119話「ついに皇帝ライティアスが味方になったぞー!!」
なに食わぬ顔でナッセとヤマミはギルガイス帝国へ訪れていた。
もちろんアポを取っての訪問。快く許してくれた事情は知ってるけど知らないフリする。
ついに謁見の間で対面すると、頭を下げて跪く。
「皇帝陛下。再びの訪問をお許しいただいて感謝します」
「そう硬くならんでいい。顔を上げよ」
厳かな皇帝ライティアス。確かに本物……原作通りだ。
今は隠す必要ないのでヴェールで覆い隠していない。
「我が不在中にクロリア王子が世話になったな。その時の判決はそのまま適用する」
「はい。それはありがたき幸せです」
「皇帝陛下が無事帰国していてなによりです」
ヤマミも丁重に陛下の無事を祝う。
「……なにぶん色々大変な事があってな、そちらの耳にも聞き及んでもらいたい」
食堂へ移り、皇帝陛下と一緒に料理が並べられた白テーブルを挟んで会話を続けた。
ナッセたちは監視能力で知っているのだが、知らないフリしてザイルストーン王国大侵攻を聞いていた。
「女神マザヴァスが……洗脳を……?」
「うむ。アイマスクには特殊な処理が施されていて洗脳効果が続いていた。恐るべき効力だった。反目をしていても逆らえんからな……」
「それをナセロンが破ったのか!!」
「会っていない内に、ナセロンたちも随分成長していたのね」
ヤマミも知らない体で驚くフリを見せている。
皇帝ライティアスの話でナセロンが急成長してアイマスクを破るまでに至ったと聞いた。
洗脳云々はともかく、父であるライティアスをナセロンが『奇跡の宝剣』によって打ち破れた流れは原作通り。
「ナセロンたちはその後、どうなされました?」
「うむ。本当はザイルストーン王国にいた時、一緒に各国と会談しようと誘ったのだが「冒険者として旅立つから」と断られてしまったよ」
「それは残念ですわね……」
「いつもすれ違うな」
「王太子ナッセとヤマミ令嬢も会いたいと?」
皇帝ライティアスの問いにナッセとヤマミは頷く。
しかし、これは敢えてフリしてるだけ。その気になればいつでも会える。
「金色の破壊神の世界崩壊宣言もさる事ながら、女神マザヴァスの悪辣な侵略行為もグレチュア天地を揺るがす危機ゆえ、力を合わせなければと思いました」
「もちろん皇帝たる、この余は喜んで力を貸すぞ」
「おお!! それは至極恐悦です」
「本当に深く感謝いたしますわ」
白々しいがナッセとヤマミは当然の結果でも、ありがたいと喜んでおく。
「さて、七つの魔王の件もそうだが謝礼はしておらなんだか。聖騎士団が世話になったな。騎士たちの何人かが殉職してしまったものの、大事にならずに済んだ」
「あ、それは気にしねぇでく……ください」
「同じく」
つい素が出そうになるもこらえて、深々と頭を下げた。
「本当に欲がないな。王太子ナッセ。やはり話に聞いた通りの人物像よ」
「え?」
ナッセは目を丸くする。試されていたと今気づいた。
ヤマミにもヤレヤレとため息をつく。
「次期バレンティア王として期待が深まるばかりだ。王位継承式には是非招待状を送って欲しいものだ。喜んで祝福してやるぞ」
「あ……うん。そうですね」
本当は移転者だし、別にこの世界に留まって王様になる気はねぇぞ。帰りたい。
「全く王位にも興味がないとは驚かされるわ。だが自覚せよ。一介の冒険者ではなくバレンティア王族として王太子として、な。今は勇者として冒険を許されているのだろうが忘れんでくれ……」
「は、はい……。肝に銘じておきます」
しどろもどろなナッセ。
まるで親に諭される子どもみたい。
「それはそうと、チート移転者には気をつけられよ。今はなりを潜めておるが、いずれは大規模な侵攻になる可能性が非常に高い」
「チート移転者……」
「そうだ。女神マザヴァスがどこからか引き連れる妙な人間。精神汚染する事で残虐な性格にされて兵器化する。ザイルストーン王国の時は小規模だったが被害は甚大だった」
この事情も見ていたが、やはり改めて見ても残虐行為だ。
それを世界各地でやりかねない。クゥナーレが金色の破壊神になった時と同じように……。
「それに女神マザヴァスはおまえを抹殺したがっていた」
「オレを……」
「ヤツにとって都合が悪いのだろう。気をつける事だな」
皇帝ライティアスは知らない事だが、ナッセが最終回と同時刻に生き残る前に死ねば、この具現化された世界が女神マザヴァスに取られる。
これは創造主ルールで成り立つゲーム。
もしナッセが最終回と同時刻まで生き残れば、この世界を独り占めできる。
「無礼を承知して頼みたい事がございます」
「申せ」
「恐らく金色の破壊神より、オレの抹殺を最優先するかもしれない……! もしオレが死んだら世界がとても大変な事になっちまう!!」
「ちょっとナッセェ!? 早いんじゃない!!?」
「どういう事だ?」
皇帝ライティアスは怪訝に眉をひそめる。
「ヤマミすまねぇ。隠してると面倒な事になる。ちょっと事情は伏せるけど、皇帝には知ってもらいたいぞ」
「はぁ、好きにして」
ヤマミは首を振ってため息をついた。
「って事だ。オレは実はこの世界の主権を握ってるんで、女神マザヴァスは血眼で奪おうとしてるんだ」
「世界の主権……?」
「オレが死んだら、ヤツに世界の主権が移っちまう。そうなったらこの世界はヤツの思い通りにされちまう。金色の破壊神ですら奴隷にされるぞ」
「……本気だな?」
「ああ。信じてもらえねーかもしれないけど」
皇帝ライティアスはナッセの真剣な目を見て、ナセロンの目と似てる事を察した。
ひたむきで純粋な想いを秘めている。
女神マザヴァスのような悪意と野望に満ちた濁った目をしていない。
「承知した。それ相応に深い事情があるのだろう?」
「ああ」
この世界を左右するぐらいヤベー事案だけどな。
「金色の破壊神よりも最優先せなばならぬのは確かだ。女神マザヴァスと直に話した身としては、確かにこの世界を奪われると恐ろしい事が起こると実感できる」
「だがオレはそんな事させねぇ!! ヤツにこの世界を渡せねぇ!!!」
思わず立ち上がってガッツポーズで激情を吐露する。
「その意気や良し!! この余も命懸けでうぬらに尽力しよう!」
「ありがてぇ!! 皇帝が味方となれば百人力だー!!!」
ナッセは歓喜して舞い上がる。
「……コホン。とまぁ、素が出てるぞ。王太子ナッセ」
「全く……」
皇帝ライティアスとヤマミに呆れられて、ナッセはハッと省みて赤面した。
恥ずかしくなって「し、失礼しました」と座り込んだ。
これまで皇帝ライティアスは厳かな顔を続けていたが、フッと口元が和んだ。
女神マザヴァスのあらわになった悪の本性と比べれば、ナッセは透き通った心の持ち主だ。
「ナッセ。全てが終わったら事情を話してもらうぞ」
「あ、ああ……。分かった……分かりました。すべてを話すよ。信じられねー事ばっかりだと思うけどさ……思います」
「それは楽しみだ」
妖精王と称されるナッセは確かに真っ直ぐな少年。
隠しているところは前々から察してが、悪意と野心を持っての事ではない。
例え、彼が創造主だとしても、女神のように欲望の権化ではないのは確か。
だからこそ悪意を持つ女神マザヴァスにとって抹殺したいのだろう。
「それまでは王太子ナッセ、おまえを命懸けで守りきってやろう」
皇帝ライティアスはキッと真剣な目を見せて宣言した。
洗脳された贖罪として、ナッセを絶対に守りきろうと固く誓った故である。




