとしてはそんな気分でしょうけどね。案外そう見られてないから」
「ちぇ……、次に「マザヴァスを倒して、この世界を去る」と爽やかな顔で決め台詞言いたかったのに……」
「それなんて竜の勇者? けっけっけ、目論見崩れたねー」
ニヤニヤするリョーコに「グッ!」と悔しい顔を見せた。
彼女はもう貴族じゃないので自由なのだ。こちらと違って……。
「静粛に!」
前に出てきたヴェレンデア国王がナッセの肩に手を置く。
「見ての通り、勇者の血を引く正当な後継者であり、妖精王の力を秘めた存在。世界に危機が迫っている中で現れた救世主といえよう。それに応えるべき我らも剣に信念と命を懸けて戦おうではないか!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおお────ッッ!!!!!」」」」
士気高揚と兵士たちは燃え上がっているようだ。
なーんか外掘り埋められていく気がしないでもない。こうまで期待を寄せられたら元の世界へ帰りづらくなるではないか。
ならば女神と相打ちしたフリして、星になったエンドへ持ち込むべきか……。
悲しむ面々が浮かぶようで心が痛むぞ。
「ともかく王太子ナッセとして急な報告をしたい。こちらへ」
ナッセに促されて、七つの魔王であるアリエルとティメーアとゴルンレーヌが前に出た。
兵士たちはドヨドヨとする。
「七つの魔王だ。混沌王アリエル、天空王ティアーメ、狂乱火星ゴルンレーヌの三名が一時的に我が国へ加勢する事になった」
「「「「えええええええええっっ!!!?」」」」
本物か、と驚き戸惑う兵士たち。
多くの人に見られて緊張に縮こまるアリエル。のほほんとするティメーア。真顔のゴルンレーヌ。
「私はヒトと争う気はないし、ニートなのでナッセさまの下で一生働こうと思っています。よろしくお願いします」
「あたしは強い方についた。ナッセが気に入ったから一生この国で暮らす」
「あーもう!!! ティメーア、ゴルンレーヌ抜けがけ許さないわよ!! この混沌王として、この国に一生ひきこ……防衛してやるからねぇ!!!」
ナッセはジト目で汗をかく。
「一時的って言ったから、事が終われば自由だぞ? 別にこの国に留まる必要ないぞ??」
しかし三人はそろって顔を振り向いてくる。
「自由と言いましたし、別に私がここに留まってもいいのでは?」
「同じく」
「私だって、他にやる事ないから永久雇用でいいわよぉ」
ぐっ……、こいつらここに居着くつもりだ……。
オレたちが元の世界に帰っても大丈夫なんかな。やや不安になってきた。
というか原作とキャラが違いすぎて戸惑うしかない。
「よっ!! さすがは期待の次期国王ねー!! いい国作ろっかー!」
「リョーコてめぇ……」
冷やかしてくるリョーコをジト目で睨む。ヤマミは呆れる。
「コホン! ともあれ、心強い戦力になるのは間違いない。なんせ相手は創造主を騙る女神マザヴァスだからな!! 近い内に大勢のチート移転者で攻めてくるだろうと思う!! きっと多くの犠牲が出るだろうと思う!! でもみんな力を貸してくれ!!!!」
「「「「うおおおおおおおおおおあああああああああああああッッ!!!!!」」」」
任せろ、と言わんばかりに兵士たちが士気高揚と大音響で歓声を上げた。
王国三大イケメン将軍である剛勇の将軍リーアジ、蛮勇の将軍ルカップ、猛勇の将軍ラブララも一緒に声を上げていたぞ。うおおおお!!!
その後、バレンティア王国のギルドにも傭兵を申し出る冒険者などが増えていく。
ちゃっかりキョウラ、ジャキ、キルアも冒険者として入っていて、傭兵を申し込んでいた。
「ナッセさまがバレンティア王太子だと分かって、この国に住み込んだが正解だったな」
「僕もようやく安心しました。こうしてパーティー組んで生活費潤ってますし」
「オデ、もっと頑張る……!!」
他の冒険者も馴染みだと思っていて「傭兵やるんだってな?」「お互い頑張ろう」「俺も傭兵やるからヨロシクな」などなど親しんでいるようだった。
お互い、この国を守りたいという気持ちは同じだ。
「よし、教会へ就職したゲマルさんにも報告しよう」
バレンティア教会には神官ゲマルがいて、ヴィード、シシカイ、妖精メミィが従事していた。
以前はヴィードの方が上だったが、社会的地位ではゲマルが上だ。
ゲマルを前にキョウラ、ジャキ、キルアが跪く。
「キョウラ、ジャキ、キルア!! いよいよだな!! 私もヴィードたちも頑張るからな」
「「「はっ!!」」」
肩に妖精メミィを乗せたままシシカイが出てきた。
「ゲマルさん。いよいよですね」
「うむ」
「ヴィードどうすんのー!? まーた引きこもってるしー!!」
妖精メミィは無邪気に文句はいてた。
ゲマルはため息をついて「住処が失われると困るじゃろうから、いざという時には出てくるじゃろ」と半顔で振り向く。
奥の部屋で顔を半分だけ見せているヴィードがいた。もじもじ内気だ……。
他の神官やシスターも慣れているらしく「働け」とにっこり。
ヴィードは毛玉天使でブルブル震えているので妙に可愛い。実は癒し系マスコットとも囁かれているぞ。
「みんな……正念場だ!! 新たに得た安住の地を守る為にな!!」
「「「ははっ!!!!」」」
上空を見上げると、怪しげに暗雲が渦巻いている。ゴゴゴゴゴ……!!




