108話「チート三人衆との激戦!!! ブラッドの矜持!!!」
かばう母の後ろからカナリア姫は見張った。
三人の頼もしい戦士が助けに来てくれたのだ。超魔獣王ルシアが、あの恐ろしいチート移転者を吹き飛ばしてしまった。
そして暗黒君主ブラッドはぶっきらぼうながらも二人の移転者を睨んで牽制している。
「もう大丈夫だよ。ボクたちがあいつらをやっつけるからね」
聖騎士ナセロンの屈託のない笑顔が眩しく見えた。
思わず「う、うん」と頷いた。
兎螺は「やれやれ」とため息をついた。
「全くです。手を出すなと言われたから大人しくしてましたが、結局役に立たないアマでしたね」
仲間意識もなくバッサリ切り捨てられる兎螺の冷酷さに、ブラッドはピクッと眉を跳ねた。
立ちはだかるルシアへ対峙しようとする。
「待て!! 選手交代だ!」
「ブラッド……?」
ルシアが振り返ると、ブラッドが訝しげにズカズカと歩み寄ってきていた。
「兎螺とか言うヤツ、気に入らん!! ルシア代われ!」
「それは構わんが……」
「へぇ? 一緒に虐殺を楽しみません? 気が合いそうじゃないですか?」
「断る!!」
冷酷な兎螺に対して、ブラッドは憤った。
ルシアは引き下がってナセロンと一緒に並ぶ。二人で王族を庇う形だ。
「ハイハイそーですか。仕方ないですねぇ」
兎螺は槍を生成し、ザッと腰を落として身構えた。
対してブラッドも漆黒の剣をひと薙ぎして戦意満々で睨み据えた。
「あなたはこのチートスキル『槍万穿』で串刺しの刑で死にたまえ!!」
なんと周囲に無数の渦潮が虚空に現れたと思ったら、それぞれ様々な槍が穂先から抜け出てくる。
そしてドドドドドッと何十本もの槍が一斉に射出された。
「フンフンフンヌッ!!! 降魔・黒刃剣ッ!!!!」
ブラッドは漆黒の剣を乱雑に振るい、漆黒の三日月の斬撃を無数飛ばす。
互いの弾幕が激突し合って大気を震わせるほどババババッと破砕の連鎖が広がっていった。
その凄まじい余波が吹き荒れて、ナセロンは腕で顔を庇う。
「甘いですねェ!!! 無制限に槍を撃てる他にも、発射口を自在に設定できるんですよ!!」
弾幕同士で相殺し合ってる最中で、ブラッドの周囲に渦潮が発生し、槍が鋭く突き出てきた。
しかしブラッドはサッと横跳びで抜け出していた。
「バカがッ!! 発射口をその先に設定する事もできるんですよ!!」
なんとブラッドが横跳びしする先で渦潮が無数浮かんでいた。
これじゃ逃げ場がない。兎螺からの無数の槍が降り注ぐ最中で、ブラッドの後ろからも槍が待ち構えている。
「フンヌッ!!! 降魔・螺旋穿剣!!!」
なんとブラッドはキリモミ回転しながら剣を振るって、黒い竜巻を纏って三日月の刃を撒き散らした。
まるで漆黒の台風のように広範囲へ猛威を振るって、無数の槍をことごとく砕いていく、
兎螺にも斬撃が及び、咄嗟にかざした槍を裂いてみぞおちを切り刻んだ。
「ぐああッ!!!」
血飛沫を噴き上げる兎螺は後ろへと仰け反っていく。
「かつてオレも虐殺をした事があった……。だが、きさまらの虐殺は度を越えて反吐が出る!! ナッセやナセロンのように誇りのある戦い方をするのとは違い、下卑た快楽によって無益に暴力を振るう事がいかに醜いか思い知らされたわ!!」
「なら、こっちと同じムジナだろう? なんでこっちへ来ないんだい??」
「断るといっただろうがッ!!!」
「グッ!! 改心しましたってか!? 虫唾が走りますね!!」
兎螺は包囲するように無数の渦潮を生み出していく。
しかしブラッドは笑む。
「フン! 改心などしてはいない!! ナッセたちのような誇りのある戦い方に惚れただけだ!! そしてきさまらのような虐殺を見限っただけだ!!」
漆黒の剣をかざす。
兎螺は「戯言を!! そのまま全身を串刺しされて無残に死ね!!!」と叫び、包囲している渦潮から一斉に槍が撃たれた。
「フンヌウウウウッ!!!! 降魔・大魔神剣ッ!!!」
漆黒の台風が吹き荒れて、延々と獰猛な黒い刃が吹き荒れて無数の槍を全て粉々に砕いていく。
いくら無制限に槍を射出しようが、吹き荒れる黒い嵐には無意味。
地響きとともに迫ってくる黒刃の嵐が兎螺をメッタ斬りにしていく。
「ぎゃあああああああああああ……ッ!!!!」
四方八方から黒刃に切り刻まれて血飛沫が盛大に撒き散らされていった。
しばし続いた漆黒の嵐が過ぎ去った後に、ドサッと血塗れの兎螺が伏した。
「な……なぜ……だ!!? この……チートスキルが敗れるなど……!!?」
「フン、生かしてやっただけでも感謝するんだな」
「なに……!!?」
兎螺は愕然する。
本来ならミンチにできていたのだが、手加減して死なない程度にしてくれたのだ。
「己の信念と命を懸けて真剣勝負をしてこそ真の強者……。貴様にはその価値がなかっただけだ。悔しければ腕を磨いて正々堂々と勝負を挑んできやがれ」
「くぅ……ッ!!!」
何もかも完敗だ。兎螺は悔しくて仕方がなかった。
ただ虐殺を楽しむ低俗なチート移転者を、真の強者と認めず手加減してあしらっただけなのだ。
ここまで打ちのめされては、もうプライドは粉々だ。
……いや虐殺を楽しんでいる時点で見栄だけの安っぽいプライドでしかない。認められなくて当たり前だ。
「フフ……今回は私の完敗です……」
「だったら死ね」
なんと傍観していた牙龍が兎螺に剣を突き立てた。ドッ!!!
「ガハッ!!!」
兎螺は盛大に吐血して、信じられない顔をしたままガクッと息絶えた。
そんな残虐な行為にナセロンもブラッドもルシアも見開くしかない。
「はれ……。味方を……殺しちゃったよ!!」
「なんてやつだ……!!」
「ムウッ!!」
牙龍は冷徹にナッセたちへ向き直る。凍るような視線だ。
「女神さまよりチートスキルを授けられておいて惨敗など、生き恥を晒すに等しい。おめおめ生かされるぐらいなら殺された方が潔い。介錯してやっただけありがたいだろう。ペッ」
牙龍はツバを兎螺に吐き捨てた。
そんな非情さにナセロンは憤怒の炎を燃やしていく。こんなの絶対許せない。
「今度はボクがやってやるよ!!」
「ガキのお遊戯など趣味ではないんだがな、まぁいい。見たところ強いのは分かっているから、せいぜい楽しませてくれよ」
冷酷な牙龍は味方の血にまみれた剣をナセロンへ突き出した。




