118話「皇帝ライティアス、ギルガイス帝国へ無事帰国!!」
女神による神軍大侵攻が終結した後、重傷だったナセロンたちは泥のように眠り、数日の休養を必要とした。
ザイルストーン王国もボロボロで城は全壊。
……しかし亡国にならずに済んだし、行方不明だった皇帝も取り返せた。御の字ではないか。
とある一室でザイルストーン王国の王様とギルガイス帝国の皇帝が会談していた。
「なーに、人さえ生きていれば立て直せるではないか」
「クバサ国王……」
ザイルストーン王国のクバサ王はかんらかんら笑っていた。
そして憂慮すべきは女神が我々に対して明確な悪意を持っている事だ。
「皇帝ライティアス殿、女神は……創造主などではないのか?」
「ヤツはこの余を下僕にして、ザイルストーン王国代々伝わる『奇跡の宝剣』を奪おうとしていた。本当に創造主なら、わざわざそんな略奪行為などしまい」
「うむ。確かにな……」
クバサ王は頷いた。
更に洗脳されていた時の記憶がそのまま残っていた為、その時の様子も語った。
侵略行為を娯楽だと言い放つ女神の悪辣さは、クバサ王も顔を歪ませるほどだった。
「ヤツの目的はこのグレチュア天地を完全制圧する事。そして金色の破壊神と妖精王ナッセの抹殺だ」
「金色の破壊神の脅威はまだ分かるとして、妖精王ナッセとは……? バレンティア王国の王太子であり、世界大会で優勝し、七つの魔王をも討伐した英雄と聞いた」
「ふむ。かのバレンティア王国のヴェレンデア殿の御子息だったな」
「あれから大きくなったものだ」
新たに埋め込まれた設定ではあるが、彼らにとっては元から存在していると認識している。
「女神マザヴァスが悪である事は間違いない。ナッセの存在も都合が悪いのだろう。是非会ってみたいものだな」
「今は勇者として旅立っていると聞いている。どこにいるかは誰も知らない」
「ふむ」
密会はその後も続けられ、終わるとクロリア王子とアーサー三人の聖騎士団へ話を聞きに行った。
実際に聖騎士団が歯が立たなかった七つの魔王であるダークメアとルルナナを撃退したと聞き及んだ。
更にクロリア王子から、魔王ヴィード勢力をも改心させて嘆願してきたとも聞いた。
「誠に勝手ながら、皇帝と偽って嘆願を独断で聞き入れて申し訳ございません」
「構わぬ。そやつら本気になればギルガイス帝国をも壊滅に追い込めたはずだ。脅迫もできていたはずだ。婚約者とともにクラスチェンジ昇華まで成し遂げたのだろう?」
「あれは驚きました」
アーサー、グランハルト、アレフは肩を竦めた。
「ヤツが悪に染まっているならば、とっくにギルガイス帝国など制圧しただろう。魔王勢力に関してはクロリアの下した判決通りにしよう。ナッセという男は本当に純粋だな」
「はい。僕が皇帝を騙っていた事がバレても、気にせず帰られてしまいましたし」
アーサー、グランハルト、アレフもウンウン頷く。
「……七つの魔王を倒したのだったな?」
「はい。あのダークメアとルルナナ討伐後も、まるで『普通にモンスターを倒した』みたいな感覚でさくっと事を終わらせてました」
「俺らを助けた時だって、なんの見返りも求めてきませんでした」
「普通のヤツなら高額でふんだくるだろ。不条理にな」
話で聞いた通りの人物像なら、なんの野心も悪意も持たない事になる。
七つの魔王を倒すほどの力を持ち、クラスチェンジ昇華まで到達して最強格に切迫した実力者。
それほどの王族ならば、普通見返りと名誉を求めるだろう。
「そういえば、金色の破壊神の世界崩壊を止める為に陛下を味方にしたいとも言っておられました」
「なに?」
「世界大会後に凶悪魔道士ニーナが金色の破壊神になって、ナッセたちと敵対宣言してました」
「……そんな事が!!」
「はい」
長年洗脳処理を施されていた為、世界の情勢を知らなかった。
なので世界大会後にニーナが世界崩壊を宣言したとの話も初耳だった。
「我が息子ナセロンも金色の破壊神の半身。ナッセたちはそれを知っていてニーナと対立していたか……?」
「そのようですね」
「ふむ」
その後、皇帝ライティアスはクロリア王子、アーサー、グランハルト、アレフを引き連れてバレンティア王国へ訪問し会談を行う。
ヴェレンデア王も快く同盟をしてくれた。
ホワイデー王国とも連携しているようで、王族はもちろん聖女ピーチラワーと魔貴族テンショウとも協力してくれる事になった。
しかし残念ながら王太子ナッセとヤマミ令嬢は不在で会えずに終わる。
更にオリンパス大陸のアロンガ魔法都市にも渡り、支配神ルーグとも会談を行った。
「ルーグ様、ナッセに『証』を授けたのだな?」
「そうなんだよねー。見込みがあったからさー。やっぱり『救世主』になったみたいだよ」
「相変わらずくだけた態度だな……」
ルーグはのほほんと答える。
世界三柱神の一人で、とてつもなく偉い立場なのにフランクだ。
しかしそれでも鋭く情勢を見聞し、的確な判断をする賢君。世界三柱神で唯一、ヒトの国を治めている上位生命体。
「もし、彼と会ったらギルガイス帝国にも立ち寄るよう言っとくからさー」
「是非お願いします」
皇帝ライティアスは頭を下げる。
「……っても、実は覗かれてたりするかもねー」
ルーグが顔を背けてボソッと呟き、ライティアスは「?」と怪訝そうに首を傾げる。
ナッセとヤマミの事だから何らかの方法で見ているのだろうとルーグは確信していた。実際その通りだったりして……。
色々済ませた後、ギルガイス帝国へ帰っていくと妙に懐かしさを覚えた。
未だに平和に暮らす住民に盛大な歓迎を受けて城へと行進していく。
謁見の間で大臣が嬉しそうな顔をしながら頭を下げてきた。
「お帰りなさいませ。皇帝陛下」
「うむ」
騎士たちの敬礼、王子と聖騎士団が控えに収まり、皇帝ライティアスはついに王座へついた。
威風堂々と座する皇帝に誰もが歓喜に打ち震えそうだった。
ついに行方不明だった皇帝陛下が無事に帰られたのだ、と……。
「クロリア王子の代理を引き継ぎ、これより余が皇帝として国を治めていく!! みんなよろしく頼むぞ!!」
「「「「「ハハッ!!!!!」」」」」
ようやくギルガイス帝国は万全に整った。




