第15話
「おーおー、使いこなしておるな」
バッチリだぜ。ファイアボールだって雪玉だって、サンダーボールだってかっ飛ばせる。今のおれなら最多本塁打、ホームラン王間違いなし。オータニさんだってびっくりだぜ。
と、その声は。
「じいちゃん!」
五億年ぶりぐらいにじいちゃんがまっすぐ歩いている姿を見た。五億年は盛ったけど、そんぐらいの感覚なんだよ。
「すっかりよくなったぞい」
ぴょんぴょんとジャンプして見せるじいちゃん。治癒魔法ってすげーんだな。現代医学よりぱないじゃん。だって、じいちゃんの腰は「絶望的」って言われてたんだぜ? 痛みを抑える薬を飲んで、湿布を貼ってなんとかするしかないって、あっちの医者は言ってたってのに。
おれが魔法を習っている間に完治しちゃうのかよ。
「魔法ってすげーな……」
感心していたら、パイモンさんが「アザゼルほどではないが、キトラにはセンスがある」と急に褒めてくれた。じいちゃんには負けるに決まってんだろ。
「どうだ、うちで鍛えないか?」
「うちでって、騎士団に、ですか?」
「そうだ。……アザゼルもどうだろう? 預からせてもらえないだろうか?」
おれがポカーンとした顔をしていたら、じいちゃんにも聞いている。騎士団かあ……ミカド直属の、ってなると、終身雇用っぽいよな。パイモンさんのツヤツヤっぷりを見てると、それなりに給料もよさそうだし。直属だから、もし戦争があっても前線には駆り出されないよね? ミカドを守るのが最優先だしさ。やだなあ。
いや、そもそもに戦争ってあるのかな。クライデ大陸の年表を見た感じだと、たまにどっかの都市のリーダーが市民に刺されたり、都市間の物流トラブルで戦闘になったり、そういった小規模な戦いはあったみたいだけど、たとえば国と国とで争うようなシーンはなさそうだった。
でも、現在のミカドに何かあったら、ミライが次のミカドになるのかな。だとすると、ミライの下につくのはいやだしな。困った。
ちょっと待てよ。
なんでおれ、クライデ大陸に一生住み続ける想定で考えてんだ?
じいちゃんの本当の出自もわかったし、確かに魔法はすげーけどさ、おれにはおれを待っているリスナーのみんながいる。みんなも、心配してるよな。
こっちに永住するってのは、考えられないぜ。日本語は通じるし、パイモンさんの指導のおかげで義務教育で習うレベルの魔法も使えるようになったけども、おれはじいちゃんとばあちゃんと三人で現代日本のあの家に帰りたい。
じいちゃんは、どう?
「キー坊が決めることじゃ」
「ふむ。キトラはどうだ?」
「おれは、ばあちゃん見つけて、じいちゃんの仇なミライをぶっ飛ばして、元の世界に帰りたいぜ」
じいちゃんはさ、本来はミカドになりたかったわけじゃん。こうやってクライデ大陸に戻ってきたのも、ミカドになるためってのもあるんでしょ。もちろん、ばあちゃんを探さないといけないってのもあるけども、そっちはあとから発生してしまった理由なわけだからさ。
「キー坊は、帰りたいんじゃな」
「そうだよ! だって、リスナーのみんなとオフ会するって約束を果たせねえじゃん!」
「クライデ大陸と現代日本とを行き来できるようにすればいいんじゃな?」
「できんの!?」
じいちゃんは不敵な笑みを浮かべて「今回の異世界転移が成功したおかげで、ワシの説が立証されたぞい」と言ってくれた。
「次に試せるのは、一ヶ月ほど後になってしまうがのう」
「で、でも、できるんなら、異世界と現代日本とでモノのやり取りもできるし、他にも色々」
真っ先に思いついたのは『若返りの薬』の販売だよな。じいちゃんとパイモンさんを見比べて、効果があるのは間違いなし。同い年の二人なのに、親子ぐらいに見えちゃうもん。いくらで売れるのかな。美容系の動画クリエイターに頼んで宣伝してもらいたいぜ。
「まあまあキー坊。早まるな。まずは、ばあちゃんを探すことから始めるぞい」
「お、おう。そうだよなじいちゃん」
「して、パイモンや。ワシの姉さんたちの場所を案内してくれるという話はどうなったんじゃ?」
そうだよじいちゃん。じいちゃんの姉さんに会いにいくんだったぜ。金になりそうな話だったからつい興奮しちまったけど、話を元に戻さないとな。