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1話「黒歴史満載の自作漫画に異世界転移!?」

 学院の夏休みでナッセはヤマミと一緒に地元の田舎へ帰郷する為に特急列車に乗っていた。

 青い青空の下で広がる田んぼが流れ、向こうの山も少しずつ流れている。

 ガタンゴトン、揺られながら二人は並んで席に座っていた。


 城路(ジョウジ)ナッセ。銀髪で突き出たようなクセっ毛。成長が遅れているせいか成人間近なのに少年みたいな体つき。

 夕夏(ユウカ)ヤマミ。黒髪の姫カットでツンとしたような女性。生徒会長と言われれば大半が信じそう。

 そんな自慢の彼女を連れて内心ウッキウキなナッセ。


「……っても、オレの実家ばっかだなぞ」

「いいわよ。夕夏(ユウカ)家と多少和解したといっても、私はあなたの家で過ごしたいからってだけ」


 クールに目を細めて返してくる。こんな感じだけどデレているのが分かる。

 やっぱ美人。オレにはもったいないくらい。


 ……っと、実は彼女って日本でも有数の資産家の娘。

 父となる四首領(ヨンドン)ヤミザキ。実際恐ろしい男で、一年前に世界大戦を巻き起こして死闘をしてた。

 色々あって和解して平穏な関係になっている。



 富山県の夏は暑いぜ。

 青空の下で射水市小杉駅に着いたあと、切符を落として改札を出た。

 バス停の時刻表を見ると、やはり少なすぎる……。


「走ったほうが早いな」

「そうね」


 そういうわけで自動車より速い駆け足で実家へ着いた。


「ただいま」

「お邪魔します」

「あらまぁ、おかえり。ほほ」


 玄関へ入ると、母が微笑みながら迎えてくれた。

 するとドタドタと駆け寄ってきた弟ズが「また彼女連れてきやがったー!」「当てつけかー!」とがなってくる。

 弟ズは次男ツバサと三男ヤスシ。


「そういうわけじゃないけれど」


 これみよがしにヤマミがナッセの腕に組み付いてきた。

 弟ズは「うらやまああああああああ!!!」と嫉妬全開で悶えてくる。

 単にヤマミが意地悪しているわけじゃなく、ごく自然にナッセとイチャイチャしたいだけであった。結果的に当てつけとなってしまってナッセは困惑。


「くっつくのは部屋でいいんじゃ……?」

「いつでもできる内にしてるだけ。平和な夏休みをこうして満喫したいだけだから」

「「それは分かるが、羨ましいぞー!! 覚えてろよー!!」」


 耐えかねたのか弟ズはまたドタドタと走り去っていった。

 ヤマミ的に甘えられる時は甘えたいって事か。並行世界(パラレルワールド)を無数と渡ってきた頃はそんな余裕なんてなかったもんな。

 でも胸の感触で至福なのはいいことだ。


 家族で囲んで晩飯を済ませ、つもる話をして、風呂へ入って、ナッセはヤマミと一緒に部屋へ二人きりで布団の中へ入っていった。

 そしてその深夜……。

 抜き足差し足で部屋に入り込んでくる弟ズは「ニヤリ」と笑みながら、六冊の一〇〇ページノートと小さな卓上ミラーを持ってきて、それを寝ているナッセとヤマミのそばに置いた。


「ふっふっふ! 自ら描いた痛い漫画で悶えるがいいわ!」

「でもよう、この卓上ミラーの噂本当かな?」

「……オヤジが昔に買った怪しい魔鏡。媒介となるアイテムをそばに置くと、それに合った異世界へ転移するって噂なんて、信じちゃいねーよ」

「え? なんで?」

「いいから出ろ。お兄さんと彼女が起きるぞ」


 バタンと部屋を出てから、ヤマミは薄らと片目を開けた。

 ドアの向こうでボソボソ聞こえる。


「信じていないってんなら、なぜ持っていったんだ?」

「そんな事ができる魔鏡が物置にあったら、試したくなるだろ? たぶん何も起こらないんだろうがな」

「いいのかな? 忽然と消えてたら……?」

「なーに大丈夫大丈夫! 兄さんと彼女はすっごく強いんだし、万が一起きたってへーきへーき」

「ああ、それもそうだな」


 微かな足音が遠のいていく。

 ヤマミは少し身を起こして、後ろを見やる。枕元にノートと卓上ミラーがあった。

 ノートには表紙イラストを貼り付けている。


「……漫画?」


 ナッセが昔に描いたであろう自作漫画。一応ナッセを確認すると爆睡している。多少の事では起きないだろう。のんきなもんである。

 興味本位でピラッと漫画をめくる。

 ついつい全部読破して、何事もなかったかのように再び布団の中へ寝入る。


 それを見計らったかのように卓上ミラーがカッと光りだした。




 気づけば変な空間にいたぞ。


『ついに始まる!! 前代未聞の本格ファンタジースタート!!』


 ナッセは呆然とする。ヤマミもそばにいてビックリする。

 二人は顔を見合わせてから、目の前の見出し文字と二人のキャラを見る。

 ツノの生えた金髪少年と、耳が尖った茶髪ショートの女魔道士。


「まさか……?」


 思い当たりすぎてナッセは冷や汗ダラダラ。


「どうしたの?」

「い、いや! なんでもない! し、しかし……これは……?? オレたちどうしたんだぞ??」


 ナッセとしてはかなーり困った事態だ。

 なぜなら昔に描いてた恥ずかしい自作漫画の世界に入っている事を悟ったからだ。

 間違いなく見出し文は自分が書いたもの。そして少年少女のキャラは自分が描いたやつ。

 すると場面が変わっていった。


「ちょっ! 待って待って!!!」


 ヤマミは読破してるけど、敢えて黙ったままナッセのリアクションを見守る。

 オロオロする様子に思わずクスッと……。



 ─ここはこの世界とは異なる世界……。そこでの世界は“天地”と呼ばれていた。

 ─すなわち“グレチュア天地”!


「あああああああ!!!! やめてっやめてっ!!!!」


 黄土色の世界マップみたいなのが映って、ナレーションが流れ出してきてナッセは慌てふためく。

 当時は「本格ファンタジー」のつもりで描いていた。


 ─そこでは剣と魔法による文明が当たり前のように栄えている世界……。


「やめてくれ!! そいつはオレに効く!! だからやめてくれえええ!!!」


 顔面真っ青なナッセの慌てように、ヤマミは冷静に見守る。

 もう読破しているので今更、って感じだが面白そうなので黙っておく。


 ─その長き歴史で記述されし英雄譚の中の一つ!


「やめてええええええええええっっ!!!!」


 頭を抱えて絶叫するナッセをよそに、ナレーションは続いていく。

 異世界へ転移され、太陽が浮かぶ青空。広がる海と島々。


 ─とある惑星で、その話が始まる……。


 なぜか戦乙女ワルキューレっぽい風貌の女神が降りてきて、一人の少年に語りかける。

 無邪気な少年は明るい表情をしていた。


 ─女神マリアンヌスより、光球を受け取った少年。


「ヤマミ!! これは……オレの()()()()異世界!!? どうしよう!! は、早く帰らないと!!?」


 うろたえるナッセは「知らない世界」とヤマミにしらばっくれた。


「どうやって帰れるの?」

「う、うう……」

「しばらく様子見ましょう」


 あくまで冷静なヤマミにナッセは「え!?」とたじたじだ。

 彼としては自分の漫画を見られたくないので、うやむやの内に脱出したいと思っていた。

 しかし、どうやって出るのか皆目がつかない。


 ─彼は後に“天地無双”の聖騎士(パラディン)ナセロンと謳われる事になる……!


「うわああああああああああああ!!!! 死ぬううううううううう!!!!!」


 主人公に自分の名前を入れてた黒歴史に、ナッセは悶えながら絶叫したのであった。

 一方でヤマミは微かに笑み、誰にも邪魔される事なく二人っきりで彼氏の描いた異世界を旅できると喜んでいた。

あとがき


 連載開始って事で、四話同時掲載します。

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