12話「作者が主人公と戦ってしまう!!?」
ザイルストーン王国の門前で、ヤマミとニーナに見守られながらナッセとナセロンが対峙していた。
ナセロンは殺意漲らせた鋭い視線をナッセに突き刺している。
「傷を治すなり、なんの恨みがあるんだぞ??」
「オレと戦え!! ナッセェ!!! 神殺しの光輝よーッ!!!!」
なんとナセロンが光の剣を引き抜いてきたぞ。
「ブラッドと戦って負けた経緯は聞いたけど、詳しく説明してもらえる?」
「女は黙っててよ!」
「……『偶像化』!!!」
するとヤマミの周囲に黒墨が渦潮のように溢れ出して、それが徐々に人型を象っていく。
上半身だけだがその巨像の姿は禍々しい魔女を連想させるような風貌だ。
大袈裟なほどに大きく伸びた三角帽子と纏う黒フード、そしてその裾は触手のようにウネウネ動いている。三角帽子の下には氷彫刻ような美しい色白なヤマミの顔。
両腕のように二本の裾が大きく伸びていて、威嚇するかのように振り上げていた。
「やっぱり……ただものじゃないと思ってたけど……」
大気を震わせるほどの威圧に、ニーナは冷徹に笑む。
一方でナセロンは驚いて固まっている。
「改めて聞くわ。ブラッドと戦った後、なぜナッセと戦いたいの?」
「ブラッドはこう言ったんだ。俺と命の取り合いは一度きりで十分。しかしおまえとは何度も戦いたいと渇望していた。それが悔しい……!」
ギリッと歯軋りするナセロン。
ブラッドに敗北しただけじゃ、そうはならない。自分なんかよりナッセの方が価値あると見下されたようで歯痒かったらしい。
だからナッセに当たろうとしてたわけだ。
「分かった。しかし、ここでやると迷惑になる。もっと遠くで戦おう」
「ナッセ!?」
「……すまん。だが放っておけないぞ」
「もう」
こんな甘いナッセだから、敢えて面倒な方へ選んでしまう。
逆にナセロンは人殺し上等で容赦のない無慈悲な騎士。それがブラッドにとっては価値のないもの。
殺し合えば一度きりで十分。どちらかが生き残るのみ。
ニーナの空間転移によって、遥か遠くの砂漠地帯へ移動した。
鋭く尖った大きな岩山が点在する砂漠地帯。無人で気配の一つもしない。
「ナッセ。わざわざ付き合ってくれるのは感謝する」
「ああ。来い!」
ナセロンは既に光の剣を具現化してて、それに対してナッセは太陽の剣を生成した。
「行くぞ!!!」
足元の砂漠が爆ぜてナセロンが素早く間合いを縮め、初っ端から光の剣で上空へとジャンプしながら突き上げる。
「カミナリツッキーッ!!!」
ナッセはすかさず太陽の剣を盾にしてて、上空へ弾き飛ばされた。
そして逆に真下のナセロンへお返しと言わんばかりに、振り下ろす。
「サンライト・フォール!!!」
上空から一直線と軌跡を描いてナセロンへ炸裂。
しかし光の剣をかざされて防がれていた。
「おおおおおおおおおッ!!!」
それでも裂帛の気合いを発したナッセが押し切って、光の剣を弾きナセロンの頭を地面に叩きつけた。
「がっ!!!」
ニーナは見開く。
間合いを離れて毅然と構えるナッセ。本来ならトドメを刺してもいいのに、相手が立つのを待っている。
流血で筋が顔面に垂れるナセロンは苦悶しながら起き上がり、立ち上がっていく。
「ま、負けないよっ!!! カミナリトッパーッ!!!!」
今度はオーラを纏っての突進による鋭い突き。
ナッセは剣を正眼に構え、カッと眼光を煌めかす。
「流星進撃!!! 十三連星!!!」
突進してきたナセロンに、カウンターで流星群のような軌跡を描く十三の強撃を喰らわせた。
凄まじい衝撃が響き渡り、砂漠が飛沫を上げた。
全身に連撃を受けたナセロンは逆に吹き飛ばされていく。
「ぐああああああーッ!!!!」
数百メートルぐらい数度バウンドして砂漠を転がって、伏してしまう。
ニーナは汗を垂らし絶句する。
「ここまで強いなんて……、一体何者なの……??」
未だ起き上がる様子のないナセロン。
「ぐ……」
「ブラッドはともかく、今のナセロンに迷いがある。これじゃ戦いにならないぞ」
顔だけ上げたナセロンは見開く。汗がほおを伝う。
「戦うからには即殺す、それは一貫としている。ミッチーの時もブラッドの時もそうだろう。だが、なぜ戦うんだ?」
「て……天地無双を目指す為だああッ!!!!」
根性で立ち上がってくるナセロン。
「要するに世界一を目指すって事だろ?」
「ああ!! だからおまえのような強者は全力で殺す!!! 強者の屍を踏み台に天地無双の称号を掴む!!!!」
無理に殺意を漲らせて光の剣を具現化して、身構える。
よろめいてて戦える状態じゃない。しかし殺意は衰えない。
「おまえを殺して最強を目指すんだ!!!」
「そんなんじゃあ、独り善がりで薄っぺらいなぞ。そもそも騎士が言うことじゃねぇ」
「うるさーい!!! おまえに何が分かるーッ!!!」
満身創痍でもナッセへと息も絶えだえに斬りかかる。
それに対し太陽の剣を振り下ろし、頭をガツンと叩き伏せる。ナセロンは頭を地面へ打ち付けて意識を失った。
「まず故郷へ帰って家族に会え。母と妹がいるだろう。話はそれからだぞ」
「アンタ……、ナセロンを知ってる……?」
ニーナが怪訝な顔を向けてきた。
しかしナッセのそばにヤマミが歩み寄る。なんかしてきたら二人で戦うぞと脅している。
「スマン。理由は言えないが、オレはナセロンの事をある程度知っている。そして」
「私たちは、こことは別の異世界から転移してきたイレギュラー的存在よ」
「それが異世界転移者……ね」
観念したニーナは首を振る。
どこまで知っているのか与りしれない。それに彼らがどのくらい強いのか把握していないまま、下手に排除しようとすれば計画に支障をきたしかねない。
むろん最初っから全力でアレを出せば倒せるだろうが、万が一もありうる。それに正体がバレては悪手だ。神々が飛んでくるだろう。
「……故郷へ行く前に、寄るところがあるわ。お願い聞いてくれる?」
「分かった」
ニーナのお願いにナッセは頷く。




