104話「洗脳された皇帝が、女神マザヴァスの手先に!?」
女神マザヴァスが長年かけて洗脳したライティアスは、琥珀のような封印牢から抜け出して一歩足を踏み出すと瞑っていた目を開けていく。
「女神マザヴァスさま……」
《さぁ、新たに生まれ変わった皇帝ライティアスよ。今日より雷霆天尊と名乗れ。私の右腕として存分に働いてもらいたい》
「はっ! 仰せのままに……」
巨大な女神マザヴァスへ雷霆天尊は跪く。
それを見下ろしながら女神は満足げにニヤリと笑む。もはや彼は私の手駒、と言わんばかりに……。
そして後ろから、整列した大勢の人がザッザッと押し寄せる。
《異世界より移転させた選りすぐりのチート移転者数十部隊を授ける。そして……》
粛々と述べていく女神マザヴァスは次に掌をかざす。
すると雷霆天尊の漆黒の皇帝らしい鎧が光に包まれて、元のデザインを踏襲しつつ赤を色調とした衣服に変換された。
そして両目を覆うアイマスクが付けられた。
更にチート移転者数十部隊まで、赤を色調とした軍服みたいなのに変わったぞ。
《神軍司令雷霆天尊を中心に、我が神軍でもってグレチュア天地を完全制圧する事が最終目的。その為にも要となる妖精王ナッセの抹殺は完遂して欲しい》
「妖精王ナッセ……」
《そやつさえ抹消できれば、この世界は我らのものとなり永遠の楽園が約束できる。うぬらにとって至福な環境がそれぞれ叶えられる》
「「「「うおおおおおおおおおおおお──ッ!!!!!」」」」
女神マザヴァスの甘言にチート移転者は湧き上がった。
しかし雷霆天尊は厳かな直立不動で「仰せのままに……」と頭を下げる。
洗脳されたとはいえ、元の人格は変えられようがない。大国を治める身として重大な責任を背負ってバリバリ働いてきた男。
不穏分子を逃さず、それを排除して秩序と平和を保つ厳粛さは変わらない。
……それゆえである。
《では、早速だがザイルストーン王国を攻め落として欲しい。その際にカナリア姫をさらってこい》
「はっ!」
女神を絶対的存在として認識した雷霆天尊はそれに従う。
その内心で、雷霆天尊は身が軽い事に違和感を持っていた。封印牢から解放される以前の記憶がない。
自分の戦闘能力や名前と必要な知識だけは覚えているが、家族や国など思い出となる記憶が消失している。
その上で女神マザヴァスを母親として見る子どものように認識させられている。
「その前に恐れながら聞きたい事がございます」
《なんだ?》
「ザイルストーン王国の事は知っていますが、周辺の町や村を脅かすなど秩序を乱すような国ではない。それを一方的に攻め込むなど、あまりにも許されざる行為ではありません。交渉をすべきでは……?」
するとズンと重々しい威圧がのしかかってきて、チート移転者はビリビリと震え上がっていく。
女神マザヴァスは恐ろしい睨みを雷霆天尊に見下ろす。
《女神さまの命令は絶対と心得よ! 攻め落とせといえば、疑問を持たず従え! 私こそが絶対的であり正義なのだ!!》
「……口答えした無礼をお許し下さい」
《ふん! せっかく下等生物の国を一方的に叩き潰す娯楽を与えてやろうというのに、生真面目なやつだな!!》
謝罪して跪く雷霆天尊に、女神マザヴァスは不機嫌そうに鼻息を漏らす。
そんな幼稚な女神に雷霆天尊は不審を抱いた。
世界の国勢など考慮も入れず、ただ一方的に手前勝手な干渉をする。しかも遊びだと言わんばかりの下卑た感覚でだ。
「カナリア姫をさらう理由を伺いたいのですが?」
《ザイルストーン王家代々伝わる『奇跡の宝剣』を我が神軍に取り入れて戦力強化したいのだ》
「『奇跡の宝剣』……。信ずる者の想いを集めて戦闘力に変換できる王家の秘宝」
《そうだ。妖精王ナッセ以外に厄介な金色の破壊神を滅ぼす切り札となる》
「ふむ。承知致しました。必ずや捕らえてみせましょう」
《期待しておるぞ。雷霆天尊》
「はっ!!」
満足した女神マザヴァスの下卑た笑みが焼き付く。
こいつこそ危険分子ほかならぬ。世界を楽園にすると約束してくれているが、それはチート移転者たちではなく女神自身の為なのだろう。
世界にとって為にならない存在だと内心抱く。
「チート移転者というが、神軍として余に従うのだったな?」
雷霆天尊が振り向くと大勢のチート移転者は「はっ」と畏まる。
何十人も移転者を揃えていて、かなりの戦闘力と能力を授けられているのが分かる。
そして精神汚染も同時に感じ取れた。
……いずれも戦闘経験がない。それ故に殺傷に対する恐怖と躊躇いが生じる。それを精神汚染する事で消失させて兵器化したのだ。
なので最初っから平気で殺傷する事ができるのだ。ゲーム感覚で……。
「これよりザイルストーン王国を攻め落とす」
大勢のチート移転者を率いて、雷霆天尊は荘厳と言い放つ。
女神マザヴァスの悍ましい言動に嫌悪感を示しつつも、自分の主として今は忠実に従う事にした。
アイマスクを付けた自分は、冷徹な女神の忠実な傀儡に相応しいと……。
ザイルストーン王国。辺り一面砂丘が連なる砂漠地帯にある大きなオアシスそばに建つ大国。
薄い黄土色の高い城壁に囲まれていて、多くの人々が行き交いしている。薄い黄土色の四角い建造物とテントなどが並んでいる。
所々ヤシの木とか茂みとかが生えている。
これまで通り平和が続くはずだが、それは立ち込める暗雲から響く雷鳴によって破られた。
ズズズズズズズズズズ……!!!
渦巻く暗雲にザイルストーンの人々は恐れおののいていく。
暗雲の中心から閃光があふれて、中から壮大な巨樹が広々と葉っぱを広げているドンブリ型の浮遊島が現れてきたのだ。
そして一方的にチート移転者が大勢、オーラを纏ってザイルストーン王国へ飛来してきた。
これよりチート移転者による大侵攻が始まったッ……!!!




