110話「インチキ剣技を破れ、ナセロンのルミナス!!!」
「死刃残影流奥義・十死残影剣!!!」
牙龍のチートスキルによって新たに生成された大技が、ナセロンを巨大な十字の斬撃で消し飛ばし、遥か先の砂丘をも吹き飛ばすほどに至った。
それ以前に、牙龍は一度も剣を振るった事のない素人。
しかしそれをチートスキルによって、聖騎士ナセロンをすら追い詰めるほどに強くなったのだ。
「これは素晴らしいッ!! 下らぬ努力も苦労もなく、なんの代償も払わず、お手軽に大技まで生成してカンタンに敵を打ちのめすッ!!! これぞ最強のチートスキルッ!!! ハーッハハハハハハ!!!!」
初めて繰り出した高威力の技を目の辺りにして、牙龍は歓喜して有頂天になった。
「まだ……終わってないよ……!!」
牙龍は「な、何ッ!!?」と驚きの顔で振り向く。
地面が削れた跡の上で、ナセロンの前方に大きな三芒星型の光の盾が具現化されていた。三方向に菱形を伸ばした形状で傷一つもない。
毅然と見据えるナセロンの視線に、牙龍はうろたえていく。
「バ……バカな……!? あの奥義を防いだというのかッ……!!?」
「これで終いだよっ!!」
ナセロンは光の剣を振りかぶり、三芒星型の光の盾を吸収させていく。ついでにチート移転者が張った絶対防壁の結界まで一緒に吸収してしまう。え?
守備力を攻撃力に変換された凄まじい威力の結界が剣に宿り、唸りを上げた。
「今度はこっちの番だっ!!! 結界剣してからの……!!!」
牙龍は「ううっ……!!」と焦りを滲ませて、やぶれかぶれと十二本の腕を生やした六刀流の剣を生成した。
しかも剣も大剣に肥大化し、筋肉増強してムキムキの大男になったぞ。
「この俺が負けるかあああッ!!! 死刃残影流超絶奥義・多剛腕残影剣ッ!!!」
「ルミナス・トッパだあああ────ッ!!!!」
爆発的に加速したナセロンの突進技が一直線と大地を裂きながら、牙龍のみぞおちに剣の突きが炸裂した。
十二本両手持ち六刀流さえ破られ、牙龍は「がは!!!!」と大量吐血。
ナセロンはなおも「うおおおおおおおおおッ!!!」と気合いを発しながら国外まで突っ切る。
周囲の砂丘を巻き込んで衝撃波の噴火が高々と噴き上げていった。
ボオオオオオンッ!!!!
ぽっかり空いた砂漠のクレーターで牙龍は大の字で微動だにしない。
腹から血が放射状に染み渡っていって、やがて下の砂漠にも広がっていった。
「な……んだ……!? なんで……チートスキルが敗け…………!!? ごはっ!!」
「確かにすごいと思う。素人だったのにボクも危なかったってくらい強かった。でも……牙龍さんはなんかしたの……??」
牙龍は見開いた。わなわな震え上がっていく。
そう、自分はチートスキルに頼りきって動かされるままに戦っていただけ。
「お……俺は…………!!? なにも……していない…………!!?」
他のチート能力者以上に自分の力でやった部分がなさすぎた。
「ボクだって、なんか剣と戦ってるだけに感じたもん」
「うぐ……!!! だが、それは俺のチートスキルだから……こそだ!!」
「それ女神からもらったって言ってなかった??」
「げぼばっ!!!!」
ショックを受けたと同時に盛大に吐血。
痙攣しながら、牙龍は自分で成し遂げたものが何もないと思い知らされて愕然していく。
「ち……ちが……げほっがはっ!! 違う!!! 俺は誰よりも選ばれた戦士だ!! げぼっ!! きさまのようなガキが……こんなガキに俺が俺がッ……げほっげほげほっ!!! きさまら下等生物など女神さまに殺されてしまえッ!!!」
文句を吐き出しながらも吐血を繰り返し苦しそうだ。
すると聞きつけたらしい兵士たちが群がってきて殺気立っていく。
「何が選ばれた戦士だ!?」
「インチキ剣士風情が!!!」
「よくも俺の家族をやったな!!!」
「この殺人鬼がッ!!!」
恨みづらみと兵士たちは剣や槍で牙龍をメッタ刺ししていった。
「あぎゃあああああああああああああああああッ!!!!」
グザグザ血飛沫を飛び散らせて牙龍は絶叫するしかなかった。
これまで下卑た快楽の為に大殺戮を行ってきた報いが返ってきたのだ。
「おい!!! ナ、ナセロンン!!! 止めろ!!! このバカどもをッ!!! がはっ!!!」
「バカどもだとぉおおおお!!!」
「こんなんなっても偉そうにすんじゃねーよ!!!」
「さっさと死ねよ!!! クズが!!!」
「あ、あががが!!! あがあああ!!! た、助けてくれええええ!!!!」
牙龍は白目で片手を伸ばして震わせてる。
しかし憎悪に満ちた兵士たちは勢いを増してザクザク突き刺し続けていった。
「「「うわあああああああああ……!!!!!」」」
兵士たちは号泣しながら恨みを晴らしきるまで、何度も何度も何度も何度も罵声を浴びせながら斬り刻み突き刺し続けた。
そんな鮮血の噴水はなおも続く……。
「やっ、止めて……くれ……!! がっ!! ぐばっ!! がああ!!! 助けてくれええぇぇ……!! がばっ!!」
「牙龍さん……」
兵士たちも大切なものを奪われたからこその憎悪と、牙龍がこれまでしてきた残忍な行為、だからこそ止められない。
悲しげな顔をするナセロンの肩にブラッドが手を付いた。
「気にするな。ヤツの自業自得だ」
「うむ」
同意して頷くルシアは、結界を張っていたチート移転者を手でぶら下げていた。
既に息絶えた死骸に兵士たちが何度も恨みを晴らし続けるのを後に、ナセロンたちは踵を返してザイルストーン王国へ戻っていく。
「まだ残ってるチートなんとかをやっつけよう!!」
「ウム!」
「フン、久々に大掃除と行くか……!」
大勢のチート移転者をナセロン、ブラッド、ルシアが一掃していく。
「「「うわああああああああああッ!!!!」」」
こうしてザイルストーン王国を襲っていたチート移転者は全て片付けられてしまった。
犠牲者は多かったが、辛うじて亡国にならずに済んだ。
王族もカナリア姫も無事……。
「あとは……」
ナセロンは夕日になっていく橙に滲んだ空の浮かぶ、大樹の浮遊島を見据えた。
ルシアもブラッドもそれを追うように見やる。
「元凶があそこにいるのか……!?」
「行くぞナセロン!! あそこに強いオーラを感じる!」
「うん!! 行こう!! ルシア、ブラッド!!!」
「「ああ!!!」」
三人は意気投合と頷きあって、オーラを纏ってドシュシュッと飛んでいった。




