106話「希望の光!!! ナセロン三人衆の爆進!!!」
女神マザヴァスは皇帝ライティアスを洗脳し、雷霆天尊の名を授けた。
そしてグレチュア天地で初めてチート移転者で構成する神軍を率いさせて、まずはザイルストーン王国からと侵略戦争をやらせた。
一方的な殺戮になるように多少細工している。
そう、移転者をかき集めて面接してがら精神汚染したのだ。
それは良心の呵責を封じ込め、潜在的な加虐性を高く引き上げた。
それによって誰でもゲーム感覚で楽しむように虐殺ができるようになる。兵器化するにあたって都合の良い事だった。
《フィーリア天地でも同じ手口でやっていたが、今回は一味違うぞ……》
そう、かつてフィーリア天地でも同じようにチート移転者による大侵攻を繰り出して悲劇を起こしたのだ。
それはクゥナーレを破壊神に変えたきっかけでもある。
あの時は世界の破壊を許して、しばしの凍結を余儀なくされて怒り狂ったものだ。
《今回は最強格の手駒を持っているし、いざとなれば“アレ”へ大量の生け贄にもなる》
女神にとってもチート移転者など道具、しかも消耗品でしかなかった。
チラッと後ろの方へ一瞥する。
その視線の先に、神殿内の大きな水晶玉が浮いていた。その中には女性のシルエットが浮かんでいて、周囲でゴポゴポと気泡が昇っていく。
巨大な女神と違って、人間サイズの大きさだ。
《必ずや、我が長年待ち続けてきた望みを叶えてやる!!》
一日千秋、この機会をどれほど待ったか……。
一方で朽ち果ててマグマの海になっているフィーリア天地の神殿で、クゥナーレは映像を見ていた。
「あの時の忌まわしいチート移転者による大量虐殺……。見るに耐えんわ」
嫌悪し、歯ぎしりして眉間を寄せる。
これが女神のやる行為かと腹が煮えくり返る想いだ。今すぐにでも出張って破壊し尽くしたいところだった。
しかし洗脳された皇帝ライティアスとは苦戦する事も踏まえ、無関係なザイルストーン王国は巻き込みたくないとも思い、おまけに世界を破壊すれば凍結されるのも含め、断腸の思いで静観するしかない。
「それに何よりもナッセとの約束がある」
あいつの真っ直ぐな目。
女神マザヴァスとも敵対する関係。そしてひたむきに夢を語ってクラスチェンジを叶えた妖精王。
そんなナッセが勝てば、女神に世界を思い通りにされずに済む。
「しかし、この様子も見えているはずだ。出てこないという事は口先だけだったか?」
少し見損なおうとする時、眩い光が映像から溢れた。
「ボクは聖騎士ナセロン!!!」
「我は超魔獣王ルシア!!!!」
「オレは暗黒君主ブラッド!!!」
なんと満を持してナセロン、ルシア、ブラッドが揃って登場したのだ。
そいつらはチート移転者をことごとく蹴散らしていった。
「そういう筋書きか……!!! 自作漫画の!!」
ナッセはこうなる事を見越していたか、と笑む。
他にも希望の光があった。しかも自らの半身であるナセロンの存在である。
そしてナッセたちも、ヤマミのアバター能力でシシカイを生み出して映像で成り行きを見守っていた。
「はぁ……!!」
気張っていたらしいナッセは安心してへたり込む。
その後ろでリョーコが尻餅をついた。ヤマミも一瞥してほおに汗を垂らす。
「ちょっとー抑えるの大変だったわよー!」
項垂れるナッセの後ろで、リョーコは音を上げた。
実はチート移転者による大虐殺に激昂したナッセを、リョーコが必死に羽交い締めしたのだ。
そのまま行かせば、間違いなくチート移転者を殲滅させるだろう。
「落ち着いて……。今はまだナセロンの筋書きでしょ」
「分かってても感情がな…………」
項垂れる額に手を当てて苦悩するナッセ。
「その気持ちは分かるわ。あれほどに女神マザヴァスの残虐な行為は許せない。けど、ナセロンの戦いもまた必要……」
「我慢するって本当に大変だぞ」
「あんた、その気になれば『界渡来』で強引に行けるのにねー」
リョーコが羽交い締めしてても、移転魔法で飛べば関係ない。
だが、やはりできなかった。頭では分かっていたが感情が暴走してリョーコに抑えてもらうしかなかった。
自分で燃え上がる感情はどうしようもないものだ。
今すぐにでも向かっていって、チート移転者を駆逐してやりたいという衝動が残っている。
「皮肉にもクゥナーレの気持ちが分かるぞ……」
今回のような残虐なチート移転者がフィーリア天地を無残に荒らしてきた事を、金色の破壊神は見てきたのだ。
ザイルストーン王国の虐殺よりもっと酷いものを見てきたんだろう。
しかも自分の娘を殺されて、世界を破壊するほどに怒り狂ったのだろう。その気持ちがよく分かる。
「ナッセ酷いものね。女神の悪逆非道……」
「ああ!! 断じて許さねぇ……!! 女神マザヴァスッ!!!」
脳裏に思い起こした女神マザヴァスへ煮え滾る感情を湧き上がらせる。
「そして、ナセロンたち……ザイルストーン王国は頼んだぞ!!」
ザイルストーン王国で暴れていたチート移転者は振り向いて戸惑い始める。
聖騎士ナセロン、超魔獣王ルシア、暗黒君主ブラッドが獅子奮迅とチート移転者を蹴散らし続けていた。
「な、なんだっ!!?」
「こいつら見た事ないぞ!!?」
「味方なのか!!? えらい強いぞ──っ!!!!」
「おい!!! なにしてくれんだァ!!?」
「そんなチート持ってるなら、こっち側……味方のはずだろォ!!?」
「待て待てッ!!!」
「ぎゃあああ──ッ!!!」
なすすべがなく四方に吹っ飛ばされていくチート移転者。
光の剣を振るうナセロン。豪腕を振るうルシア。漆黒の剣を唸らせるブラッド。
チートかと思えるほどの圧倒的な戦闘力でことごとくなぎ倒していく。
「「「敵に決まってるだろ──ッ!!!」」」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
激怒をあらわに三人は猛威を振るい続けた。




