第12話
そのファンキーな初代のミカドによって始まったクライデ大陸の歴史に、切っても切れないものとして魔法がある。おれが現代日本でスマホを使ったり、配信機材を揃えて配信活動したりしているのと同じ――とたとえるよりも、もっと根本的な部分から魔法がこの異世界を支配しているっぽい。
「まずはキトラに合う装備を手に入れなければならぬ。テキストの最初の項目を開いてくれ」
「ふむふむ……」
装備とはなんぞやとテキストの文字を目で追う。ふむふむなるほど。俗に言う『魔法の杖』ってやつか。超有名な魔法学校の物語でも、主人公にピッタリフィットな杖を探すシーンがあったよな。おれもあれやりたい。
じいちゃんとパイモンさんも所属するクラスを決めてくれる帽子を被ったのかな。
「ではさっそく杖を売っているお店にゴー?」
おれが立ち上がり、教室代わりとなっているギルドの一室から出ようとする。が、パイモンさんってば「いいや。アザゼルから預かっているものがある」の一言と共におれの身体をふわっと浮かばせた。元の席に戻される。
じいちゃんから、おれに?
「いつの間に……」
喜びより先に疑問がひょっこりと顔を出す。じいちゃんとパイモンさんがおれと別行動していたとき、パイモンさんはまだじいちゃんをノットアザゼルと警戒していたはず。その自分を警戒する男に、贈り物を預けておくか? 他に預けておけるタイミング、なさそうだよな。
「伝達魔法だ」
パイモンさんはブロンドの髪をかきあげて、左耳の耳たぶに触れた。緑色の小さなピアスがついている。
「近衛兵の騎士団長ともなると、王あるいは王に相応しい者の声をいつ何時であろうと聞こえるようにしておかねばなるまい。ゆえに、アザゼルの声は届いた」
「今絶賛腰治療中の?」
「ああ。器用な奴だよ」
おれにも言ってくれよじいちゃん!
いや、そうか。おれがまだ魔法を教わってないから、――スマホでたとえるんなら、スマホを持ってないような状態だからか。いくら電話かけようったって、相手が電話機を持ってなきゃつながらない。
「話は逸れますが、パイモンさんはその、治癒魔法は使えないわけ?」
城に入る前、街を歩いていた時のじいちゃんとの会話を思い出した。治癒魔法の専門家がいるんだっけか。パイモンさんは近衛兵の人だから、ケガはしょっちゅうしてそう。
「治癒魔法というのは、専門の知識が必要でな。ろくに学んでいない者が、他人のケガを治そうとするのは、……そうだな……部品と工具と空いた土地を用意された状態で、家を建てるようなものだ」
回復職は貴重、と。現代日本での回復職って、医者が該当するのかな。医者に置き換えて考えると、確かに……。
「アザゼルも一時は『人々のために治癒魔法を学ぶ』と話していたな。私は彼が〝修練の繭〟から戻り、皆から慕われる名君になると信じて『いいや、お前は帝王学を』と諭したものだ」
「じいちゃんは村のみんなのためにいろんな発明品を作っていたから、その『治癒魔法を学ぶ』っていうの、すげーじいちゃんらしいぜ」
「ふむ」
ミカドとしては違うのかもしれないけども、じいちゃんは世のため人のためになんでもできちゃうんだぜ。パイモンさんに、じいちゃんの発明品の紹介動画やじいちゃんがゲスト出演した回のアーカイブを見せてやりたい。なんで電波がないんだよお。こっちもオフラインで保存しときゃよかったぜ。元の世界に戻れたら、ダウンロードしとこう。
「そんなアザゼル曰く『キー坊にぴったりの装備じゃ』とのことだ」
パイモンさんはレイピアを引き抜いて、空間に丸を描く。するとその丸の中心部から、金属バットがにょきにょきと生えてきた。
「私には何に使う道具なのかてんでわからぬ」
レイピアを鞘に収めて、えいやっと金属バットを引き抜いたパイモンさんの第一声がこちら。そっかー、この世界に野球はないのかー。
「これがおれの『魔法の杖』ってこと!?」
バットじゃんか。野球の道具じゃんか。想像してたのと全然違うじゃんか。もっとこう、指揮者の使うタクトみたいなのとか、魔法少女が持っているステッキのようなものとか、杖じゃないならそっち方面を考えていた。
「装備は人それぞれだ。私がレイピアであるように、キトラはその棒なのだろう」
「そんなことあるんだ……」
「魔法とは『気』だ。自らの『気』を一点に集中させることを考えなくてはならない」
バットで……?
……そうか!
ジャストミートでかっ飛ばせ、って話か! わかったぜじいちゃん! バットだってどこに当てても飛ぶわけじゃない。バットの芯に当てなきゃホームランにはならないんだぜ。
「でもじいちゃん、おれ、バケモンハンターの大剣みたいな剣を振り回してみたかったぜ」