第18話
ステラさんとクレアさんの二人と共に神崎灯さんとバエル様とやらが教会に戻ってくると、その場にいるべきではないと判断したのか、そばかすちゃんが「私はこれにて」と退席した。
そばかすちゃんからは、城に勤務しているパイモンさんでは知り得ないような最近のクライデ大陸事情を聞けたし、もっと聞きたい話はあったけど、それよりじいちゃんとじいちゃんの姉ちゃんたちとの再会のほうが大事だよな。
一番興味深かったのは「ネルザからの引越し希望が絶えない」って話だ。移住民の受け入れ先を教会が斡旋することもあるので、現地に行かずともネルザの現況が伝わってくるのだとか。
ネルザっていうとミライの追放先なわけじゃんか。おれとじいちゃんがそのうち行きたいところでもあるじゃんか。目的地の話は、そりゃあ気になるよね。
ミライが追放された直後から『急に思い立ったように外に出て、追いかけていくとネルザの城に入っていく。その後、二度と帰ってこない』という謎の現象が発生している。領主たるミライは、この件に対応してくれない。失踪しているのにだ。素知らぬ顔をしている。ミライの側近たる大魔法使いのメーデイアはもっとひどくて「記憶を消してあげましょうか。元来いなかったものとすれば、悲しみも御座いません」などとのたまうのだ。
そして半年前に、キサキが現れた。キサキは、ミライが蘇生魔法で蘇生した人間だという。ミライは『次代のミカド』ともくされているものの、この蘇生したキサキを第一夫人とした。
これに対する反発で、古くからネルザに根ざしていた貴族がその拠点を移す。どんどん地力が落ちていくネルザ。
クライデ大陸の王者『ミカドの王妃たる者はクライデ大陸の生まれであるべき』とする、親ミカド派は多いのだとか。――ちょっと待って。あれ? 現ミカドの第一夫人の灯様も現代日本のお生まれではなかったでしたっけ?
「そうよ。わたくし、タローくんに連れてこられたの。……あなたたちは、違うのね」
現ミカドの第一夫人というわりにはすんごい質素なワンピース姿の女性が、神崎灯様ご本人。タローくん……って誰だろう。現ミカドの名前がアスタロトだから?
その横に立っている蝶ネクタイの少年は、おそらくバエル様。なんだか怯えた表情を浮かべている。今すぐにでも逃げ出したそうな。
「アザゼル。大きくなったわね」
「私たち、片時もあなたを忘れたことはないわ」
じいちゃんはというと、顔も体型もそっくりなおねえさん二人に両サイドを挟まれて頭をなでられている。二人とも揃って深緑色の修道服で、じいちゃんと同じく銀色の髪と赤っぽい目。泣くなよじいちゃん!
「あ、ああ、ボクもだよ、お姉様」
じいちゃんが『ボク』って言ってる! ワシじゃないんだ! ……まあ、そっか!
「ぼくは、クライデ大陸に帰りたくて『異世界転移装置』を作った……お姉様、今から二年前に早苗と名乗る人がこちらに来なかったか?」
お! じいちゃん! いいぞいいぞ!
「サナエ?」
「サナエなら、ここにいるわ」
ここ?
ここってHere?
ここは、教会なわけですが……?
「わたくしとバエルは、サナエの作る手料理が大好きで! こうやって、お忍びで食べにきているのよ」
ああ、なるほどね。お忍びなら、派手な格好するわけにもいかないよね。バエル様もこくこくと高速でうなずいている。ばあちゃんの料理、うめーもんな。わかる。
「今から二年前、サナエは中庭に落ちてきたの」
「だから私たちで保護したわ」
「そして一年前、お父様が亡くなったの」
「私たちとサナエはテレスの教会の門を叩いたわ」
――全部つながった。じいちゃんの『異世界転移装置』は二年前も正しく作動していたんだ。
じいちゃんは自分の生家を目的地として設定していたから、ばあちゃんは屋敷に拾ってもらえて!
「……それで、早苗はどこに?」
そうだよなじいちゃん。ばあちゃんにも会いたいよな。手料理がどうのって言ってたし、厨房にでもいるのかも。
というか、旅の目的が達成されちゃいそうじゃん! いいのかこれで!? まあいいか!
「食堂に来るといいわ」
「皆さんで食事をしましょう」
やったー!
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