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021. 何度倒れようとも

最強夫妻の戦いは決着したが、ヒースVSヤンキーの戦いはまだ終わっていない。


ヒースとヤンキーの戦いは肉弾戦となった。ヤンキーは本気でヒースに殴りかかる。


「「うおー!!」」


ヒースとヤンキーの雄叫びが部屋の中で響き渡る。お互いが拳を振り上げ、殴っている。


しかし、ヤンキーの方が腕や脚のアーチが長い。よってヤンキーの拳はヒースに届くが、ヒースの拳はヤンキーに届かない。


ヒースはまた一発、また一発と次々に攻撃を受けていた。反撃はしているが、それが全く当たらない。ヒースだけがやられていく。


「「「瞬発拳(シャインファイト)」」」


ヤンキーからは光灰と湯気が上がっていた。もちろん、少年兵団支部幹部であるヤンキーは、祝福者である。


さっきの技。ヒースには早すぎて見えなかった。おそらく、一瞬の間に四発ほど受けている。ヒースは口から血を吐いて、うずくまった。


「……見えないだろ?ボクの祝福の力だ。時間とは、人間が作り出した概念だ。時間は創造の部類に入る。よって、創造神は時間を司る。ボクは創造神から早送りの祝福を受けた。ボクはボク自身の行動を三秒ほど早送りできる。だから、ボクは普通に本気のパンチをした。その攻撃を早送りすると見えなくなり、強い打撃になる。ボクはこの祝福を利用して、ナイフも使う。俺のナイフ捌きを見破れる者はいない」


ヒースは拳を受けた腹を押さえ続けた。正直言って痛すぎる。


説明を聞いてヒースは納得した。なるほど、だから攻撃の波が全く見えなかったわけだ。


ふと、ヤンキーは何かに気づいたようだ。そして、ヒースの様子をじっくりと見る。


「……そういえば、君。一撃目の切り傷がほぼ完治しているな。なるほど……君、超回復を持っているのか。……やはり、君には打撃の方が効果的なようだ。殺傷能力は低いが、確実に痛みを与えられる」


ヤンキーはヒースの血で真っ赤に染まった拳をまた振り上げる。ヒースは反撃しようとしているから受け身を取っていない。ヤンキーの攻撃をモロに受けている。


ヒースはそのまま倒れ込んだ。勢いよく吐血する。意識が朦朧としている。出血量が多いのだ。


やばい。このままだと、本当に死んでしまう。


しかし、ヒースは諦めない。もう一度、腕に力を込めて立ち上がる。フラフラして、腕の筋肉は震えている。疲労が溜まっているのだ。全身の限界はもうとっくに超えていた。それでも立ち上がる。


「はぁ……はぁ……」


ゆっくり息をするヒース。もう息をするのもはっきり言ってしんどい。しかし、まだ何一つ成し遂げていない。ティーシャを救うどころか、まだヤンキーに一撃も与えられていない。


ヤンキーはその様子を見てヒースを睨みつけた。そして、無言で迫ってきてまた殴る。


何度も何度も殴る。鈍い音が響く。血の飛び散る音が鳴っている。壁には赤い血が跳ね返ってたくさんついている。


ヒースはまたバタリと倒れる。それを見下すヤンキー。ヤンキーも息が上がっている。もう疲れたのだ。


それでも、ヒースはまだ立ち上がる。黙って歯を食いしばり、全身に力を入れてヤンキーを睨む。


そしてまたヤンキーは攻撃する。ヒースはもう反撃もできなくなっていた。何発か受けるとまた倒れ込んだ。


……それでも立ち上がる。何度も倒れて、何度も立ち上がる。ひたすら、これをずっと繰り返していた。


ヒースは段々と見るに堪えない姿になっていく。それでも、絶対にヒースは諦めない。




──「はぁ……はぁ」


何回繰り返しただろうか、もう分からない。ヤンキーも流石に疲労が溜まって息をあげていた。


ヒースは地面に倒れているが、まだ少し動いている。だが、もう限界だ。立ち上がれない。




ヤンキーは部屋を出て行こうとする。もうヒースは立ち上がらないだろうと考えたからだ。


「……ま、……待って」


ヒースは倒れていても、ヤンキーに向かって手を伸ばしていた。その手と声は震えていた。


しかしながら、ヤンキーはヒースの言葉を無視した。もう時期死ぬ。これ以上ヒースのために時間を割くのは愚策だと考えた。






「……──待てよ……!!」




はっきりと声が聞こえた。


声の主はヒースだ。ヤンキーは驚いた。ゆっくりと振り返る。


すると、ヒースは立ち上がっていた。ヤンキーはその姿を見て驚いた。全身ボロボロ。出血は多分もう致死量。全身痛いはずなのに、まず立っていることがおかしい。


「……まだ、諦めないか?」


ヒースはニヤリと笑った。


「当たり前だ。俺は……待てって言ったんだよ。それに、俺は最初から諦める気も、負ける気もさらさらない」


ヒースの瞳だけはまだギラギラと光って活力が漲っている。


「何度倒れようとも、俺は立ち上がるぜ。……お前に勝つまで、必ず」


ヤンキーは息をあげながらヒースの姿を黙って見ていた。ただただ目を見開いてヒースの姿を見て驚くことしか出来なかった。



「くそ!ヒースのやつ、まだか!!」


「うーん!!キリがない!」


牢屋につながる廊下を塞ぐロバートとピトはヒースの帰りが遅いのを心配していた。さらに、三人で相手していた敵が二人で相手をしなくてはならず、こちらも、もう限界を迎えそうだった。


一瞬でも気を抜けば殺され、団員がこの先へと行ってしまう。何としても、ティーシャを奪還してもらうまで耐えなければならない。


「ロバート!や、やっぱりおかしい!ヒースが行ってから十分は経過してる!何かあったのかも!」


ピトはフライパンを振り回しすぎて目が回りながらもロバートに言い放つ。


「……やっぱり、おかしいよな!中で何かあったのか……?だったら、俺たちは尚更ここを守らないといけない!これ以上、戦況を悪くしてはいけない。この場所も、ヒースがいる場所も!

信じて耐えるぞ!ピト!ヒースがティーシャを奪還するまで。レナーやライアンがこっちに向かって来るまで!」


「うん!」


二人はまた攻撃を続けた。ヒースが幹部と戦っているとは知らないので、応援は来ない。



「くそ!上にいる奴ら、俺らを狙うんじゃなくて、あっちへ移動してる!」


ライアンとレナーは合流して二人で走っていた。二人はロバートたちのいるところへ向かっていた。


幹部に完全勝利した二人に立ち向かうのは無理だと判断した団員たちはロバートたちを倒すための応援に行っているようだ。


「まぁ〜、これは早く行って助けたほうがいいわね〜」


レナーはそう言って矢を放った。ライアンも負けじと、炎の塊を放って団員たちを下から狙って倒していく。


「さぁ〜、倒しながら向かいましょ〜」


レナーとライアンも、ロバートたちの元へと急行する。



ヒースは立ち上がった。その事実にヤンキーは困惑していた。


……おかしい。出血、打撲、骨折。多分奴は大怪我、いや致命傷を負っているはず。まずどうして立っている?立っていることがおかしい。


何が起こっている。いくら超回復とはいえ、傷は癒えていない。治癒が追いついていないんだ。


どうして立ち上がることができる?


思考していると、ヒースはそのまま走ってきた。そして、拳を振り上げている。ヤンキーはまたも驚いた。走って向かってきた。一瞬も恐れることなく立ち向かってきた。


ヤンキーは避ける。すると、またヒースは拳を振ってきた。


ヤンキーはそれを避ける。すると、ヒースは二連続で拳を放ってきた。


それをヤンキーは手で受け止めた。


……そう、避けられなかったのである。だから、手で止めるしかなかった。反射的に手で止めてしまった。


ヤンキーは今の現状を分析し始めた。


……ボクがこんなガキの攻撃を手で止めるしかなかった?あり得ない。死にかけのガキだよ?

……あと、気づいたことがある。確実に動きが速くなっている。そして、拳の威力も上がっている。実際、受け止めた手の平は痛かった。死に際の生存本能で能力が上がってるのか?いや、それはない。瞳を見れば分かる。奴は正気だ。自我を、保っている。


ヒースはニヤリとした。何度も何度も拳を振るっている。ヤンキーはそれを手で受け止めることしか出来ない。


「どうした??来ないのか?さっきみたいに俺をボコってみろよ!!」


「調子に乗るなよ!ガキが!!」


いつも冷静沈着なヤンキーが歯を剥き出しにして怒鳴った。ヤンキーは受け身になっていたが、攻撃に転じた。ヤンキーは拳を振り上げて、ヒースに向かって一発放った。


……と思ったら先に拳が届いたのは何とヒースの方だった。ヒースの一撃が、ついにヤンキーの顔に当たった。


ヤンキーは驚いた。しかし、驚いている暇などない。


ヤンキーはすかさず反撃しようとする。その時、姿勢が傾いた。


地面に膝をつく。


「……っく!」


ヤンキーは歯を食いしばった。


くそ!何が起こってる?……視界が歪んだ。立てない??


……おそらく、さっきの一発が顎に入ったな。良いところ狙いやがる。


戦況が転じた。ヒースが立っていて、ヤンキーが膝をついている。依然、ヒースはボロボロなのだが、しっかりと立っていた。


「どうした?さっさとかかってこいよ。澄まし野郎。こんな子供の一発で膝ついてるんじゃねぇよ!」


ヒースはヤンキーを睨みつけた。ヤンキーの背筋が一瞬震えた。


「……どうなってる?重症なのに、速さもパワーも上がってる」


ヒースはニヤリと笑った。


「俺は俺自身の体を掌握している。だから、体の機能の範囲ならば思い通りに操れる。お前に殴られ続けた時、痛みと出血で意識が飛びそうになった。だから、出血を止めること、そして痛覚を完全にシャットアウトすることに意識を集中させた。すると、痛みは消え、血は止まった。そうしたら、ここまで元気になれた。痛覚を消すことと、出血を止めることに意識を集中させたまま、さらに筋肉強化をして攻撃するとようやく攻撃が当たった。俺の攻撃は通用する」


「……そんなことしたら、体がボロボロになるぞ、お前」


ヒースは鼻で笑った。


「人の心配してる場合か?このまま、俺はお前を叩き潰す」


ヤンキーはめまいが消えて立ち上がって構えた。その後、光灰と湯気が出てきた。


「……ここまで古傷が疼くのは、久しぶりだ」


ヤンキーは目の火傷の傷を覆いながら言った。


「さぁ、ケリつけようぜ……」


ニヤリと笑うヒースはヤンキーを睨みつけた。二人は数秒睨み合った後、動き出した。


お互いの拳が初めてぶつかり合う。気迫溢れる死闘。衝撃波が部屋の中を駆け巡った。


戦いの行方はヒースの命賭けの戦法によって分からなくなった。

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