107話「狙われるカナリア姫を守れ!!!」
ナセロンたちが蹴散らす先で、チート移転者が笑みながら両手をかざす。
パキパキと立法四角形のキューブがいくつも生み出されていく。
「来たなッ!!! この尾持ヤスキさまのチートスキル『罪鬼屑死』を味わえッ!!!」
無数のキューブが更に増殖しながら津波のように大きく広がっていく。
魔法力が無尽蔵かと思うほどに、際限なく増殖しているので数百数千数万と空を覆い尽くすほどだ。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……!!!!
「フハハハハハッ!!! 無制限で無属性のキューブをいくらでも生成し、なおかつ頑強でな!! 物量任せでいかなる敵も押し潰せるのだー!!!」
影に覆われて、他の兵士たちが見上げながら「うわああああ!!!」と絶望するしかない。
しかしナセロンとブラッドはそのまま突っ込んで、光と漆黒の軌跡が幾重と走らせ、破裂するようにキューブの大津波を四方八方に飛び散らせた。
ライバル同士の光の剣と漆黒の剣による共演だ。
その隙にルシアがチート移転者へ一気に間合いを詰めていく。
「ま、待てッ……!!!」
「問答無用だッ!!! 喰らえいッ!!! 拳王奥義!!! 轟魔爆炎破ッ!!!!」
ルシアは轟々燃え上がるオーラを纏った右拳を繰り出して、チート移転者を豪快に爆散させた。
生成されたキューブの残骸は虚空へ溶け消えていく。シユウウ……!!
「なんと……凄い!!!」
「あっちの城にいる王族を助けてください!!」
「なんかカナリア姫を狙っているようですっ!!」
兵士たちに頼まれ、ナセロンは「分かった」と頷いて、城の方へ飛んでいった。
ルシアもブラッドもそれに続く。
火の手が上がる崩壊寸前の城に、無数のチート移転者が群がっていた。
「近づけはさせんぞッ!!!」
ザイルストーン王様は黄金の剣を振るって、目の前のチート移転者と斬り合っていた。
その後ろで王妃が娘であるカナリア姫をかばっている。
「命に代えても守ってみせますわ!!」
「ああ……あっ……!!!」
怯えているカナリア姫はピンクショートで後ろ髪が切り揃えられている。褐色肌。白い衣服と水色のマントを着込んでいる。
「この移転者こと人斬り美々已!!! チートスキル『斬斬斬』に沈みなッ!!!!」
黒髪ポニーテールの女移転者は二刀流で刀を振るっていたのに、今度は刀が分岐して鹿のツノのように無数の枝分かれになっていった。
それをひと振りすると枝分かれした刃が伸びて、王様を串刺ししようと襲いかかる。
ズガガガガガガガッ!!!!
向こうの壁にまで突き刺さっていく刃。
「ぐっ……!!!」
王様は肩、足、脇を貫かれて口から血が垂れていく。
美々已は狂気の笑みで、もう片方の枝分かれした刀を振るおうとする。
「させぬわっ!!!」
なんとルシアが拳で枝分かれした刀をことごとく砕き、王様の前に降り立って阻んだ。
そしてナセロンとブラッドが王様のそばへ降り立つ。
「大丈夫か!?」
「あ、ああ……君は……??」
「ボクは聖騎士ナセロンだよ。隣は暗黒君主ブラッド。そしてあっちは超魔獣王ルシアさんだよ!!!」
「王様はどいてろ。王妃と姫を連れて逃げるんだな」
ぶっきらぼうなブラッドにも王様は「あ、ああ……助かった。ありがとう」と頷く。
二人が何者か知らないが、ナセロンだけは見た事があった。
昔、王族同士の交流でギルガイス帝国の第四王子ナセロンを見かけたからだ。まだ幼い頃だが、確かに今の風貌と一致する。
「おっと! 逃げられると困るなぁ……!」
なんと城を覆うようにビキンと三角形のウロコを連ねた結界が形成された。
王様と王妃は絶句し、カナリア姫も腰を抜かす。
「そんな……!!!」
王様は「くっ!」と痛みをこらえながら、黄金の剣を振るって三日月の斬撃を飛ばす。
しかし結界を前に爆ぜてしまう。
「うおおおおおおッ!!!!」
続けて王様は剣を振りまくって三日月の斬撃を幾重と飛ばすが、結界はビクともしない。
「な……なんだと……!!? 鋼鉄さえも切断する技を弾くとは……!!」
「へへっ!! この舞蹴タロウさまのチートスキル『参角包使』は誰も破れんぜ!!!」
金髪長身男が両手で印を結んで笑んでいた。
そして美々已の他に二人のチート移転者が歩んできていた。
ナセロン、ブラッド、ルシアは緊迫して身構える。
「紹介してやりましょう。我らは女神さまよりチートスキルを授けられたチート移転者。そして雷霆天尊さま率いる神軍の一員。私は兎螺です」
「俺は牙龍だ……」
結界張ってるヤツはともかく、この三人は他のチート移転者とは群を抜いて強い気配する。
「あたしさ、コイツ切り刻みたいから手出さないでくれよ!」
なんと美々已が振り返って、手出し無用と断っている。
超魔獣王ルシアは仏頂面で仁王立ちしていた。
兎螺と牙龍は訝しげに「好きにしろ」と足を止めた。
「改めて自己紹介するよ!!! 私の名は美々已!!! チートスキル『斬斬斬』で惨殺してあげる!!」
「よかろう!! 我が名は超魔獣王ルシアだ!!!」
「さあ、いざ斬るッ!!!」
「来いッ!!!」
喜々と猛スピードで飛び出す美々已が、枝分かれした刀を二刀流でブンブン振るう。
さっき砕いたのに再生できるのか、とナセロンとブラッドは驚く。
それでもルシアは「フンッ」と獄炎オーラを噴き上げて、嵐のような拳の連打で刀を粉々に砕く。
しかし美々已の折れたはずの刀がニョキニョキ刃が伸び続けて、ルシアは「ムッ」と顔を顰める。
「甘いわね!!! この私の刀はいくら砕こうとも無制限で再生を──……」
するとルシアは広げた両手に業火球を生み出す。
「むうううんッ!!! 関係ないわッ!!! 拳王魔奥義!!! 獄炎爆裂魔砲ッ!!!!」
「なにッ!!?」
ルシアは両手を突き出して、凄まじい業火を放ったぞ。
全てを燃やし尽くすエネルギー奔流が一直線と、刀ごと美々已を押し流していった。
「しまったあああああああああ……ッ!!!!」
ズガガアアアーンッ!!!!
結界まで届くと大爆発が明々と広がって、烈風が吹き荒れ、周囲に振動を響かせていった。
ナセロンとブラッドは「うわあああ!!」と腕で顔を庇う。
ルシアはガッツポーズのまま真顔で見据える。
「刀はいくら再生できても、本体はそうはいかん。チートで慢心したな……」
気になったナセロンは首を傾げ、ブラッドは怪訝に目を細める。
「そんな魔法あったっけ?」
「オレも聞いた事ないぞ」
「……当たり前だ!! 魔法力を使って我が獄炎オーラを圧縮して撃ちだす技だからなッ!!!」
実は脳筋技と知ってナセロンとブラッドは目を点にした。




