第16話
パイモンさんに案内されるがままに、おれたちがたどり着いたのは教会だった。クライデ大陸にも現代と同じようにキリスト教があるのかーと思いきや、上を見上げると本来は十字架がありそうな位置に金のシャチホコならぬ金のドラゴンの像がある。
「あれってじいちゃんがモデル?」
姿が似ているのでとぼけて言ってみたけど、パイモンさんから「違う。あれは初代のミカド、クシャスラ様だ」とガチめのトーンで怒られちゃった。
おれがバズったドラゴンの動画のドラゴンにも似てる気がするなあ。
「え、でも、初代のミカドって、ああいうの作ったらキレて処刑したんでしょ?」
習ったばかりの知識を披露する。衝撃的だったから、すっと出てきた。だって、明らかに矛盾してるじゃんよ。
「よく知っておるなキー坊」
「へへへ」
じいちゃんのすごさはおれがいちばん知っているから、そんなじいちゃんから褒められたら照れちゃうぜ。
「初代が亡くなると、クライデ大陸に再びの混乱の時代が訪れた。統治者がおらんようになって、あちこちで諍いが発生していたらしい。そこで、その男の長男が二代目のミカドとして即位した」
世襲制なんだ。
現ミカドのアスタロトの長男なミライが〝修練の繭〟を破壊してじいちゃんを死なせたくせにネルザっていう地方に飛ばされるだけで済んでるあたりから察するに、クライデ大陸における最高権力者のミカドの力っておれの考えている以上に強いのかも。
となると、やっぱりじいちゃんも、なりたいのかな。ミカド。
「城での暮らしを嫌って大陸を歩き回る、吟遊詩人のような男だったと聞く。その二代目が、自らの父親である初代のミカドを神格化して崇めるようになったんじゃよ」
「本人は自分の姿を残すのを嫌がったってのに、息子は勝手なことするなあ」
思ったままの感想をつぶやいたら、じいちゃんは「そうじゃのう」と笑ってくれた。パイモンさんは眉間に皺を寄せている。
「クライデ大陸の各都市に教会が置かれて、一週間に一度の礼拝が義務付けられた。テレスの教会は、ミカドの住まいの近くじゃからな。……ワシがいない間に、建て替えでもしたか?」
「うむ。現ミカドが即位なさった時に、盛大に公費を費やしてな」
「あやつらしいのう」
おれは敬虔なキリスト教徒じゃないし、近所に教会があったわけでもないからあくまでイメージだけど、教会っていうとなんだか、清貧っていうの? みすぼらしくても、心が豊かならいいじゃんみたいな、そういう価値観で運営しているような。あくまでイメージだけど。
目の前のテレス教会は豪華絢爛って感じだ。なんかまぶしいしさ。ギンギラギンってほどじゃないが、壁の塗料から屋根の素材から、手間暇と工賃がかかってそうな匂いがする。
「ここに、じいちゃんのお姉さんたちがいらっしゃるんですよね?」
一族でテレスのギルドを運営していたじいちゃんの本当の生家。じいちゃんが十二歳の春に〝修練の繭〟に入ってから、じいちゃんのお父さんが呪いで亡くなって、ギルドの運営は他の奴らに奪われて、じいちゃんの実家は売り払われた。生き残っているじいちゃんの二人のお姉さんがここにいる。どんな人たちだろう。
「姉様たち、ワシを覚えておるじゃろうか」
じいちゃんがいちばん会いたいだろうに、じいちゃんがこの三人でいちばん二の足を踏んでいる。十二歳のじいちゃんとは、ぜんっぜん見た目は違うと思う。
だって、じいちゃんの友だちだったっていうパイモンさんですら『死人を騙る痴れ者』って言ってたもんな。
とはいえ家族だぜ。家族なら、見た目が歳食ってても気付くに違いない。おれはそう思う。
「行こうぜじいちゃん! ここでうだうだしてても何も変わんないぜ。おれもじいちゃんの姉ちゃんに挨拶しないといけねえしさ!」
こういう時にじいちゃんの背中を押すのが孫の役目ってもんだぜ。