第20話 総理官邸と皇家への訪問・3
大会議室内が爆笑の渦に包まれてから暫くして、場も落ち着いてきたのを感じ取った十蔵が口を開く。
「……幸江委員長のお陰で中断してしまった自己紹介を再開したいと思います」
十蔵のその発言に対し「えっ!?私のせいなのっ!?」という声を上げる幸江さん。
幸江さん以外に中断した理由はないだろうと思うのだが……。
それを無視する形で、残りの数名が順に自己紹介をしてった。
「皆様、お初にお目にかかります。
内閣政務官を拝命しております、豊田 万理華と申します。
皆様、以後お見知り置き下さいませ」
「お初にお目にかかります、皆様。
同じく内閣政務官を拝命しております、富永 紗夜と申します。
以後、お見知り置き下さい」
紗夜さんの自己紹介が終わり、自己紹介は残すとこ最後の1人となった時、その最後の1人となった男性が僕を睨んでいることに気付く。
僕が睨まれるようなことを、この男性にした覚えはない。
そう思っていると、その男性は立ち上がって僕を指差しながら言う。
「貴様かぁぁぁぁぁぁっ!! 俺の弟をでっち上げた冤罪で警察に捕まえさせたのは!!」
「「「「「「「「…………………」」」」」」」」
いきなりの怒声に、僕らは何が起こったのか分からずに無言となる。
なんなんだこの男は……というのが、この場にいる全員が思った筈だ。
理由が分からなかった僕は、一人称を変えて聞く。
「私のせい……とは一体、どういうことです?
そもそもの話、貴方と私とは初対面のはずですが……誰ですか?」
すると、男性は更に激高した様子で口を開く。
「自分が一体、何をしたかの自覚もないのか貴様はぁぁぁぁぁぁぁ!!
俺は阿久比 優……貴様に嵌められた阿久比 昇の兄だよ!!
真面目で成績優秀な弟だったのに……貴様は……貴様の卑劣な罠で警察に捕まってしまったんだよ!!
だから貴様は今この場で自分がやった悪事を全て告白し、俺と弟に謝罪してから罪を償え!!
そして詩織嬢を弟に譲れ!!」
ああ、あの愚か者の兄貴か……と、この男の自己紹介と暴言を聞きながら思っていた。
あの弟にしてこの兄……かとも思ったが。
一体この男は、弟がどんな理由により捕まったかについての経緯を聞いていないのか?
もし聞いていたと仮定したとしても、どうやったらここまで間違った解釈が出来るのだろうか……。
この男も弟と同じように、自分に都合が悪いことは自分に都合が良いように捻じ曲げる性格なのかもしれない。
止めに、女性を物として扱っているところまでも……。
兎に角、このままでは婚約に関する話し合いなど不可能だなと思った僕は阿久比に言う。
「貴方が何を聞いたのかは知りませんし知りたいとも思いません。
何を根拠に私が弟さんを罠に嵌めたと仰るのでしょうか?
それ以前に、私がやったという証拠でもあるのですか?
あるのなら、今この場で見せてください」
僕がそう阿久比に言うと、阿久比は直ぐに反論してくる。
「あのなぁ、貴様は自分の立場を理解してるのか?
根拠なんて、今は関係ないよな?
今この場で貴様はするのは、俺と弟に謝罪した上で弟が気に入ったそこの詩織嬢を譲り、貴様が警察に捕まることだ。
証拠なんてないが、俺が一言言えば貴様などどうとでも出来るから要らないだろ?」
あ~……この男はバカか?
どんな思考回路をすれば、こんな巫山戯た発言が出来るんだ?
僕をどうとでもする事が出来るだって?
この男……僕が皇族で皇太子という立場にあることが頭から抜け落ちてるんじゃ……。
だとしたら……ご愁傷様でした、としか言いようがない。
阿久比はまるで気付いていない……自分がどれだけこの場で愚かな発言をしているかを。
現にこの場にいる誰もが、自分に怒りと哀れみを含む視線が向けられているのかすら気付いていない。
そんな周りのことを見ていない阿久比は、更に調子に乗った口調で僕に告げてくる。
「ふん、俺が持つ権力に恐れをなしたのか?
さっきから黙りだから、きっとそうなんだろうなぁ。
所詮、貴様は唯のガキだってことなんだよ。
大人が持つ権力という力の前には抗えない……抗う術などないんだよ!
理解したんなら、さっさと俺の前で土下座して謝罪しろよ!!
そして自分が犯した罪を赤裸々に告白しろ!!
録音して世間様に向けて発信してやるからよ。
それと、詩織嬢を譲れよ?
でないと、貴様の家族の人生も終わらせてやるからな?」
そこまで黙って聞いていた僕は、これ以上貴重な時間を浪費するのは無駄だと思い、口を開こうとする。
だが、それよりも早く十蔵らが先に発言する。
「……阿久比、言いたいことは全て言えたか?
先程からの貴様の数々の発言……聞くに絶えないことばかりだな。
阿久比よ、貴様は気付いているか?
この場にいる誰もが、貴様に向ける視線が怒りと哀れみを含んでいることに」
「……君の人生、終わったようだね。
ご愁傷様、とだけ言っておくよ」
「私の、皇太子殿下に対する口の利き方を真似ての発言なら……愚か、としか言いようがないよ阿久比君。
私の場合は、本人と皇家の双方からの了解を得ているから何の問題にもならないけど……貴方はアウトだからね?
いや、了解を得ているのは貴方を除いてこの場にいる全員だったね」
「自分の立場とか権力とか言っていたけどさぁ……君に皇太子殿下をどうこうする権限なんて無いからね?
無論、我々もだけどね。
皇太子殿下をどうこう出来るとしたら……それは皇家のみだろうねぇ」
「君さぁ……皇族という意味を全く何も理解してないよね?
理解しているのなら、先程の愚かな発言は出来るはずもないんだわ。
もし、皇家からの信用を失ったら……全て君のせいだからね?
そうなったら───君は責任を取れるのかい?
君の愚かな発言で、君だけでなく我々の首も飛びかねない事態にまで発展してることを……自覚したまえ!!」
「君の弟が皇太子殿下にやったことを、私達は全て知っています。
始まりの経緯から逮捕に至るまでの全てをです。
そして貴方が今までに行ってきた数々の罪もです」
「そういうわけだから、先程の君の発言内容はしっかりと録音させてもらったからね?
だから、知らぬ存ぜぬは一切通らないから」
この十蔵らの発言を聞いていた阿久比はというと、予想通りの暴言を吐く。
「うるせぇんだよ貴様ら!!
さっきから好き放題言いやがってよぉ!!
なにが皇家だよ!何奴も此奴も巫山戯やがって!!
そんなもん俺がぶっ潰してやるよっ!!
だから貴様は消えろやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そう叫びながら阿久比は懐からナイフを取り出し、構えながら僕に突っ込んでくる。
だが、その愚かな行動は桃花の手により阻止される。
ドスンッ!!
ナイフを持つ手を捻って手放させ、一本背負投げで投げ飛ばした上で抑え込む。
阿久比は必死になって抜け出そうとするも、桃花は余裕そうな表情をしながらも抑え続ける。
「ぐえっ……くそっ、離しやがれクソ女!!
俺はコイツを……でないと弟が……。
離せったら離しやがれっ!!!」
「あ~もうっ!!暴れないでくださいよ~!!
私が俊吾様を襲う害を見逃すとお思いですか?
それに、こんな可愛いくてプリティーなメイドである私にクソ女とは……貴方、目が腐ってるのでは?
そんなんだから世の女性達に嫌われるんですよ~?」
「「「「「「「(あ、自分でプリティーとか言っちゃうんだ……)」」」」」」」
「桃花、どさくさに紛れてディスるのはやめようか」
「は~い♪ でも、事実を言っただけですよ?
それに貴方……モテたことないですよね?絶対にないですよね?
俊吾様のようなイケ───」
「───桃花、それ以上は……言わなくても分かるよね?」
「皇太子殿下がそう仰るのであれば……。
ですが貴方は愚かなことをしましたね。
皇族……それも皇太子殿下を亡き者にしようとは……。
皇族に対する数々の無礼だけでも罪な上での殺人未遂罪……弟さんよりも数倍以上、罪は重くなると覚悟していて下さいね?」
「………………くそっ」
桃花の言葉を聞いた阿久比は、それだけを呟いて以降は沈黙する。
その時、派手な音を聞きつけた警護部隊が大会議室内になだれ込んで来て、視界に入ってきた現状に混乱した様子で十蔵へと聞く。
「物凄い音を聞いてやってきたのですが、この現状は一体……。
石川総理、この大会議室で何があったのですか?」
「……阿久比が皇太子殿下を亡き者にしようとしたのだ。
それを、皇太子殿下付き護衛兼メイドである桃花殿が素早い動きで取り押さえたから、皇太子殿下にお怪我はない。
その前にもこの阿久比は、皇太子殿下に対して数々の無礼な発言を繰り返してもいた」
「なっ!? 皇族への無礼な発言だけでも罪となるのに、あまつさえ亡き者にしようなどとは……」
十蔵からの説明を聞いて現状を把握した警護部隊の隊長格の男性は、桃花に抑え込まれている阿久比に鋭い視線を向ける。
よく見れば方を震わせており、怒りに満ちているのがわかる。
現状を把握した警護部隊の隊長格に対し、十蔵が命を下す。
「この愚か者を極秘ルートで警視庁まで連れて行け!!
世間・マスコミ各社には絶対に悟られるなよ?
皇太子殿下……俊吾様の存在を公に出来ぬのでな」
「はっ!!直ぐに連行致します!
おい、連れて行け!!
絶対に逃亡させるなよ!!」
「「「「はっ!!」」」」
十蔵の命を受けた警護部隊が阿久比を立たせ、大会議室から連れ出そうとする。
その時、事が起こってから僕の背中に隠れていた詩織と沙苗が、阿久比に言う。
「貴方が俊ちゃん……皇太子殿下を亡き者にしようとしたこと、私は生涯にわたって許しません!
どれだけ愚かなことをしたのか、深く反省して下さい。
ですが、弟さんを助けたいという貴方の気持ちも分からなくもないですが、私は俊ちゃん以外の男性に靡くことはないです……とだけ貴方に言っておきます」
「私も詩織と同じく、皇太子殿下を亡き者にしようした貴方を……生涯にわたって許しません!
どれだけ愚かな行動をしたのか……刑務所で反省して下さい!」
「………………………もっと早く言って欲しかったよ、それ」
詩織と沙苗の発言を黙って聞いていた阿久比は、一言だけ呟いた後、警護部隊の男達と共に大会議室から出ていく。
阿久比が居なくなった後の大会議室内にはなんとも言えない空気が漂っており、婚約に関する話し合いを行えるような状況ではなかった。
だがその時、十蔵が僕らに頭を下げながら言う。
「皇太子殿下・詩織様・沙苗様を危険な目に合わせてしまい、申し訳ありませんでした」
十蔵の発言に合わせるように僕らに頭を下げる大臣達。
皇族として許すべきでは無い事は分かっていた。
だけど僕は言う……とても甘いとは思いながらも。
「今回は誰のせいでもありませんので、頭を上げてください。
皇族の一員として、今回の件で貴方達に処分を下すことはしません……が、これ以降の役職任命時は今以上に精査した上で任命することを命じます」
「この十蔵、しかと肝に銘じましてございます。
このような事が起こってしまった以上、今から婚約に関する話し合いを行うわけにはいきません。
ですので、政府を代表して申し上げます。
我々政府は、皇太子殿下と詩織様と沙苗様との婚約を承諾致します」
そう、最後に発言した十蔵の言葉に同意したとばかりに大臣達も一斉に頭を下げる。
それに対し、僕は言う。
「承諾して頂き、ありがとうございます」
「「ありがとうございます!!」」
僕らの婚約を承諾してくれた総理達に、僕・詩織・沙苗は感謝の言葉と共に頭を下げる。
あの出来事から暫くの時間が経った後、僕らは大会議室から正面玄関前へと移動していた。
僕らを見送る為に、総理である十蔵以下大臣達が並んでいた。
代表して十蔵が口を開く。
「此処を出発した後、次は皇家へと向かうらしいですな。
皇太子殿下方、道中お気を付けて。
そして改めて、申し訳ありませんでした」
「十蔵殿……それから皆さんも頭を上げてください。
十分に謝罪は受け取りました。
ですので、これ以上の謝罪は不要です。
急な訪問にも関わらずに迎えて頂き、改めてお礼を申し上げます。
次はもっとゆっくりとお話をしましょう!
ではまた」
そう最後に言った後、僕らはリムジンに乗り込む。
僕が最後に乗った後、ドアを閉めた運転手が運転席に乗り込む。
そして総理達に見送られながら、僕らが乗ったリムジンが静かに走り出す。
総理達の姿が小さくなるまで窓の外を見ていた僕は気を引き締める。
僕らが次に向かう皇居での話し合い次第で、詩織と沙苗との婚約が出来るかどうかが決まるのだから────
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