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呪いと結婚  作者: 遠禾
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 さて、カレルが自分を呪うような不届き者を庇っているのだとしたらその理由はなんだろう。そして、カレルが呪われた理由は一体何なんだというのだろうか。

 言うまでもなくカレルはヴェルン公爵家の二番目の子息であり、跡継ぎとなるのは長子のエスキルであって、彼ではない。カレルを呪った人間はそのような半端な立場の彼を、何が目的で水晶玉に変えようなどと考えたのか。

 そう考えて、ふと嫌な考えが頭を過ぎる……呪ったのが、そのエスキルか彼に近しい関係者だとしたら?

 否それこそ彼に実の弟を呪う理由などが、ある筈がない。何もしなくても、エスキルが現公爵の跡を継ぐのは決定事項の筈だ。カレルが跡継ぎの座欲しさに兄を呪うのならば動機としてまだ理解が出来ないこともないが、逆はあり得ないだろう。そんなことをしても、何の利益もないではないか。

 それに、もとはといえば水晶玉になったカレルと出会ったきっかけだって、ルドヴィカに解呪させる為の相談を彼の母と兄がしていたからだ。カレルが庇いそうな彼の家族が、呪いをかけた犯人ではあり得ない。

 公爵家の他の人間や近しい従者に疑いの目を向けたとしても、同じことだ。

 例えば公爵家に恨みを抱える貴族や家来がいたとする。彼らが公爵家の断絶やお家乗っ取りを画策したとしても、第一継承者のエスキルをふっ飛ばしてカレルを呪って一体何になるというのか。エスキルがあまりの無能ゆえに次男のカレルに跡継ぎが譲られることが決定しているならともかく、そんな話ルドヴィカは聞いたこともない。


 大体公爵家に恨みを持つような人間がカレルを呪った犯人だとしても、一族を恨むような輩をカレルが庇ったりなど、果たしてするのだろうか。

 いかん、貴族内外の事情もわからない上にカレル自身の親密な人間関係を知りもしないルドヴィカが、幾ら推測をしようとしたとしても結局それは証拠も根拠もない空想でしかなかった。何の益にもなりゃしない。

(ルドヴィカ、沈黙が長い気がするんだが)

 自分が質問に答えないことで、こちらの怒りを買ったとでも思ったらしい。恐る恐るといった印象で尋ねられた。

「ああ」

 なんでもないんですよ、と答えたとろこでそんなことないだろうというのは、彼の目にも(今の彼には眼球は存在していないが)明らかなのだが、馬鹿正直に本人に向かって犯人を庇ってますよね? と疑ってますと話すのもどうかと思う。

 明確な意思をもってエスキルが罪人の名前を隠そうとするのならば、ルドヴィカがどう問い詰めたところで無駄であろう。呪法師の素性が知れたならば、わざわざルドヴィカの元を訪ねる必要などなかった。それなのにルドヴィカを頼った以上、彼は明確な意志をもって犯人を庇う選択をしている。


 なんと、何を言うべきか考えあぐねていると部屋の扉がノックされた。あ、と弾かれたようにそちらを振り向くと私服のドレスに着替えてきたジェーンが、笑顔を浮かべて立っている。

「ルイス嬢じゃないですか」

「ないですかって何よ。もう、遅くなってごめんって言おうとしたのに」

 天の遣わした助けのようなタイミングで現れたジェーンに、ほっとして声をあげたが彼女は不満だったようだ。

 「すみません、人様のお宅ですっかり寛いでしまっていて」

「あら、それならそれで良いの。ルシカが緊張して、辛いよりはね」

 大学にいる時とは全く違う出で立ちである。光り輝くような、金や銀の細工で飾られた髪飾りで背中までおろした髪を彩り、着ているドレスもそこかしこに錦糸の刺繍がふんだんに散りばめられている。庶民が見ても、その高価さを悟るには十分だった。屋敷の暗さとは正反対の、派手な格好に少し面食らってしまった。

「凄い、ですね」

「あらそうかしら。わたしの持っているものの中でも、地味な方なんだけど」

「へー」

「……まあいいか」

 何処となく不満げな様子を見せながらルドヴィカの向かいにまわると、ジェーンは自ら椅子をひいて座った。

「従者の方はいらっしゃらないんですか?」

「人払いしたからね」

 意外な返事に内心首を捻る。

「どうしてですか?」

「勿論、ルシカの無実を晴らす為よ」

 腕を組んで顎をひくと、胸を張って見せるとジェーンは言う。

「ルシカが悪いって、お父様も思っているのがわかったから、家の人間は頼っていられないでしょう?」

 滔々とルドヴィカの無実を信じる言葉と、頭の固い親に対する怒りを述べている。どうやらルドヴィカ達の元に来るより前に父親とルドヴィカの処遇について、一揉めしてきたらしい。

 

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