11話「死に物狂いの死闘!! そして意外な決着!!」
ナセロンとブラッドの突進技が激しく衝突し合って、震え上がるピラミッドが徐々に瓦解し、破片を飛ばしていく。
衝突で生まれた烈風が荒れ狂って砂塵まで巻き上げていく。
なおも地響きと轟音が絶えず広がっていた。
ゴゴゴゴゴ……!!!
それを遠くからニーナは砂漠で見守っていた。
しかも広大な結界でピラミッド群を覆っているので、余波はおろか騒音すら溢れない。
「くふふっ。ゆっくり殺し合って欲しいからね」
これは決して巻き込まれる国などを守る為ではない。
騒音などで遠くにいるナッセとヤマミを刺激しかねないからだ。
「思った以上にナッセが強いとは思わなかったし、おそらくヤマミも同格でしょうね。割とあいつら勘が鋭いし油断できないわね。一体何者か与りしれないから気になるけど……」
本来なら遺跡でブラッドを倒したナセロンと合流するつもりだったのだが、ナッセの戦闘力を目の辺りにして警戒心を引き上げた。
下手に刺激して割り込ませてしまったら、二人を倒してしまうかもしれない。
最終目的の為に邪魔されるわけにはいかないのだ。
衝突が限界を迎え、全てを震わせる衝撃が爆ぜてナセロンとブラッドが互い弾き飛ばされた。
宙返りして、後方に着地して数十メートルほど滑っていく。
「俺がつまらないだと……!?」
「正直言ってオレも戸惑っている。貴様と殺し合いする方が遥かに愉しみなはずが、どこか物足りない感覚がある」
「自分でも分からないのか!?」
「フン!」
ナセロンは内心苛立ち始めてきた。
まさか世界に名が知れた暗黒騎士ブラッドに不満を言われるなど、屈辱でしかない。
「じゃあ死ね!! ブラッド!!!」
逆にブラッドはハッとした。
ナセロンは容赦なく殺そうとしてくれる。本来なら昂ぶるほど嬉しい事なのだろう。
飛びかかってくる殺意満々のナセロンの振り下ろしを、ブラッドは漆黒の剣をかざして受け止める。大気が破裂し、空気がビリビリ振動する。
「うおおおおおおおッ!!!!」
「フンフンフンッ!!!」
再び命の取り合いと容赦のない剣戟で攻防の応酬を始めた。
縦横無尽に駆け抜け、飛び跳ね、裂帛の気合いを漲らせて剣を振るい続ける。幾重も激突を繰り返し、打ち合う音が絶えず鳴り響く。
「うおおおおおおおおおおおおおーッッ!!!!!」
「フンフンフンフンフンフンヌッッッ!!!!」
死に物狂いで剣を打ち合って、徐々にお互いに掠り傷を増やしていく。
血飛沫がところどころ舞う。
それでも痛みなど感じぬように、修羅の形相で相手の命を取らんと獰猛に幾度なく斬り合う。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「フンフンフンヌウウウウウウウウウウウウウウウウウウンンンン!!!!!」
まるで乱気流が集合して竜巻のように余波が渦を巻いて、ピラミッドを崩していく。
それでも二人は吠えながら縦横無尽に激突し合っている。
あちこちで激突の火花が数百数千と重なり合い、鳴り響く激突音が更に激しさを増していく。
「それでも……物足りぬ!!!!」
ブラッドの一言に、ナセロンの内心に焦りが侵食する。
「ナセロン貴様とは……もう二度も戦おうと思わぬ!! 一度殺せば終わり!! それで決着だ!!!」
「それは俺も同様だ!!! 名が知れた暗黒騎士を殺して最強への踏み台にするのみ!!」
「だからだ!!!」
「何ッ!!!?」
互い刀身を交差して鍔競り合いして、唸り声とともに押し切ろうと激しくせめぎ合う。
台風に規模を大きくした烈風の中心で二人は吠えながら押し合いする。
周囲が震撼して稲光が迸っていく。
「なぜだか知らぬが、オレはナッセともまた戦いたい!!! これから先も張り合いたい!!!」
「な!!?」
「お互い思想が違うが、ナッセは殺生にこだわらず何度でも再戦を受けてくれる!!! ゆえに愉しみになってしまった!!」
「ふざけるなああああああッ!!!!」
「貴様が死ね!! 次はナッセと戦うと決めているからな!!!」
鍔迫り合いから弾かれて、双方は後方の台風へ突っ込んで流されていく。
それでも烈風の最中で破片を足場に飛び跳ねながら二人は剣戟を交錯させていく。戦いの場が劣悪だろうが二人の戦いには支障をきたさない。
「終わって死ぬのは貴様だ!!! 暗黒騎士ブラッドォォォォ!!!!」
「生きてヤツに挑む!!! 終わるわけにはいかんッ!!!!」
その裂帛の気合いが宿ったブラッドは押し勝って、ナセロンを吹き飛ばす。
「これで最期だああああッ!!! 秘奥義!! 降魔・大魔神剣──ッ!!!!」
黒い渦が膨らみ、台風のように黒刃の嵐を四方八方と撒き散らした。
広範囲を全て切り刻んで、粉々に粉砕していく絶大な威力がピラミッドを崩壊させ、砂漠を蹂躙した。
「うわあああああああああああッ!!!」
ナセロンはまともに食らって血飛沫を噴き、重傷にされていく。
焦ったニーナはフッと瞬間移動のように飛んで、ナセロンを抱えると再び時空間移転でフッと消えた。
全てが終わった後、完全にピラミッドはなくなっていて残骸が広い砂漠に散乱する。
「ニーナめ……。ナセロンを連れて逃げたか」
これではナセロンを殺してナッセに挑めない。
普通に無視してナッセに挑めばいいのに、変なプライドがあるので頑なな約束は守るのだ。
「だが、次はないぞ……!! 騎士ナセロン!!」
破けた黒マントをバサッと舞わせて、ブラッドはフッと時空間転移した。
宿屋の一室でナッセとヤマミは話し合っていた。
「もしブラッドとナセロンが戦うとしたらどうなってたの?」
「ナセロンが勝つ」
「どんな風に?」
「ブラッドの降魔・深淵刺殺剣とナセロンのカミナ……ルミナススラストが衝突し合うんだけど、ナセロンは利き腕じゃない方で繰り出してたから押し負けるけど勝ちを確信したブラッドに、利き腕の方から斬り上げのルミナスヘヴンを放って勝ち」
ヤマミは漫画を読んで知っているが、知らないフリして「へぇー」と相槌を打った。
「なんか矛先がナセロンへ向かったし大丈夫」
「ならいいけど……」
二人は消灯して寝た。




