第7話 西園寺財閥グループ会長襲来、沙苗が家出した理由(2)
メイド長の遥さんに、意識を失って倒れた沙苗さんを客室に寝かせてきてもらった後、僕は沙苗さんの父親と対峙する。
沙苗さんが倒れたというのに、沙苗さんの父親の誠二郎は涼しい顔をしていたので、僕は怒りを抑えながら口を開く。
「……沙苗さんが倒れたというのに、父親として心配はしないのですか? 実の娘なのに」
僕の隣に座っていた詩織も口を開く。
「西園寺財閥会長、父親としての自覚はあるのですか?
その表情を見ると、まるで心配していない感じが見受けられますが?」
僕と詩織の問い掛けに対し、誠二郎は鼻を鳴らしながら答える。
「ふんっ……貴様らは一体、何を言っているのだ?
政略結婚の道具が倒れた所で、別に心配する必要性が感じられないのだが?」
その言葉に対し、僕と詩織は言った。
「……貴方はどこまでも沙苗さんを、最初から道具としか見てないようですね。
本当に沙苗さんの父親かどうか、益々疑わしくなってきましたよ」
「西園寺財閥会長のその言葉……本当に沙苗さんの父親なのか疑ってしまいますが?」
僕らの疑いの眼差しと言葉を向けられた誠二郎が口を開く。
「沙苗は正真正銘、血を分けた儂の娘だ。
なのに何故、貴様らは疑っておるのだ?」
それに対し、僕が答える。
「疑われても仕方がないのでは無いのではないですか?
貴方の発言は、そう捉えてしまっても無理は無いのですから。
貴方のその発言を踏まえ、僕は貴方の元に沙苗さんを引き渡すつもりはない……ということをお伝えしておきます。
血も涙もない貴方の元に沙苗さんを引き渡したとしても、沙苗さんに明るい未来が訪れることはなさそうなので」
僕の言葉を聞いた誠二郎は、少々言葉を荒らげながら言う。
「引き渡すつもりがないだと!? 貴様になんの権限があるというのだ!
これは西園寺家内での問題であって、他人の貴様が口出しすることではない!!」
そう誠二郎に言われた僕は、確かに他人が口を挟むべきことでは無いのではないか……と思いつつも誠二郎に言った。
「……確かに、僕と沙苗さんは他人です。
それは変えようもない事実です。
ですが、沙苗さんの現状を知った今……僕は口を挟ませてもらいますよ」
「何処までも己の立場を弁えないガキだな、貴様は」
こんなことを言ってきたので、僕はハッキリと告げる。静かなる怒りを露わにしながら。
「己の立場を弁えていらっしゃらないのは───貴方の方ですよ、西園寺財閥会長。
では、現時点を持って、西園寺財閥との取り引きを全て停止させていただきます!
相良!瀬戸崎財閥グループ全体に周知徹底させておいて!」
「承知致しました、瀬戸崎会長(愚かな男ですね。 西園寺財閥グループにとって、瀬戸崎財閥グループは最大の取り引き相手だというのに……。
俊吾様は温厚なお方ですが、先代と同じく一度怒らせてしまうと徹底的に攻撃しますからね)」
「ふんっ、瀬戸崎財閥グループとの取り引きなど、こっちから願い下げじゃわい!!取り引きを停止したこと、精々後悔するがいい!(直ぐに泣きついてくるじゃろうな。その時を楽しみにしておるぞ、若き会長よ。)」
(取り引きを停止すると宣言しても、表情一つ変えないとはね。さて、この父親にはお帰りいただかないとね。沙苗の今後の為にも)
「さて、そろそろ貴方にはお帰りいただきたいのですが?」
「は?何を言っておる?沙苗を引き渡してもらうまで、儂は帰らんぞ!」
「………は?何時まで人様の家に居座るつもりですか、貴方は?
実の娘を政略結婚の道具としてしか見てない貴方に、沙苗さんは引き渡しませんよ?
それに今の時代、政略結婚なんて古すぎますよ?」
「まだ言うか貴様は! 沙苗を連れ帰らなければ、儂の立場が危うくなってしまうではないか!!
それにのぅ、ふひひっ……先方には既に沙苗との結婚の話しは済ませてしまっておるからのぅ。
だから今更になって沙苗と先方との結婚話を、無かったことになど出来ぬのだよ」
それを聞いた俺は言う。
「娘の気持ちを聞かずにですか?
……そんなに自分の立場が大事ですか?」
「沙苗の気持ちがなんだというのだ?
政略道具に気持ちなど要らぬであろう?
寧ろ、感情など不要の産物だ!!
儂にとって、娘のことなどよりも自分の立場の方が大事に決まってるだろうがっ!!」
それを聞いた僕は、怒りのあまりに声を荒らげてしまう。
「本当に、貴方は何処まで自分本意なんだ!!
沙苗さんは家族なんじゃないのか!?
そんなに自分の立場が大事か!!
お前にとって沙苗さんを、最初から政略道具としてしか見てないってことが良く分かったよ!!
貴方なんて、親失…「俊吾さん、ここからは私に話をさせてもらえませんか?」沙苗さん……分かった」
「沙苗さん……」
いつの間にかいた沙苗さんに止められた僕は、沙苗さんにも話させてあげることにした。
詩織も沙苗さんの表情を、心配そうに見つめていた。
沙苗さんが応接室に戻ってきたことに対して何を勘違いしたのか、誠二郎が沙苗さんに言う。
「戻ってきたか沙苗。 さあ、帰るぞ!!
先方が首を長くしてお前を待ってるんだか「私、かえりませんよ?」……なに?」
「聞こえませんでしたか?
私は帰りませんよって言ったんです」
「巫山戯たことを言うんじゃない!! お前に拒否権などない!!」
「なんで道具としか見てもらえない家に戻らなければならないのでしょうか?
ねぇ、お父様?私の気持ちを考えてくれた事ってありますか?ないですよね?そりゃないですよね……。
……貴方にとって、私は唯の政略の道具としてしか見られてないのですから。
貴方だけでなく、お母様にもね……」
「……何が言いたいんだ?」
その問いを聞いた沙苗さんは、先程までとは比べ物にならない程の言葉遣いで誠二郎に向かって言う。
「何が言いたいんだ?ですって?巫山戯たこと言ってんじゃないわよ!!私の気持ちなんて一切考えずに道具扱いしてさ!!
物心ついてからずっとだったよね!!それでも私は耐え続けてた。いつかお父様とお母様が私のことを娘として扱ってくれる日が来るんだって思って!!
でも、そんな日は訪れなかった!!覚えてるでしょ?今日、私が家出する朝にお父様とお母様が私に言った言葉を!!」
「…………」
「なんで黙りなの?朝に言ったこと、もう忘れたの?そんな訳ないよね?覚えてる筈だよね!!お父様とお母様は私に『お前を先方の嫁に出す。儂や母さんの立場を守る為に、政略の道具として犠牲になれ。そして、先方の性欲の捌け口としての道具として全うしろ!!それが、儂と母さんの間に生まれた娘としてのお前の唯一の価値なのだからな!!』ってね!!」
「そんな事を言った覚えはない!!」
「覚えてるでしょ!!だったら、なんで目を逸らしてるの?それが覚えてるってことの証明よ!!だから私は今日、家出をしたの!!私は──私は貴方とあの人の為の政略道具なんかじゃないっ!!!!」
沙苗の、ありったけの気持ちが応接室内に木霊する。
そして、沙苗さんは誠二郎の目を見ながら告げる。
「私、西園寺 沙苗は───現時点を持って西園寺家とは絶縁し、瀬戸崎家に居候させていただきます!!!」
そう宣言した後の沙苗さんは、堪えていた気持ちが爆発したかのように泣きながら僕の胸に顔を埋めてきた。
そんな沙苗さんを僕は優しく抱きしめ、詩織はそっと沙苗さんの背中を撫でていた。
沙苗さんの背中を撫でながら詩織が誠二郎の方を向き、言った。
「……俊吾君が言えなかったことを私が代わりに貴方に言います。
沙苗さんをここまで追い詰めて……泣かせた貴方は──親失格です!!
そんな貴方に対し、私も宣言します──桜坂財閥グループも西園寺財閥グループとの全取引を終了させて頂きます!!
通達は父様と相談した後からとなりますが……覚悟しておきなさい!!」
「なっ………!?」
僕だけでなく詩織からも全取引の終了を宣言された誠二郎は、その場に項垂れるのであった───
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