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呪いと結婚  作者: 遠禾
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 カレルにとって自身に呪いをかけ、水晶玉なんかに変えた輩など憎しみの対象にしかならない筈だ。呪いをかけた相手にありもしない誘拐犯の疑いをかけられたとして、言い方は悪いが知ったことではない。ルドヴィカが彼の立場ならばそう考えたと思う。

 ただただカレルが道理の曲がったことがどんな些細なことでも許せない、潔癖な程に真面目で高潔な人間なのかもしれない……いや、やはり違和感がある。

 昼間の事件を思い出す。どさくさに紛れてルドヴィカの鞄の中に紛れて行方をくらまそうとするあたり、真面目な性格なのは間違いないが、同様に人間らしいずるさも持ち合わせている。自身に害をなした対象を気遣えるような余裕が、今の彼にあるとも思えない。


 ルドヴィカにはカレルが呪いをかけた張本人、または呪いをかけるように呪法師に依頼した相手の身を案じているように思えるのは、何か特別な理由があってのことではないかと思えるのだ。

 自分の頭に手をのばし、相変わらずここが自分の正当な寛ぐ場所である言わんばかりに、ルドヴィカの頭上に載っている水晶玉を持ち上げる。

 何をする気だ? とどことなく不安げに問い質してくる水晶玉に、少し笑ってしまった。水晶玉の姿をしているとはいえ、広大な土地を支配する領主の御子息でも不安になることはあるのだな、と。

「カレル様、お尋ねしてもよろしいしょうか」

 水晶玉を手のひらにのせた状態で顔の前に持ってきて、問いかけてみる。このまんまるのお姿には目も口もない為に、対話する為に視線を合わせようとする努力など無意味でしかないのだが、かしこまったかたちを取ることでこちらもそれなりに真剣に問いただすつもりであると、認識していただきたかったのだ。

(なんだ?)

 言葉少なな返答はこちらの意図が伝わった為に、緊張しているのか……それとも特に何の意味もなく、こちらが深読みしただけか。

 どちらにしろ質問そのものは許された。遠慮なく聞きたいことを口にした。

「呪いをかけた犯人に心当たりがあると、おっしゃいましたね。カレル様を水晶玉に変えた不届き者の名前、教えてくださいませんか」

(……それは)

 案の定水晶玉は口ごもった。しかしルドヴィカは彼の反応も想定内だった。

 これはルドヴィカの想像でしかないのだが、犯人に心当たりがあるとルドヴィカに伝えてしまったのは、完全なるカレルの誤算、否うっかりだったのではなかろうか。


 水晶玉がどのような手段でこちらとの意思疎通の方法をとったり、飛び跳ねたりなどの行動を起こしているのかルドヴィカにはわからない。口を開き、発声する為の器官のない今のカレルとって語りかける為の勝手が元の肉体とは違っていて、漏らすつもりはなかった心の中に収めるつもりの本音が、うっかりルドヴィカに向かって漏れてしまったのではないだろうか。

 ではどうしてカレルは、心当たりがあるというのに、呪いをかけた犯人について頑なに口を閉ざすというのか。わざわざ接点のないルドヴィカに対して対価を提示してまで助けを求めずとも、犯人を捕らえてしまえば解呪は可能の筈だし、もっと話は早いというのに。


(すまない。今は話したくない)

「どうしてですか?」

 やはり水晶玉は自身に害をなした相手を守っている、とルドヴィカは確信して更に追及する。

(ここはルイス伯爵の邸宅だ。どこに彼の耳が潜んでいるのかわからない。不用意な言葉を発するわけにはいかないだろう)

「それこそ何故ですか? ルイス伯爵がどのような方かわたしは知りませんが、カレル様や公爵家に何か不義を成すような方だとしたら、カレル様がここに来るのを公爵家の方が許さないんじゃないですか?」

(……それは)

 人の顔と口があったならば、彼は口ごもりルドヴィカから目を逸らしていたに違いない。そう簡単に想像がついた。

 沈黙してしまった水晶玉。見たこともないカレルのその顔を、水晶玉のつるりとした光沢のある姿越しに睨みつけるような気分で、ルドヴィカは凝視する。彼の本心が、見透かせないかと思った。勿論、何も見透かせやしないばかりか相も変わらず水晶玉には呪いの証は見えやしなかったが。

 

 推測でしかない。だがきっと間違っていないと思う。

 カレルは、自分を呪った相手を庇っている。

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