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呪いと結婚  作者: 遠禾
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8

『見ての通り僕はこんな姿だ。先程話したが呪法も使えなければ、今僕がカレルだと理解出来る者は父と母、兄だけ。今の僕にきみに何が出来るかとと問われると、何にも返せない……心苦しいが』


 意気消沈したような声で水晶玉は言う。触れていないと聞こえないという謎の音声にも関わらず、肉声と変わらぬ声音が彼の気持ちを伝えてくる。


『信じるに値する証明が出来ないのは失礼だろうが、約束する。元に戻る事が出来たならば、きみが納得いくだけの謝礼をしたい』

 その言葉を聞いて信用するべきかをルドヴィカは考える。彼の言葉は、本人が言うように確かな信頼に値しない。裏付けがないのだから、当然だ。

 だがその上で考える。水晶玉に協力する上で今後あり得る事を。


 この水晶玉が本当にカレルが呪いによって変えられた姿であり、ルドヴィカに対して真摯に礼を考えてくれる。そんな都合の良い話はあるだろうか。

 ひとつ、思い付いた事がある。それを実行可能か、ルドヴィカは考えを巡らせる。


 もしこの水晶玉がカレルではなく、例えばヴェルン領もしくはヴェルンを含んだ王国ルーフスに仇なす者の送り込んだ刺客であった日には、この水晶玉に付き従う事で何かしらの難が訪れる可能性もある。

 それらの思惑があった場合を考慮し、この水晶玉を出し抜く事は果たして自分に可能だろうか。


 結論を出すまでに時間は然程必要ではなかった。顔なんてわからないがなんとなくルドヴィカの手の上で不安そうにゆらゆらと揺れる水晶玉に話しかける。

「わかりました」

 公爵家を、貴族の支配する特権がまかり通る世間にひびを入れてやろうと思った。


 こいつが本当にカレルなら、彼や公爵家の望むように呪いを解く為に尽力してやろう。当然内密にだ。そして、呪いを解いたあかつきに謝礼やこちらの要求する条件を引っ込めるようならこの無様な姿を明かしてやる。

 逆にもしもこの水晶玉の正体がカレルではなくこの国に仇なす者であるなら、その証拠とこの水晶玉を確保して国に突き出してやれば良い。どちらにしても、国にとってはルドヴィカが恩人となるのは間違いない。

 この国を、貴族を見返してやるのだ。


「あなたに本当に呪いがかけられているのかどうか。それをわたしが解く事が出来るか確かめてみます。もし解けなかった場合は、何の対価もいりません。その代わり、呪いが解けた時にはわたしの頼みを受け入れてください。どんなものでもです」


 これはひっかけのつもりだった。公爵家といっても国ひとつを動かす権限だってない。どんな願いを、などと軽々しく受ける訳がない。もしもこの水晶玉がカレルなら否と答える筈だ。  

 しかし水晶玉の返答はルドヴィカの予想をあっさりと覆した。

『わかった。誰を殺せば良い』

「はあっ……!?」

 思わず馬鹿でかい声が漏れた。この水晶玉、何を言っているのだ。

 こちらの要求を受け入れられるとは露程も思っていなかった為に、水晶玉がルドヴィカの提案を否定しなかったのも驚いたが、それより続けた言葉が問題だ。殺す?

「わたし誰かを殺して欲しいなんて一言も言ってませんけど!!」

 水晶玉に力をこめて握り締めつつ、訴える。喋っている人物の性格が全くわからない。


 実のところルドヴィカは殆ど水晶玉の正体がカレルだと信じかけている。

 その理由とは、ガートルードの話すカレルの原状と、水晶玉の話す内容が合致している部分が多いからだ。

 他者と話を出来ない状態というのも、触れていないと会話が成立しないという事情もあるだろうが、そもそも水晶玉になった公爵家の子息を他者の前に放り出せる訳もない。呪いをかける事が出来ないというのも、ガートルードの証言と一致する。


 それなのに今の一言で自分の推測への信頼がぐらっと大きく揺れて、傾いた。この水晶玉、本当にカレルなのだろうか。公爵家の方々は、そんな軽く人の命を抹消しているのか。

「何でいきなり殺すとか殺さないとかいう話になるんですか? わたし、誰かが憎いとか邪魔だとか、そんな事を言いました?」

『何だ、違うのか』

 水晶玉はルドヴィカの手の中でもぞもぞしている。動きたいらしいが、手の力は緩めない。一気にこいつへの警戒心が傾いた。逃げられてはかなわない。

 その癖水晶玉本人はやはり、のほほんとしている。

『自分ではルーフスの歴史においても呪法の能力は誰にも劣らないと自負している。そして歴史的に見ても呪法が最も重用される事件は、呪殺だ』

「……」

『僕が出来る最上の返礼が、呪殺だと思った』


 直感だがこの水晶玉には悪気など、一切ないのではないだろうか。大真面目に自分に出来る恩返しが殺害という、恐ろしい行為であると認識している。そんな気がする。

「あなたは人を殺す事に抵抗はないのですか」

 恐る恐る質問するルドヴィカに、水晶玉は答えた。迷いのない速さだった。


『きみが僕の為に解呪の能力を使ってくれる。それは、こんな姿の僕からしたら命の恩人に等しい。そのような大恩ある相手の為なら、どんな事でもしよう』

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