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第17話 責任、取ってくれるよね?

 沙苗のオーバーヒート事件から2時間後のリビングでは、復活した沙苗を交えて話の続きを再開したのだが、オーバーヒート前とオーバーヒート後の沙苗の様子が180度も違っていた。

 そのことには僕を含む全員が既に気付いている。

 うん、だって僕に物凄い熱い視線を沙苗が飛ばしてきてるからね。

 あからさま過ぎる為、全員が直ぐに気付くはずである。


「沙苗が復活したわけだけど……何処まで話してたっけ?」


 ジィーーーーーッ!

 ジィーーーーーーーーッ!!


「お爺様が私も皇族の直系だと言ったところからです、お兄様」


 ジィーーーーーーーーーーッ!!!

 ジィーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


「ありがとう朱璃……って、さっきから僕の方をジィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッと見続けてくる沙苗はなしたの?」


 いい加減に視線に耐えかねた僕が沙苗に聞くと、


「……………俊吾様!私と今すぐ結婚して下さい!!」


 と、ぶっ飛んだ沙苗の返答に僕らは、


「「「「「「…………………はい?」」」」」」


 との言葉しか出てこなかった。

 そして暫くして詩織が言った。


「沙苗さんが壊れた……。

 でも、先に俊吾と結婚するのは私」


 続けて朱璃も言った。


「オーバーヒートを起こした影響が出てしまったのでしょう」


 朱璃の次にお爺様が言った。


「沙苗嬢の身に、一体何があったのかのぅ」


 お爺様の後に兄貴が言った。


「あれは、完全に壊れたな……」


 兄貴の次に遥さんが言った。


「沙苗様の身に何があったのでしょうか……」


 遥さんの次に桃花が言った。


「わ、私の俊吾様が、俊吾様がぁぁぁぁ!!」


 桃花の次に相良が言った。


「沙苗様だけでなく桃花まで壊れてしまいましたか……。

 次のメイド護衛隊副総長候補を探さねば……」


 ……話し合いの続行は不可能じゃね、これ。




 更に2時間経った訳だが……現在時刻は深夜1時になろうとしていた。

 そして話し合いは未だに再開出来ていない。

 原因は言うまでもなく沙苗の言った言葉のせいですね、はい。

 これ以上、無駄な時間を消費する事だけは避けたいと思った僕は、約1名を除く皆に率直な意見を求める。

 因みに沙苗は僕の膝枕で幸せそうな顔をしながら夢の世界に旅立っています。


「……さて、率直な意見が欲しいんだけど、沙苗に関してどうすればいいと思う?」


 僕のこの問に対して真っ先に答えたのは朱璃であった。


「そうですねぇ~……婚約、ですかね」


「……婚約?」


「はい、婚約しかないかと思います。

 現にお兄様は、沙苗さんが抱いている想いにお気付きになられているのではないでしょうか?」


「……うん、朱璃が指摘した通りに僕は沙苗が抱いている僕に対する想いには気付いているよ?

 だからこその婚約ってこと?」


「はい、そうですお兄様。

 沙苗さんのあのぶっ飛んだ発言は、間違いなくお兄様に抱いている想いが爆発したことが原因であると私は思っています。

 それに沙苗さんの置かれていた環境を考えると……沙苗さんにとってお兄様という存在は、自分を毒親から救ってくれた王子様って所ですね。

 要は、沙苗さんにとってお兄様が初恋の人。

 だから抱いている想いを自ら閉ざした結果……今回のオーバーヒートに至ったのではないでしょうか」


「……なるほどね。

 はぁ……これはもう、僕が責任を取る他なさそうだね」


「外堀は既に埋まっている……ですね、お兄様?」


「儂も沙苗嬢との婚約には何の依存もないぞ」


「爺さんに同意する」


「私も依存はありません」


「この相良もでございます」


「俊吾様、私も依存はありません」


 そう言ってニコニコしている朱璃達から視線をある人物へと向ける。

 それは、僕と沙苗の婚約話が始まった段階で会話に参加せずに俯いている詩織にである。

 だから僕は詩織に向けて言う。


「沙苗は僕が責任を取ると決まった訳なんだが、僕はまだ責任を取らなければならない相手がいる。

 だから───詩織も僕が責任を取るよ」


 僕の言葉を聞いていたであろう詩織は、顔を上げてから僕の方を見る。

 それから静かに立ち上がってから僕の方に向かって歩いてくる。

 そして僕の右隣に座ってから僕の顔を見上げながら言う。


「俊ちゃん……私ね……婚約って言葉が耳に入った瞬間、一気に悲しい気持ちになったの……。

 その時に思ったの───俊ちゃんに私の想いは届かないって。

 ううん───永遠に届かないってね。

 だから私はっ!!俊ちゃんにお別れしようかと思ってた!!

 この想いが届かないならっ!!俊ちゃんに届かないならこの想いは捨てようって!!

 10年間もの間に溜めたこの想いを全て捨て去ろうって!!



 だけど俊ちゃんの言葉を聞いて……この想いは捨てなくても良いんだって……。

 私のこの想いは……ちゃんと……俊ちゃんに届いていたんだって……分かったの……。

 俊ちゃんは私の事を見ていてくれていたんだって分かったの……。

 ようやく私は……この溜め込んだ想いを……俊ちゃんに伝えることが出来る……。


 世界のどの男性よりも俊ちゃんのことが1番大好きですっ!!

 だから───私のことも幸せにしてね、俊ちゃん♡」


 そう。僕に告白した詩織の表情は、憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとしながらも、目からは涙が(こぼ)れ落ちていた。

 そして僕は()()に言う。


「ああ───生涯に渡って君を幸せにし続けるよ。

 それと───沙苗、君のこともね」


「っ!?はい、旦那様!!」


 実を言うと沙苗は起きていた……詩織の声によって。

 だからこそ、僕はそう言ったのである。

 ……とりあえず旦那様呼びはやめようね、沙苗。

 それから……好きって言葉は恥ずかしくて言えないから、今回は許して欲しい。



 沙苗と詩織と僕との間では婚約の約束を交わしたのだが、今すぐに正式な婚約手続きを行うことは出来ないのである。

 その原因は言わずとも分かる通り、僕が皇太子だからです。

 日本政府と皇家の両方からの承認を得なければ、沙苗と詩織は僕の婚約者とは認められないないからです。

 だから沙苗と詩織とは恋人以上婚約者未満という関係になるのかな。

 あ、今更だけど僕らが住んでいるこの日本は、少子化対策の一環で一夫多妻制が認められてるよ。


 それはそうと、お爺様と兄貴と遥さんはさっきから何処に電話を掛けまくってるの?


『ああ、儂だよ儂、繁信じゃよ。

 お願いしたいことがあったから電話したんじゃが……今すぐに俊吾と詩織嬢、沙苗嬢との婚約手続きをして欲しいんじゃよ。


 ……なに?今すぐには出来ないじゃと?

 そんなのお主の力でどうとでも出来るであろう?


 うん?私でも出来ることと出来ないことがある……じゃと?

 何を戯けた事を言っとんのじゃ貴様はぁぁぁぁ!?

 孫の将来が掛かってるんじゃぞ!!

 出来なければ総理大臣である貴様の弱み……おお、そうかそうか……やってくれるのか!!

 では頼むぞ』


 ……お爺様、総理大臣に脅迫しちゃだめでしょ。

 次は兄貴か。


『夜分遅くにすいません、はい。


 ……ええ、緊急案件だったので、ええ、ええ、はい、そうなんですよ。

 それで案件なんですが……例の件で警護対象に詩織嬢と沙苗嬢の追加及び警護人員の増援をお願いしたくてですね、はい。

 ………はい?無理ってどういう事ですか?


 私の弟が誰かなのかを分かってて言っているのですよね、それ。

 ……ええ、ええ、分かっているのなら……その婚約者も対象ですよね?


 ……え?弟以外は対象外、ですか……なるほどなるほど。

 では警視総監の弱み……ええ、ええ、そうですか!

 それではよろしくお願い致します、はい。


 では、夜分遅くに失礼致しました』


 兄貴までもが脅迫してるよ……警視総監に。

 して、次は遥さんか。


『夜分遅くに失礼致します。

 例の件でご連絡した次第でして、はい、はい、はい、そうなんですよ~!


 それでですね、当主様が詩織様と沙苗様と婚約する運びとなりまして……ええ、ええ、はい。

 つきましては法的手続きをしていただけないかなと思い……え?無理?って、どういう事ですか?

 当主様の正体は先輩もご存知ですよね?……それでも無理なものは無理?……そうですかそうですか。


 では私が握っている先輩の弱……え?やっぱりやる?それも今すぐに?何を差し置いても最優先で?

 流石は私の先輩ですね!……ええ、ええ、それではよろしくお願いしますね?せ・ん・ぱ・い♪


 では、夜分遅くに失礼致しました』


 ……何でこの3人は、揃いも揃って脅迫してるんだよ。

 お爺様達に脅迫された3人は確実に協力して事に当たるね、きっと。

 そう思っていた所で、脅迫電話をしていた3人から声を掛けられる。


「俊吾よ、詩織嬢と沙苗嬢との婚約は正式なものになるから、なにも心配することはないぞ。

 儂に任せておけば大丈夫じゃ!はっはっはっ!!」


「おう俊吾! お前らの警護体制を強化しといたぞ!

 だから身の回りはもう安全だからな!はっはっはっ!!」


「俊吾様! 詩織様と沙苗様との婚約に関する法的手続きは完了しました!

 ですので、堂々と詩織様と沙苗様を婚約者だと紹介出来ますよ!!」


「……………………」


 3人の言葉に対して僕は何も答えない代わりに肩を震わせる。

 僕が一言も喋らないことに不安になった3人が僕に声を掛けてくる。


「しゅ、俊吾よ……何故、何も言葉を発しないのじゃ!?」


「何で無言なんだ俊吾。

 さてはお前、嬉し過ぎて声も出せない状態なのか?

 だったら俺も嬉しいぜ!!」


「あ、あの、俊吾、様?

 一体、どうされ…………終わったわ、私達」


 お爺様と兄貴は僕の変化に気付かなかったようだが、遥さんだけは気付いたようで顔を俯かせている。

 だけど時すでに遅し、という事で僕は怒りの大声で言う。

 因みに詩織と沙苗と桃花と相良は既にリビングから離脱済だったりする。


「お爺様~?兄貴~?遥さん~? 僕は前にも言ったはずですよね?

 脅迫交渉は禁止だと、ね。

 だけど今回、またしましたね?


 てことで………3人ともその場に正座しやがれやぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


「「「ヒィィィィィィーーーーーーーーーーッ!!」」」



 その後の瀬戸崎家のリビングからは、3人の絶叫が数時間に渡って絶えることはなかった────








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