二話
「きりーつ」
クラスメートの声が聞こえる。
「れーい。」
「さようならー。」
やる気のない、クラスメートの声。
今日の授業が終わって、桔梗に声をかける。
ああ、そういえば今日は稽古だっけ。
思い出して、声をかけるのをやめた。というよりも、かけられなかった。そこに桔梗がいなかったから。稽古だから、急いで帰ったんだろう。
そのまま帰ろう。そう思って踵をかえした時、声がかかった。
「藤城さん。」
クラスで一番お洒落な女子だ。
苦手。パッと浮かんだ言葉がそれだった。
「ちょっと、いいかしらぁ」
あからさまに語尾をのばして、いやらしく笑って、キモチワルイ。
「いいよ」
軽く笑って答えた。
悪意丸出しの彼女に、なにされるんだろう。なんて、他人事のように思う。
どうせあれだろうな、めんどくさい。わかってるよ、貴女達の言いたいこと。
バカだなァ。頭の中でつぶやいたそれも、他人事のようだ。
―――――――――・・・・・
彼女たちに連れてこられた場所は、裏庭の大きな木の下。
嗚呼、なんて定番。馬鹿みたい。さっきと同じ考えが、また頭をよぎった。
「あのね、お願いがあるの。」
「なに?」
笑って聞く。私は心を表に出さないようにしている。幼いころからの習慣だ。
普段のワタシは、明るくて人当たりのいいお気楽なオンナノコ。自分でも気持ち悪くなるくらいの嘘の笑顔を作って、ニコニコ笑ってる。それで騙されてくれる。人間って単純。
見破ったのは、桔梗だけだった。
「燐萄さん、いるじゃない?」
「桔梗の事かな?」
いやらしい笑みを浮かべたまま、桔梗の名前を出されたことが、なんとなく許せなかった。そして、この後にくる言葉も、私は許せないだろう。
「そう。燐萄さん、私達に紹介してくれないかなぁ?」
「どうして?」
「だって、友達になれば、色々有利そうじゃない?金持ちの権力って奴ゥー?」
キャハハと笑った彼女たちに、こみあげてきたのは呆れたやっぱりと、怒りだった。
桔梗は金持ちだ。だから、それを利用したくて近付く輩がいる。そういう奴等は、決まって私に頼んでくる。そのたびに、やっぱり浮かんでくるのは、怒りよりも先にバカだなァだった。
「へぇ。」
「だから教えてよぉ」
「やだ。」
即答だった。
友達を貴女達に渡すほど、人を信じていないんだ。それになにより、桔梗の気持ちを知っていて、あいつに人との関わりを簡単に持たせるわけにはいかない。
「はぁ?なんでよ。」
「なんでって、桔梗がそれを望んでないから。ていうか、桔梗の事を紹介したとしても、あいつは相手にしないよ。」
嘘ではない。桔梗はこの人達を相手にしないだろう。
当たり前だ。
「それじゃ、私帰るね」
また笑って、そこを去った。
彼女たちはしかめっ面(というより歪んでる)をしているけど、桔梗のように綺麗ではなかった。
やっぱり苦手。もう一度そんな事を思って、学校を出た。