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ドラゴンのいる異世界を、じいちゃんと  作者: 秋乃晃
サザンクロスの導き
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第1話

 今夜、おれとじいちゃんは異世界へ飛ぶ。

 じいちゃんの作った『時空転移装置(改)』で。


 じいちゃんは「サザンクロスが導いてくれる」って、スッゲーロマンチストみたいなことを言っていた。そういうもんなんだってさ。知らんけど。


 枠は立ててある。SNSでも抜かりなく告知した。ブイログカメラも準備万端。心配なのは配信を始めてからの回線状況だけども、時間帯的にも曜日的にも、突然嵐が巻き起こったり雷が落ちたりでもしないかぎりは大丈夫。バッチリだぜ。


 今は、おれとじいちゃんとでこの世界最後の食事を、ってなわけで、相棒のミニバンを転がして村から街に出て、寿司屋で刺身とか鍋とか、食べたいもんをたらふく食べて帰るところ。


 異世界転移にかかるGを鑑みると、どうも酒を飲む気にはなれなかった。試運転した時でやばかったもんな。じいちゃんも飲んでいない。大将は「いい日本酒が入ってるんだよ」と勧めてくれたんだけど、申し訳ない。それ以前の問題としておれは車運転しなきゃなんないからどっちみち飲めないか。もうこの世界から離れるってのに法律を気にしちゃう辺りにおれの善良さが滲み出ちゃうな。


 無事にこちら側に帰って来られたら、そん時は祝杯をあげに行こう。……帰って来れんのかわかんねぇから好き勝手注文してんのに、帰って来てからのことを考えてんの、ちょっとウケる。


「後悔はないんじゃな?」


 助手席に座るじいちゃんは、何度目かの確認をしてきた。自分の嫁であり、おれから見たらばあちゃんにあたる人を捜す旅に、おれを『巻き込んじゃう』って、ずっと気にしている。何度聞かれてもおれの答えはこうだ。


「ない!」


 おれは、村でじいちゃんと暮らすようになってから、ワクワクしっぱなしの毎日を過ごしている。だから、じいちゃんと二人でここではない違う世界に行くことを躊躇いはしない。じいちゃんについていけば、どこでだって楽しい。そう確信している。それに、ばあちゃんだっておれの大事な人なんだぜ。


 じいちゃんはいつだって、何があったって、雨が降ろうと槍が降ろうとも、おれの自慢のじいちゃんだ。異世界転移も、必ず成功させるに違いない。大天才のじいちゃんが、一回失敗したからこそ、次は大成功させるって意気込んでいるんだ。すなわち、絶対に、ばあちゃんのいる世界に辿り着くってワケ。


「……そうか」


 ミラーに映り込むじいちゃんの口角が上がっていた。この村いちばんの『変わり者』は、笑うと目が細くなる。顔も手もしわだらけだけど、脳だってしわだらけだ。


 男ばかりの五人兄弟の末っ子として育てられたじいちゃん。上はみんな都会に出てしまったから、現在おれも住んでいるじいちゃん家はじいちゃんの父ちゃん(おれから見た曽祖父)から相続したものになる。進学やら就職やらで出て行かなかったからな。結構な田舎だから別の兄弟が欲しがるわけでもなかったのだとか。


 昔から工作が大得意で、農具や電化製品が壊れると持ち込まれるほどには頼られていたらしい。じいちゃんの部屋のタンスには着替えじゃなくて、当時から作っていた発明品が詰まっている。じいちゃんはかっこいいんだから、三着ぐらいを着回すんじゃなくて、もっとおしゃれしてほしいぜ。


 ヘルパーさんから相談されたので、じいちゃんに「これは残す」「これは動かす」と聞きながら取捨選択して、一部は蔵に移動させたけどそれでもまだすんごい数の発明品があった。兄たちや同級生が野山を駆け回ったり川で遊んだりしている間、家にこもっていたもんだから……そりゃあ「変なヤツ」扱いされちゃうよ。


 ただ、避けられてたってワケじゃあないんだぜ。じいちゃんの発明品が、村を危機から救ったことが二度ある。一度目はその、子どもが遊ぶような、せせらいでるタイプの近所の川が豪雨で増水して氾濫待ったなしの時に、その川の水を逃がすための窪地(くぼち)をダウジングして、水路を構築した。二度目は逆にカンカン照りの日が続いちゃって、田畑が干ばつ大ピンチな時に、雨雲を呼び寄せる装置を起動していい感じに雨を降らせた。


 このふたつの逸話、幾度となく聞かされているから、比喩じゃあなくてマジで耳にタコができそうなんよ。老人、同じ話を繰り返しがち。


 まあ、そんな人だったから向こうが惹かれたのか、じいちゃんは『村一番の美女』ともっぱらの噂だった村長の姪っ子と結婚した。のちのおれのばあちゃんである。


 じいちゃんがいつものように機械いじりをしていたら、浴衣姿のどえらい別嬪(べっぴん)さんが家に上がり込んできて「夏祭りに、行きませんか?」と誘われたのが始まりだったと。そら行くよね。おれにもこの手のイベント起こってほしかったなぁ!


 ――とまあ、枚挙にいとまがないリア充爆発しろエピソードは割愛して。


 じいちゃんとばあちゃんの間には三人、男二人と女一人が産まれる。おれは長男の息子で、初孫。他にも孫が、おれから見たら従兄弟が五人いるけど、おれがいちばんじいちゃんと仲良しだよ。これはガチ。お年玉もいちばん金額多かったもん。……いやまあこれはおれがいちばん年上だったからか。


 大学進学で村を出て行ったおれのオヤジは、東京の大学に在学中、おれのおふくろと知り合って、就職してから籍を入れた。はっきりとした理由は知らんけど、オヤジとおふくろはちょいちょいおれをじいちゃんとばあちゃんに預けて旅行に出かけていた。たまに「おれも旅行に連れてけよ」とは思ったが、おれはじいちゃん家に泊まるの好きだったし、むしろ実家より実家のような安心感がある。あの頃から、泊まるんじゃあなくてこっちに住んじゃえばよかったかもしれない、とさえ思う。


 いやまあ、中一でクラスメイトから誘われて野球部入って、三年に上がった直後にひざを痛めるまでは野球一筋だったし、その頃はそんなにこっち来られなかったか。痛めなければ高校でもやりたかったな、野球。


 来たら来たでじいちゃんとキャッチボールできて楽しかったな。じいちゃんに「ヘッタクソ」って言ったら、次来た時にピッチングマシンを作っていたのにはビビった。さすがすぎる。今でもここの庭に飾ってあるよ。動くんじゃないかな。




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