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呪いと結婚  作者: 遠禾
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 ファレスプラハ大学は、元々は唯一神を祀る宗教国家であるアーテルの教えが広まった際に、この地にも本殿を讃える為の組織として、神殿が造られた。その跡地を大学の敷地として利用している。

 

 何でもヴェルンにあった神殿はアーテルと神殿の教えとともに法術がルーフス王国に広まった際に、彼らを迎合する事が国の利益になると早々に判断した当時の国王により大々的に迎え入れられた、その時に神殿への敬意を示す為に莫大な建設費と労働力、期間を経て造られた木製の建物だ。


 ルーフスでも他に類を見ない程の規模と技術で造られており、アーテルからの神殿関係者が見学に来る程のものだ。そのような建物を、神殿の崇拝施設としての機能を果たせなくなったのには理由がある。


 現在ヴェルンには特別視されるような、権力のある神殿施設は存在していない。

 一度ルーフス王家直轄領と、この国における神殿の正統かつ神聖な土地の取り合いを巡り、一触即発の事態になったそうだ。どちらかというと、それは王家の血なまぐさい対立における内乱の危険性を孕んだものだった。

 神殿という、権力とそれに付随する力を備えた組織に対し、重要な拠点を一領主に任せる事の危険性を現国王が重視したところによるだろう。 


 その結果、現ヴェルン領主が兄である国王との諍いを避ける為に、それまであった神殿組織をルーフス直轄領に移動させる事で争いの芽は摘まれる事となる。

 それでもこれだけの技術と大きさの建築物を持て余すのは、という意見もあって、法術の専門的な大学を跡地に設立する運びになったそうだ。

 

 リイサの中心部の大きな広場を抜けて、更に歩く。朝日が既に昇り始めていた。

 大学の敷地を囲う壁は広大な範囲をぐるりと取り囲んでおり、その全ては遠目に見た範囲では視界に収める事は出来ない。門扉の傍には大学の職員が立っており、学び舎に不審者が訪れていないかを視認している。

 法術の大学には、希少な価値のあるものが収蔵されていると聞く。ファレスプラハも例外ではなく、法術に関する秘匿性の高い写本から、歴史ある術師の遺した物品など、多くの価値あるものが存在している。

 それらを部外者が換金目的で入手しようとするのを防ぐ目的で、門扉には守衛の役割をこなす職員が立っている。


「名前を」

 職員の中でも恰幅の良い背の高い男だ。確か名前はジョン・トレッドというらしい。歳の頃は四十代といったところか。魔術の実戦に携わる教員も兼ねているらしく、ルドヴィカはあまり接する機会はない。

「ルドヴィカ・バレンシス」

 必要以外の言葉を発するのは禁じられている為、名前だけを口にする。

 男は手首に巻いた何かを見て、ルドヴィカを見ると再び視線を落とす。

「良かろう。行きなさい」

 どんな理論の呪法なのかはわからないが、入学時に学生全てに何かしらの呪法が仕掛けられているらしく、守衛の役割を持つ職員にはそれらの呪法と対応する呪法がかけられる、という決まりらしい。

 それらがどのような反応を示すと不審者としてみなされるのかは、当然ながら学生に教えられる事はない。そんなものを知った日には、どこから小細工をして外部から入り込もうもする不届き者が現れるかわかったものではない。厳重な機密として、それらの呪法は管理されているのだろう。


 頭上の水晶玉はルドヴィカが返事をしないというのをわかった上で、外の世界が面白いのか独り言らしき感想をずっと言っている。

『あんな屋根では、嵐がきたら簡単に飛ばないのか?』

 意外と大丈夫なもんなんですよ。

『子どもも働くのか?』

 そりゃあ学校のない時間や、学校には通わない子どもは働きますよ。花売りや菓子売りの子ども見てそんなに驚かなくても。

『下町の者は声が大きいな』

 お貴族様がお上品過ぎるだけです。


 世間知らずのお坊ちゃんらしい感想に多少苛々しないでもないが、人間嫌いだと言う割にカレルは町の人間の生活を面白く、興味深く眺めているようだ。本人が楽しいなら、ルドヴィカが水を差す必要も感じはしない。

 ファレスプラハに入る時も、彼は面白い反応を始めた。

『一度見学に来た事はあったが……本当に大勢の人間が来るのだな』

 青い外套を着た男女が門を抜ける。広々とした中庭を往くのは殆どが馬車ばかりだ。

 ヴェルンに住んでいる貴族の子女の殆どは、家が所有している馬車で大学への送り迎えをされている。他国や、ルーフス国内でも遠隔地に住居を構える貴族達はヴェルン領内に居を構えるか、またはこのファレスプラハ内の一部の建物を寮として利用しているらしい。

 領民であり、しかも庶民であるルドヴィカには全く縁のない話であるが。


 神殿という大陸を支配している、といってもあながち間違っていないだろう組織を迎える為に造られた建物というだけあって、敷地内の建物は歴史を感じさせる……といえば聞こえは良いが、要するに古い。

 広場を抜け、馬車から降りる貴族様方を避けながら中央棟に足を踏み入れる。


 向かう先はルドヴィカの学ぶ呪法教室である。なるべく他人に会うのは避けたい。

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