10話「今度こそ主人公とライバルの対決!!」
ナッセとブラッドの戦いによって、ほぼ残骸となってしまった遺跡。
それを後に砂漠へ歩んでいくナッセとヤマミ。
「あの後、三時間くらい待ってたけどナセロン来なかったな……」
「『察知』してた?」
「ブラッドとの戦いの後に一度やったが、遺跡には誰もいねぇぞ。ブラッドもいねぇし」
実は高みの見物してたナセロンはすぐさま離脱していて、もぬけの殻だった。
「……本来ならニーナと合流して、ニベノン国で魔道士討伐の依頼を受けるはずだが、念の為ザイルストーン王国へ向かおう」
「そうね。ニーナも結局来ないし、ナセロンは間違えて王国行って合流してるかもしれないわ」
「ああ」
ヤマミはナッセの自作漫画を読破しているので、ニーナがナセロンだけに執着しているのを知っている。
従って、こちらと合流する理由はない。
ニーナにとってナッセとヤマミは捨て置いていいモブキャラだ。
ザイルストーン王国はオアシスのそばに建つ大国。
薄い黄土色の高い城壁に囲まれていて、多くの人々が行き交いしている。薄い黄土色の四角い建造物とテントなどが並んでいる。
所々ヤシの木とか茂みとかが生えている。
「漫画だと瞬間移動みたいに場面が切り替わるからこれだけど、実際に歩いてみると時間かかるなぞ」
「遺跡から三時間……結構遠かったわね」
太陽が沈もうとしているので、宿を取ろうと探し回っていく。
日が沈んで冷えた風が吹く砂漠……。
「はれ……! 確か暗黒騎士はそこに……」
能天気な騎士ナセロンはピラミッドを目指していた。
いくつか小さな四角錐に加え、大きいのが一つ聳えている。
「フッ、来たか……!!」
大きなピラミッドの中で、王家の棺桶が置かれた大部屋でブラッドは座っていた。
周囲に呪いを振りまく怨霊がウヨウヨ徘徊している。それを吸い寄せてブラッドへと吸収されていく。
まるでブラックホールのように無数の怨霊はブラッドへ集約されていった。
すると重傷だったブラッドはたちまち癒えて新品同然になった。
そう、暗黒騎士は呪いが効かず、逆に怨霊などを食らうと傷が回復する設定なのだ。
おまけに服も復元できるので描くのが楽だぞ。
「よくぞ来たな!!!」
ピラミッドの外壁の中腹でブラッドが腕を組んで待っていたようだ。ナセロンは見開く。
「はれっ!!? 怪我が治ってる!!?」
「ほう、どこかで見てたか? だが残念だったな。癒しスポットがあるからこそ遺跡での待ち伏せを選んでいたのだ」
ブラッドは不敵の笑みで、ナセロンを見下ろし手が踊る。
「愚か者どもを駆逐すべき、黒の閃を描いて切り刻め!!! 愚滅の漆黒よーッ!!!!」
「不遜なる神を断罪すべき、軌跡を描いて切り裂け!!! 神殺しの光輝よーッ!!!!」
同時に口上を述べて、ブラッドとナセロンは剣を引き抜くように魔剣を具現化した。
「暗黒騎士!! 手負いの内にトドメを刺しておこうと思ったが、まぁいい」
「ああ……。今度は貴様とやってみたかったのだ。騎士ナセロン」
「参加料は命でいいか?」
「貴様のか?」
一触即発、殺意を漲らせてナセロンとブラッドは凄まじいオーラを噴いてピラミッドが震え上がっていく。
高台からブラッドが飛び出し、砂漠からナセロンが飛び上がり、光の剣と漆黒の剣が激しく交差した。
「うおおおおッ!!!!」
「フンフンフンヌ!!!!」
爆ぜるほどの戦意がぶつかり合い、激しい剣戟を繰り返していく。
本気対本気の容赦のない殺し合いともいえる攻防の応酬。
ナセロンに弾かれるように間合いを離れるブラッドは、着地する前に漆黒の剣を振った。
「降魔・黒刃剣!!!」
六つの漆黒の刃がナセロンへ襲いかかる。
左右交互に避け、死角から切り込んでくるブラッドに対してナセロンは「ルミナスヘヴンーッ!!!」と光の剣で切り上げた。
再び刀身が交差して、周囲に衝撃波が爆ぜた。
「降魔・螺旋穿剣!!!」
「ルミナススパイラルーッ!!!」
なんとブラッドの回転切りに対して、ナセロンも回転切りで対抗して、激しく衝突し合っていく。
闇と光の竜巻が衝突し合っているかのようだ。
「クックック!! どこぞの甘いヤツより、手心がなくて気に入ったぞ!!!」
「ああ!! 俺もだ!! こうして命の取り合いで勝ち抜く事こそ、天地無双へと上り詰めれる!!!」
互いの回転切りが爆ぜて、双方とも後方へ着地。
それぞれ手傷を負って衣服が破けてて、血があちこち滲んでいる。しかし二人は不敵な笑みで鋭い視線で睨み合っている。
「だが、何処か違う!!!」
ブラッドがそう吐き、ナセロンは怪訝そうに眉をはねる。
「命の取り合いする緊迫した死闘は嫌いではない。だが、物足りぬ!!」
「なんだと!?」
「貴様とナッセは違う!! ヤツは確かに甘かったが、背筋に怖気が走る心地よさを感じるほどの威圧を感じた!!」
ブラッドの脳裏には激情に駆られたナッセが焼きついていた。
殺さないようギリギリ見極めての戦いをしてきた。流星進撃で死にかけたが、もしナセロンのように容赦がなければ、とっくにくたばっていた。
「ヤツは無関係なアマゾネス族の虐殺に怒っていたし、ザイルストーン王国の虐殺宣言で逆鱗に触れていた。それでも殺さないよう力を逃していた」
「そんな無駄な事を……?」
「ああ。我らは敵を抹消する事が全てだ。故に再戦などない」
「そうだ!!」
ナセロンは剣を正眼に構えてオーラが放射状に吹き荒れていく。
「うおおおおおっ!!! ルミナススラストォ──ッ!!!!」
「フンッ!! 降魔・深淵刺殺剣ッ!!!」
ナセロンは轟音を伴って一直線と光線のように突進し、ブラッドも同様に剣を正眼に構えて漆黒の光線のように突進した。
二つの突進技が激しくぶつかり合って、嵐のような余波が吹き荒れていく。
周囲のピラミッドが唸りを上げて震えていった。
「だが、貴様はくだらぬ……!!! つまらぬ……!!!!」
ブラッドの吐き捨てるような言葉がナセロンを絶句させた。




